KARELU


 蛇口は締めて、水を止めなきゃ。

 誰かが出しっぱなしにして去って行った。

 わたしの心から出っぱなしの愛を、

 溜めることもなく掬うこともなく、

 止めることもなく去って行った彼のように。


 落書きだらけのトイレの扉、スプレーの匂いがまだしそう。

 ひび割れた便器のタンクから、パイプに鈍色の水が伝う。


ああ、ここでも水漏れ。


 お腹の奥が疼く。

 ずっと待ってる、満たしてくれるものを。

 

 心の傷から、愛が出っぱなし。

 だけど、傷跡にはならないで、ずっと膿んでいてほしいの。

 私が本気なことに、彼にはずっと気づかないでいて欲しいの。



 絞められた首筋の跡、噛まれた肩口の歯形、腰の手形、ぜんぶ、消えないで欲しいの。

 お腹の奥をずっと満たして欲しいの。

 

いっそ、握りつぶして。


 そしたらさ、あなたのさ、永遠の心の傷に、わたしはなれる。



 流されてパイプに吸い込まれていくペーパーくらい、薄っぺらい夢物語ね。

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