第15怪
「僕の家『こどもの森養護施設』は妖怪の子供たちの為の施設です。訳あって妖怪の群から離れた子や、人間にまぎれて生活し過ぎたせいで妖怪になりきれなかった子。僕のように混血の子などさまざま」
真野はそんな施設に物事つく前から暮らしていた。
「混血って、実はめちゃくちゃ疎まれていて……妖怪の世界じゃ居場所がないんです。恥晒しとして殺されるのが普通なんです」
美玲は何も言えずに真野を見つめるしかなかった。頭の中に感情が溢れかえり、言葉に出来ない。時に当事者にしか分からない気持ちが存在する。
「だから、僕なんかが闇ブローカーに狙われるのなんてしょっちゅうだし。守ってくれる人がいないのが当たり前でした。特に天使の羽は高値でやり取りされるし、混血なら殺しても天使族から報復もされませんからね」
「そ、それは違う……と思う! 何が違うかって言ったらよく分かんないけど、なんか……なんか! 今日の真野くんは死んでも仕方ないって諦めてる気がする!」
美玲は必死に訴える。彼がどんな思いで今まで生きてきたのかは誰にも分からない。だが、死んでもいい人間など何処にも居ないことは分かった。
「あはは……そうですかね、でも本当に死んでも仕方ないんです。むしろこの歳まで生きられたことが奇跡ですから」
いつかこんな日が来ると思っていたと真野は言いたげだった。
「でも死ぬより怖いのは、みんなに嫌われることです。気持ち悪いでしょ? 妖怪と人間の混血なんて」
「そんなこと絶対ない! 怪研のみんなも真野くんの本当の姿見ても嫌わないよ!」
美玲は自分の重要な秘密を打ち明けた真野の勇気に触発され、更に話す。
「そんなこと言ったら……さっき闇ブローカーが言ってたけど、実は私も普通の人間じゃないっていうか……不老不死の仙薬? っていうものらしいんだ……」
「あ、はい。知ってます」
「魂が薬になるとかわけわからん……って知ってます?! 知ってる!?」
「いや、そうっぽいなって薄々……妖怪の世界でもそういう噂はありますし」
人間の世界では「不老不死の壺並べ」とオブラートに包まれているが、妖怪の世界では不老不死の仙薬とはかぐや姫の故郷、月の国の人々の魂であることが知られている。ほとんどの月の国の人間が富士山で燃やされ、薬となる魂は月に帰ったが、ただ一人生き残った者がいるという話は有名だったのだ。
「不老不死に憧れを持つ妖怪は沢山居ます。今後も狙われる可能性は十分ありますね。その点だと僕と似てるのかも。あ、失礼でしたよね、すみません」
「いやぁ、この前も赤坂に狙われたばっかだし……って今の状況で言えたことじゃないんだけどね!」
やっと二人に笑顔が戻る。しかし安心は出来ない。誘拐されている事には変わりないのだから。
「遅いなぁ、二人とも」
青崎家の庭先に集まる颯斗、部長、純。先ほどの電話から時間が経っているが美玲と真野が現れる気配がない。
「京子呼びにいったのかもな、聞いてみるか」
部長が京子の携帯にメッセージを送る。既読が付くと電話が掛かってきた。
『来てませんけど。私も探すの手伝いますから花火残しといて下さいね』
手分けして二人を探していると物陰に隠れている怪しい男を部長は発見した。いざという時のためのハリセンを使う時が来たかと強く握りしめる。
「せめてミサキとツーショット撮るまで帰りたくないな」
ゆっくり近づくと、その正体が分かった。
(あ、アイツ! 真野の父親とか頭おかしい発言してたまさきとか言うやつ)
「お前だろ、ストーカー男! 真野返せぇぇぇ! このハリセン様で成敗してやる!」
物陰から勢いよくハリセンを頭上に叩きつける。バシンッと大きく音を立てた後、二連三連とパシパシパシパシパシパシトドメを刺す。
「ゴキブリはこうやったら死ぬんだ!」
「は、何!? ゴキブリが何だって?! ちょ、一旦辞めろガキ!」
十分間乱闘をした末、事の経緯を説明すると、まさきは協力する姿勢を見せた。
「このまま会えずに帰るのも嫌だったからな、よし! 協力してやる!」
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