第1怪
現代。
「ねぇ、美玲! 交換留学生と転校生。どっちがうちらのクラスに来るのかなぁ!」
ボーっとしていた
「えっ? あぁ……そういえば今年東京の進学校、
「どこに魅力があったのか。東京の人の考えは分かりませんわぁ。交換留学は前から決まってたことだけど転校生は突然だよね、二学期の途中に。一緒の日になっちゃったとかタイミングが可哀想ね」
そんなお節介にも聞こえることを話しながら朝のホームルームの時間を迎えた。交換留学生も転校生も、美玲と同じ二年生らしい。美玲の学校は二学年が二クラスしかない為、必然的にどちらかがクラスに入ることになる。すると教室に担任が入ってくる。
「ほらお前ら、席につけー。紹介するぞ」
交換留学生か? 転校生か? 男子か? 女子か?
皆の緊張感が高まっているのを感じる。一気に時間が遅くなったようだ。入ってきたのは短髪の赤い髪を揺らし、紫の瞳はキラリと輝き、新たな学友たちを見渡す男子。女子は感激し、男子は落胆する。ただ一人、美玲だけは他の生徒と反応が違った。一目見ただけで分かる。例え成長していたとしても。
「紹介するぞー、交換留学生の……」
「純っ!?」
美玲は驚きのあまり席を立ち、大きな声で反応してしまった。
「そうそう、純……ってなんだ円城寺。急に立ち上がって。え? お前ら知り合い?」
驚きと困惑の波が教室中に行き渡る。ザワザワと噂をするクラスメイトたち。私は何かを話そうとするが、頭の中で様々な思いが巡り、言葉に出来ない。
「あ、えっと。すみません……どうぞ続けて?」
「おぉ、そうか? じゃあ交換留学生くんに自己紹介してもらおうかな」
美玲が着席したのを確認して担任が話を振った。男子が口を開く。
「初めまして、交換留学で緑沢中学校に来ました。
(やっぱり、純なんだ。離れ離れになった私の幼なじみ)
「そうだったのか、じゃあ知り合いいるかもなぁ。円城寺、お前友達ならこの学校のこと佐々木くんに色々教えてやれよ。同じクラスなんだし」
「えっ!? 私ですか!」
それ以外に誰がいるんだ、と担任が見てくる。クラスの女子からは嫉妬の目で見る子もいた。
それから質問コーナーに移った。クラスメイトが各々聞きたいことを発表し合っている。その中に一つ、誰もが気になっている質問が上がった。
「部活は何にするつもりですか?」
片田舎の中学校、一学年、二学年は二クラス。三学年に限っては一クラスしかない。どの部活動も人数が足りないので一人入るだけで大きく変わる。運動部は特に高身長の純を欲しがるだろう。
「そうですね、せっかくなら藤聖院にない変わり種の部活動に入りたいですね」
変わり種、そう聞いて誰もが頭に浮かんだ五文字があった。
しかし誰も口を開かない。こんな奇天烈な部活動、東京の優秀な進学校には無いだろう。変わり種過ぎるためおそらく彼は入るだろう。しかし、運動部からしたら死活問題ここで逃すには惜しい人材だ。ゆえに誰もその部活動の存在を言わない。そこに担任が割って入る。
「怪奇研究部にすれば? うちの学校を代表するバカが作った部活なんだ。どの学校探してもあんな部活ねぇって」
「へぇ、面白そうですね。一体どんなバカメガネが作ったのか……」
「あ、そういや円城寺。お前怪奇研究部員だったな! 運命か!? 運命なのか?!」
先生、そういう冷やかしは良くないと思います。なんて口にも出来ないうちにドンドン決まっていく。こうして怪奇研究部は運動部にブーイングをされつつ新たな部員を手に入れた。
怪奇研究部、略して
「なぁなぁ、怪研入るって本当? あ、俺
「あぁ、そうだよ。よろしく山中くん」
「くぅ~! 弓道部来て欲しかったぁ、あんなインチキ部活なんかじゃなく」
「インチキ?」
美玲はその発言を聞き逃さなかった。
「ひっど! 仮にも部員がいるのにインチキとか!」
「事実だろ? 『心霊依頼承ります』とかアホらしいって! 現に依頼に来る先生たちだって雑用とかだけでしょ」
怪奇研究部、通称なんでも屋。去年設立され、まだ一年半ほどしか経っていない部活動だが、活動内容はこれといってパッとしないものばかりだ。部活動と称して夜に廃墟や心霊スポットに回っているが、それは学校の管轄ではない。そのため昼の正しい部活動の時間では活動しないことが多く、来る依頼も雑用ばかりなのでインチキ部活として知られている。純は少し考えた後、山中に言った。
「インチキか試す?」
「面白そうだな! やろやろ!」
ニヤリと笑って純が話し出した。
「お前、爺ちゃんの墓参り行ってないだろ。爺ちゃんってのは母方のほうね、父方の方はまだ生きてるっしょ」
「え? 確かに母さんの父さんは十年前に死んでるわ、墓参り……も行ってないかも」
「行った方がいいぞ、それが供養になる。行くなら爺ちゃんが生前好きだった八つ橋持っていけよな」
山中は不思議そうに、怪しそうに純を見る。どうせインチキだと思いたいが純の言ったことは確かに当たっている。
「もう俺は怪奇研究部の部員だから、もし当たってたらこれからインチキとか言うなよ」
「母さん、急に変だけど爺ちゃんの墓参りって行った方がいいんじゃない?」
家に帰り、山中は母に墓参りに行く提案をした。
「うーん、そうねぇ。アンタが大きくなってからは行ってないわね、でも忙しいから無理よ。お爺ちゃんだって分かってくれるわ」
「だ、だけどさ。行った方がいいんじゃない? 八つ橋持って!」
「あら? アンタにお爺ちゃんが八つ橋好きだったの言ったかしら?」
するとソファで話を聞いていた父が言った。
「週末行ってみるか。流石にお義父さんも寂しいだろうし、先延ばしにしてたらいつまで経っても行かないだろ」
こうして墓参りに行くことが出来たのだった。その夜、山中は不思議な体験をすることになる。二度とインチキだと言えなくなるような体験だった。夢の中、覚えていないはずの祖父の顔が浮かんできたのだ。知らないはずだが確かにその人が祖父だと分かる。祖父が山中に声をかけた。
「ありがとうなぁ、大きくなったんだなぁ。会いに来てくれるのか、じいちゃん待ってるなぁ」
祖父は優しい笑顔をして消えていった。
翌朝、学校で山中はクラスメイトと昨日起きた出来事を話していた。
「いや、マジなんだって! 本当に霊能力はあるかも知れん!」
「いや、あんな話したから意識してただけだろ」
山中は純に詰め寄り、小声で耳打ちする。
「お前、もしかして霊能力者……?」
「さぁ? どうだろうね。純平兄さんに比べたらまだまだだよ」
純が意地悪な笑顔で答えた。
魔界。生前罪を犯した者が死後に収容される場所。
「ジュンが京都入りしたようです」
そう言うのは片眼鏡をつけ、艶やかな黒髪を後ろで束ねた秘書のような面持ちの青年。
「そうか、これでピースは揃ったね。そろそろかな」
赤い眼をした男が太陽系縮尺儀を見ながら返す。漆黒の髪は吸い込まれそうな美しさを放ち、光の通りにくい魔界でも存在感を放っていた。何やら怪しげな会話だ。ジュンという人物が交換留学生の佐々木純のことなのだろうか。はたまた別の誰かなのか。平安時代に止まった時間がまた動き出そうとしている。
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