せつな




 刹那の出来事だった。


 公園で初めて会ったポメラニアンと短い時間だけしか遊んでいなかったものの、運命を感じた俺は言ったのだ。


 なあ、おまえ。うちのこになるか?


 刹那の出来事だった。

 今までおとなしかった。

 いや、もしかしたら、この時すらも、おとなしいままだったのかもしれない。

 ポメラニアンが突如として、俺の喉に喰らいついたかと思えば、顔を幾度も幾度も素早く振り回しては、肉を喰い千切ったのだ。


 刹那の出来事であった。

 ポメラニアンだったはずなのに。

 そこには見知らぬ男性が立っていたのだ。

 口に赤いものを銜えたまま。

 口から赤いものを滴らせたまま。




 それが最期に俺が目にした光景だった。











(2024.5.30)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る