いかり




 ああ違うな。

 恐怖をなぞる事だけしかできないのは。

 恐怖を包み込む厚い膜が発生したのは。






















 ポメラニアンになりたくない。

 疲労を感じないように様々な店、品物、書物、映像を頼ったが、その努力が虚しく散って、俺を殺した人間はポメラニアンになった。

 ポメラニアンになった俺を殺した人間は、家から飛び出すと、公園へと向かった。

 とぼりとぼり。

 力なく歩く。

 家族は家に居た。

 家に居たのに、俺を殺した人間を癒そうとはしなかった。

 ただ一言。

 行ってらっしゃいと言った。

 家族は俺を殺した人間を癒せるとは思わなかったのか。

 ただ無関心だったのか。

 よくはわからない。

 自己責任。

 大人だったからこそ余計に家族に頼るなと思っていたのだろうか。

 とぼりとぼり。

 ポメラニアンになった俺を殺した人間は力なく歩き続ける。

 外を歩く誰も彼も気にも留めない。

 外を歩く誰も彼も電子機器に夢中である。


 日常の光景。

 けれど、下から見上げれば、非日常の世界に迷い込んだようだった。


 ポメラニアンになった俺を殺した人間が公園に辿り着く。

 コンクリートから芝生へと変わる。


 ああ何やら見慣れた光景だなあ。

 のんきにそう思っていた俺は、しかし、或る人物を目にした瞬間。

 どす黒くどろどろとした臭く火力を伴う熱が身体を一気に駆け走ったかと思えば、とぐろを巻いて、居座り続ける。

 俺が居た。

 殺される前の、俺が、居たのだ。






 そうだ。俺は、俺を殺した人間の恐怖を、感じる事なんてできやしない。

 ずっと、ずっとずっとだ。

 俺は、俺を殺した人間への怒りが、俺を殺した人間の恐怖への感知を拒んでいるのだから。




 知りたくない知ったところで、











(2024.5.30)



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