第27話 思い出の中の声

 「君が玖凰政人くおうまさと、もトいNO.3の娘の玖凰冬奈カナ?」


 私に気づくと、その男は不気味に笑った。その笑みに、私は思わずたじろいでしまう。


 「NO.3……はよくわからないけど玖凰政人の娘は合っているわ」


 動揺の中でなんとか紡いだ私の言葉に、男は眉尻を下げて笑った。


 「カカッ! まサかあのゴミの娘が来るとは! こイツももしかしたら素質があルカもシレナイな! 玖オウ冬奈君、歓ゲイシよう」


 男は踵を返し、建物の中へ入っていく。私は警戒しながらも男に続いた。


 「こっチだ」


 玄関の扉を開けたすぐ後には青と赤の扉があった。男は奇妙な雰囲気を出している赤い扉を開け、中へ入って行った。私も中へ入ると、長い廊下があった。


 床も壁も天井も全て緑青色。物などは何も無く、あるのは奥の紫色の扉だけ。男はその扉へ近づき、ポケットから鍵を取り出して鍵穴へ入れ、開ける。


 その奥には部屋があった。5畳ほどの広さの部屋の中心には木製の机や椅子があるが使われた形跡があまり無い。まるで少し広い取り調べ室のようだ。


 「そこの椅子に座ってクダさい」


 男は部屋の中央にある椅子に指を差した。私は大人しく椅子に座る。男は私とは反対の椅子に座った。


 「サテ、早速貴女を調査し——」


 「その前に、貴方は誰?」


 男は顎に手を当て、少し考えた素振りを見せた。


 「私、デスか……まあ適当にNO.0、いえ、0《ゼロ》とおヨびくダさい」


 ゼロ……ジャスパーはシックスと言っていたけど何か関係があるのかしら……。


 「そんなことよりも貴方の調査デスよ」


 ……さっきからゼロの話し方がおかしい気がするのは気のせい……?


 「まあタントう直入にシツ問しまスが、貴女、能力をモッテイませんか?」


 「ッ!!」


 なんで知って……いや、さっきゼロは私の父の名前を知っていた。なら、この能力とゼロは関係があるのだろう。


 「その顔、持っているのデスね。そのノウ力はなんデスか?」


 『貴女は普通じゃない……! なんで私の子が……!』


 「……言いたく無いわ」


 「それはイケマせんねぇ。貴女の目的はNO.3やNO.6のヨウなそコらヘンの凡人とは違う『物』になる事でしょう? なら、言ってクだサい」


 「……お父様は、ここの出身なの?」


 「エエ、そうデスよ。能力持チノ実験体3匹目」


 お父様や、NO.6になる事……6は……もしかしてジャスパー? なら、あいつもここの……。


 「玖凰フユ奈クん?」


 保健室に行ったあの日から、何故か私はおかしい。この能力を使いたくも、言いたくも無い。


 「……あナタ、もしかシて過去に何かアりマシたか? 例えば……シタシい誰かからキョゼつされたと——」


 「黙って」


 圧と怒気を込めてゼロをギロっと睨む。


 私の発言と瞳を見てゼロはニヤっと不愉快な笑みを浮かべる。


 「図星のよウデスねぇ。まあそんなことモヨイのです。もう1つ質問デス」


 「……何?」


 「貴女、なんの前兆もナシに過去に43度以ジョウの熱がでタコとはありマスか?」


 「……え〜と……」


 確か……あったような……。医者からは何故生きているのかがわからないと言われた事が。


 「あるとしタラ、それはナン歳の頃デスか?」


 「……私の記憶が合っていれば小学6年生だったかしら」


 「な、なんト!」


 ゼロは椅子から勢いよく立ち上がり、身を乗り出して来た。


 「素バラしい! 貴女はかナリ良い素材のヨウダ!」


 「……今の質問に何の意味があるの?」


 「ン? ああ、言ってマセンでしたね」


 ゼロは椅子に座り直して口を開く。


 「ここの実験体達は能力を持つ代わりに43度以上の熱がフク作用として出るのデス。そして、年齢がタカければ高イホどその素材は上質とナル」


 「私はここの施設の出身じゃ……」

 

 「NO.3からの遺伝でショウ。あいツも12歳だったはず……」


 お父様と……同じ……。私が……?


 「さア、早速こチラへどうぞ! サあ早く!」


 ゼロが私を急かしてさっき入って来た扉とは別の扉へ私を誘導する。だが、さっき入ってきた扉開き、誰かが入って来た。その男はゼロに近づき、何かを耳打ちした。


 「ナンダと?! ちっ! 使エナいゴミどもが!」


 その後、ゼロは急いで部屋を出て行った。そして、私と顔をフードで隠した謎の男がこの空間に残る。


 「お前、早く帰れ」


 急にその男が言った。私は訳がわからず、首を傾げる。


 「なんで? 私には、行かなきゃならない場所があるの」


 「ここは、駄目だ。ここは危険すぎる。お前がくる場所じゃない」


 「貴方にそう言われる筋合いは無いわ」


 私はその男を睨むが、全く怯む様子が無い。男はそのまま続ける。


 「お前はこのままだと死ぬ。あいつらは頭がおかしい。自分の為なら他人の命でも平気で切り捨てる。さあ、早く」


 「だから貴方にそう言われる筋合いは——」


 「お願いだ、冬奈」


 「……え?」


 なんで私の名前を……最初にあった男では無いはず……。それに、この声……どこかで……。


 「さあ、早く。私があいつらを誘導しているうちに」


 私は何も言えずにその男についていく。何かを言い返す気は何故か起きなかった。


 来た道を戻り、紫の扉をその男は開けた。そして赤の扉も開け、私に外に出るよう促す。


 私が外に出ると、そこには——


 「ヤア、NO.3。駄メジャ無いか、実験体をニガソうとしちゃ」


 銃を持っている男や、屈強な男達に囲まれていた。そして何故か、ゼロも居た。


 NO.3……? じゃあ、この人は私の——

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