第67話 民兵
ホーキン村に着いた翌日。
ホニシスは朝一番、朝食を揃って食べる際、食事が並ぶ前に民兵を100出すと言う事を了承し、騎士達に告げた。
それを聞いて騎士達は当然だという態度を崩さないまま、もとからある軍の規定のような書類を渡し簡単にサインとシグネットリングで印を押して締結させた。
本当に朝飯前の出来事だ。
書類上、簡単に終わらせた取り決めだが・・・これから色々と準備をしていくのだろうという事は分かった。
農民たちにはこれから知らせをして準備してと、民兵に選ばれた者たちは半ば強制的に僕らへと着いてくる事になる。下の者からしたらたまったものではないはずだ。
その様子が分かるように、契約が締結すると慌ただしく動き出した使用人たちはこれから各家を回って民兵を集めるのだろう。
上の人は言葉と紙きれ一枚で物事を動かしてしまう。これなら物語のように熱く演説し、くさい芝居ながらも人の心を動かすような方が気持ち的に僕は納得できるなと思った。
朝の食事は昨晩とは違い、ゆったりとした食事を騎士達もとる。
卵を割って焼いたものに、パンに果物。塩見の野菜いりのスープ。やはり領主なだけはあり、朝から良い物を食べている様で満足いく食事だ。
特に新鮮な果物なんて、軍ではまず食べることができない。すべて保存がきくように乾燥させられた物しか口にできていないので、色とりどりの果物が朝食にも並ぶ食事に僕は大満足だった。
食事が終わり、僕達の帰還は明日という事になる。騎士は領主には今日中に兵や物資の準備を急がせるように伝えると各自の部屋で移動、行軍に備えて休むという事だ。
「おい、魔道兵。昨日話した通り怪我人を介抱してやれ。かなり数がいたが立派な労働力であり、戦力だ。のうホニキス殿」
「あぁ・・・アイシャ、魔道兵を村へと案内してくれ」
「承知しました、旦那様」
「あっではよろしくお願いします」
村へはアイシャさんが連れて行ってくれるようだ。まったく知らない人という事でもない為、昨晩少しでも喋っておいてよかったと思った。
だがそんな所で、一人の騎士、ホース卿が名乗りを上げる。
「あっ魔道兵には警護をつけろとのギレル参謀の命がある為、私がその役を務めさせてもらいます」
さもそれらしく言うのだが、本音はアイシャさん目当てなのは明らかだ。
「うむ、では頼むぞ。わしらは休むが、ホニシス殿女の使用人を何人かつけてはくれぬか」
そういいながら騎士らは食卓をホニシス卿と出て行ってしまった。
食卓に残った僕らは、一カ所に集まり挨拶を交す。
「あっアイシャさん。私はチャールズ・シープスと申します。以後お見知りおきを」
ここで初めてホース卿の名前をしってしまったが、馬ではなく羊だったようだ。適当に名前を付けたが少し惜しいなと心の中でクスリ。
「よろしくお願いしますわシープス様。ではノエルさんもご準備はよろしいですか?」
「はい、あっ少し果物を持って行ってもいいですか。とても甘くてまた後で食べたいと思いまして・・・」
「なんとみすぼらしい考え、お前恥ずかしいとは思わないのか」
「・・・すいません」
どこか口調もキリっとした騎士の口調で続けるホース卿もといシープス卿。だがそんな僕にアイシャさんは救いの手を差し伸べる。
「えぇ構いませんよ、ここでとれた果物をお気に召して頂き光栄ですわ」
そういいながら、近くにあった果物が入ったカゴをこちらに持ってきながら
「どれがお好みでしょうか」
と、数ある果物から選ぶようにと僕のように向けてくれた。
そこで黙っていないのがシープス卿。先ほどの言葉を撤回するかのように僕よりも早く手を伸ばす。
「これは立派ですな、いや私も実は果物に目がなくてですね。シャクリ、これはうまい」
一つの林檎をとると、いい音を鳴らしすぐにかじりついた。
「それは良かったです。ノエルさんも好きなだけどうぞ」
「で、では・・・」
と、僕も林檎を2つをカバンに入れて、葡萄の大粒を8個ほどを空になったドライフルーツ入れのポーチに入れた。図々しいとは思うが、これも兵になってから見につけた事だ。手に入る時に手に入れておかないと、遠慮などをしていまうとこの世界では何も手に入らないのだ。
「ありがとうございます、保存食がきれていたので助かります」
「みっともないやつだな・・・仮にも魔道兵だろ」
僕の行いを騎士は咎めるが、魔道兵になったからと言って食料難になれば魔道兵も歩兵も変わらない。やはり自分の食い扶持は用意しておかなければいけないのだ。
「あら、それなら用事が終われば果物を乾燥させた保存食を用意いたしましょうか?」
「えっ本当ですか?ぜひお願いします」
「うふふ、そちらもこの地の特産品ですのできっと喜んでいただけるかと思います」
「あっ私もドライフルーツには目がなくてですな」
そしてアイシャさんの言葉にすぐに手のひらを返して、のっかってくるシープス卿に少し嫌な気持ちをいだき僕らは村へと向かった。
領主邸から村へと近づくと、村人たちは慌ただしく準備を始めている様子。馬車へと乗せているが、それは農作物を収穫したりで使う帆馬車ではなく、ワゴンのようなものだ。
簡素な木で出来たキャビンは四方を囲むただの箱のように見える。それに騎士達が乗る馬よりも遥かに小さい馬。
そんな馬車へ民兵となった農民たちは自分達の荷物を積んでいっていた。農具をやはり武器替わりに準備している人が多数の様子だ。
「アイシャさんは生まれもホーキンなのかい?」
「いえ、私は西の港町の出身です」
「ほーそれは遠い所から嫁いでこられましたな」
王国のほぼ間反対に位置する場所へときたもんだと、僕は静かに2人の会話を聞いていた。領主の館を出る際に、アイシャさんが少し僕らから離れた時にシープス卿に黙っていろと釘を刺されたからだ。
相槌も何もせず、2人が行く先を黙ってついて行き、村の騒がしさに目を向けていた。
「くっそいきなりだもんな」
「収穫時期には帰ってこれるからいいじゃねーか」
「あっ騎士とあれが噂の魔道兵だぜ、まだ子供じゃねーか」
「あんた、これ忘れてんよ。しっかりしなさいよ」
「父ちゃん、剣なんて使ったことあるの?」
僕らを見て、僕らに対する言葉なども聞こえてくるが、農民たちはわりかし民兵になるのを受け入れている様子だ。愚痴は確かに聞こえてくるが、どこか割り切っているような様子。
それとどこかさっさと終わらせて帰るかなんて、簡単な戦に赴くような心構えにも聞こえてきている。
騎士はホニキス卿にも言っていたが、死ぬことの方が少ないという言葉。あれはまるっきり嘘だと思えてしまう。
敵にも魔導士がいる事から、軍も無傷で勝利とはいかないのは誰しもが分かっていると思っていたが・・・ホニキス卿やここの人達はそれを知らない様子でいるのだ。
騙している事に僕も加担しているという事実に、せっせと準備している人々に僕は目を背けた。
しばらく歩き、昨日ここで静かに騎士の一人が声を掛けていた広場へとたどり着く。
そこには怪我人らしき人達が固まっていて、僕の治療を待っているような列が出来ていた。
「思ったよりも多いですね・・・」
恐らく30人はいる。僕の癒しの光の一回の限度ギリギリな人数だ。
「やる前から泣き言か、全く情けないやつだな」
グリモワールの事知らないくせにと言い返せたらどんだけ気持ちが楽になるだろうか・・・
そんな事が出来ない僕は、ずっとシープス卿の言葉を聞き入れる事しか出来なかった。
「私が聞いていたのは14人ですので、恐らく噂を聞きつけた民兵に選ばれていない人も混ざっているかもしれません」
「そうですか、では私が愚かな貪欲な民に進言いたしましょう」
そこでまたシープス卿はアイシャさんに良いところを見せるかのように、一歩前にでると堂々とした立ち振る舞いで、怪我をして並ぶ民たちに言い放つ。
「よいか愚民共、民兵として戦場に赴く為に傷の治療をするのだ。関係のないものはここから去れ!」
ファング卿やホニシス卿とメインで話を進めたリーダーのような騎士、命名リーダー卿はこんな立ち振る舞いはしないだろうなと思えるような言葉を口にする。
そんな言葉をかけられた民兵や農民たちも黙ってはいられない。
「なにが愚民だ!怪我を治せるなら一人も二人もかわらないだろ!」
「そうだ、俺達は無理矢理、戦に連れていかれる身だぞ!」
「お前が治療するわけではないだろ、たかが騎士が!」
「な、なにを~愚かな奴らめ!!!」
農民たちの反論にさらに熱くなったシープス卿は、すぐにでも剣を抜きそうだ。
やんのかお前、お前こそとヒートアップしていく農民とシープス卿を見て僕は行動していた。
「まっ待ってください。ここにいる最初に並んでいた人は全員僕が治療します!」
僕は咄嗟に叫んでいた。ガヤガヤとした大人たちの声にかき消されない様に必死に大声をはりあげた。
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