第56話 食料難

第四王子の行軍は難航を示していた。


行く先々で奇襲を受け、道が塞がっていたりとルート変更を余儀なくされたりと思うようにいかなくなっていた。


状況的には追い詰められている、その言葉がぴったりと合う状況になっていた。


ギレルさん達の会話を小耳に挟んだ時は、この道を選ばされているようなとまずい状況を語っている所を聞いてしまい後悔した。


既に引き返す道もなく、あのギレルさんが頭を抱えて悩んでいたのが印象的だった。


その中で直近としての一番の問題は食料だった。すでに魔道兵だからという優待遇はなくなり、僕らもお湯とほぼ変わらないのではないかという麦がゆを兵士と混じってすする。


いや、兵士達はたまに狩りをしているようで今では兵士の方がいい物を食べていることさえあった。


「ノエル、元気ですか」


「グルーム。こんばんは、ギリギリって感じです、傭兵の方はどうですか」


「僕らも食料が尽きてるね、贔屓にしている行商人もこの行軍にはついてこれず補給が全くできてない状況だよ」


僕らは密会ではないが毎日、顔を合わせて会話をする中になっていた。


2人で馬車の上に登る。ここは僕らだけの特等席、ギレルさんに一度見られ目があったがため息だけ吐かれ何も言われなかったので公認という気持ちでいた。


グルームはゆっくりとフードをおろす。ここは僕達だけの空間、グルームの傷をジロジロとみる人はいない。


「軍も傭兵も変わりませんね」


「そのようだね。あっ僕はこれ持ってきました、少ないけど半分こにしよう」


グルームは干し肉を引きちぎり、僕へ半分差し出す。


「えっいいの?」


「いいよ、それに明日はこの近くにいるフライトレスという魔物の狩りを軍と傭兵合同で狩りをするらしいからね、今が僕のとっておきを食べる時なんだ」


「合同で狩り?」


「そう。・・・硬いねこれ。聞いてないかなまだ?」


「聞いてないよ。でも、もしかしたら後で知らされるのか、魔道兵は駆り立てられないのか」


「また特別待遇?いただけないな~」


グルームは眉毛を上げて、茶化してくる。グルームとは同い年、だが月が早いグルームは少し自分の方が年上なんだというような感じを出す素振りを見せていた。


「特別待遇ってわけじゃないけど・・・決まりのようなもんだから仕方ないじゃん」


「分かってる分かってるふふ」


「もう茶化さないでよ。僕も残り少ないですが、これを出しましょう」


ハンカチを広げ、その上にドライフルーツとナッツを一掴み落とす。


「ノエルのとっておきですか、頂くね」


「どうぞ、僕もこのお肉貰います・・・かたい・・・」


すでに魔道兵の心得は全て話、グルームにも響くところはあったようだ。だから僕らが今こうやって話をするのはほぼ雑談のようなものばかり。


「フライトレスってどんな魔物かしってる?」


「う~ん・・・僕も隊長に簡単に聞いた話では、飛ばない鳥だとききましたが。僕よりノエルのほうが王国人なら詳しいのでは?」


「僕は全くですよ、王国と言っても広いから故郷周りしか知りませんもん」


「そういえば農家の生まれと言ってたね」


「はい、はぁ~・・・故郷の話をするとすぐに恋しくなりますよ。グルームはそんな事はありませんか?こんな異国の地にいて」


「僕?僕は故郷に対してはそうは思わないけど・・・ちょっと違いますが、師匠とは会いたくなりるね」


「あぁ親代わりみたいなもんって言ってましたもんね」


「うん、厳しくて強くて賢くて僕の目標なんです」


「グルームのお師匠さんの話は熱がこもって長いですからね・・・」


「そんな事言わずに師匠のすごいところ聞いてよ!」


「うわぁ始まっちゃった・・・」


グルームの師匠の話は確かにすごい物だ。傭兵にしておくには勿体無いと思う功績ばかり、それはグルームが大袈裟に喋っているものもあるかもしれないが、それでもすごいなと思えることが多くあった。


グルームの喋り出したら止まらない師匠話を堅い干し肉を噛みながら聞くことに。


「そういえばお師匠様のお名前は聞いてませんね」


「えぇ!?僕としたことが、師匠はエリオットです。名前からもどこか気品がありますよね」


・・・・?どこかで聞いた名前のように思えるが・・・思い出せないので気のせいかな。


「名前すらも褒めるとは、生粋ですね」


「師匠はすごいですから!」


「そうですか・・・」


もうグルームの師匠話はお腹いっぱいになった頃に、傭兵のアスクがグルームを呼びにきた。


「グルーム、明日の打ち合わせだ」


「あっもうそんな時間!?ノエルまた明日!合同の狩りにでるなら一緒にやりましょう」


「はい、僕も話を聞いておきます。おやすみなさい」


「おやすみ!」


グルームは馬車の荷だいからぴょんと降りて行った。


お師匠様話は置いといて、グルームとの会話は楽しい時間となっていた。アルスさんとは別の友達のような感じに思え、グルームが魔道兵に入ってくれればいいのにと思う事もある。


だが、国も違うし生き方も違う。僕の生活が傭兵より軍の方があっていると思うように、彼もまた軍より傭兵の方があっていると思っているのだろう。




僕も荷台からおりると、ギレルさんからの連絡事項で魔道兵も集まった。夜にこうやって集まるのも珍しい事の為、狩りの話なのかもしれない。


「明日はこの近くで食料調達を行う。相手が魔物じゃからの、魔道兵からも出てもらおうと思っとる。ベルトリウス、ノエル、ヘンリー3名は明日騎士と一緒に狩りへ同行してくれるかの」


「はい」


「了解です」


「は~い」


返事はしたが、どういう人選なんだろうか?


「そういう事じゃからのよろしく頼むの。解散じゃ」


何ともあっさりとした集会だった。


一応また明日の朝やるだろうからかな?


でもグルームが一緒になればと言っていたし、ちょっと楽しみではある。


「ヘンリー、私の分沢山とってくるのよ」


「分かってる~、はぁ~お腹すいた~」


「何がお腹空いたよ、このお腹、こっそり何かたべているのでしょ」


「え~失礼だな~」


アンリさんが小太りなヘンリーさんのお腹をつついている様子は、この2人は仲がいいようだ。



王国の魔道兵は現在8名。ギレルさん、ベルトリウスさん、僕、ヘンリーさん、アンリさん。それと先の戦で手に入れた物とセシリアさん達亡くなった魔道兵のグリモワール合わせて3冊を、ギレルさん主催のもと現地オークションやあの時生き残った騎士が拾ったりとで魔道兵の新兵が3人新たに加わっていた。


こう思うと僕やアルスさんが魔道兵になったタイミングはすぐに砦攻略が始まったから、悪かったと思ったが。今の魔道兵なり立ての兵士上がりの人をみると、魔道兵としての好待遇を受けれておらず僕らはまだましだったのだと思えた。

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