1-4購入した情報は

 その放課後、僕と櫓とで喫茶リュヌを訪れた。母の友達、卯月さんが経営している縁で僕も小さい頃から来ている店だ。草壁のアルバイト先でもあるけど、今日は来ていないみたいだ。

 僕たちは四人掛けの席に向かい合うように座った。


「オムライスと、今日のケーキ、アイスコーヒー、アメリカンで」


 今のでざっと一五〇〇円だ。しっかり食べますね櫓さん。

 ここで僕に店員の視線が刺さった。

 これ以上お金を使いたくないけど、入店したなら頼まないわけにもいかないしな……。


「あ、アイスコーヒーで」


 もうすでに口の中に苦いものが入っているかのようだった。

 気を取り直し、早速本題に入る。


「それで、どんな話なの?」


「最近ちょっとした噂を耳にしてね。草壁美頼と西沖幸恵に好きな人がいるらしい」


 ……。

 思っていたもの違った。違いすぎた。


「そういう話?」


「興味ないか? 払い戻しは無しだぞ」


「ああいや、なんか意外だと思って」


「そんなことは無い。こういうのが一番高く売れるんだ」


「だからって売り付けなくても」


「君を贔屓にしていることは確かだからな。値引きはしないが面白い話を知らせるぐらいはする」


 いやいや。知らせるじゃなくて買えって言いましたよね。

 苦言を呈さず話の続きを促した。


「僕の右隣の方と部長がどうしたんですか」


 こう表現してみると僕と関わりがある二人だ。あ、だから僕に売ったのか。気を遣うようにってことか。


「結論から言うとその相手は君だ」


 …………?

「なんの?」

 素直に分からず、素直に訊いた。


「二人の意中の相手」


 なんでだろう。よく理解できない。なんか冷や汗みたいなのが出てきた。


「アイスコーヒーです」


 なんかコーヒー出てきた。あ、これ頼んだやつだ。

 一口飲んで、独り言のように口から言葉が出た。


「草壁と? 幸恵さんが? 好き?」


「そうだ」


「僕を?」


「その通りだ」


「なんで櫓が言っちゃうの」


「最初がそれか。それが私の稼業だからだ」


 櫓は実に潔い。


「最初から話すと、この噂はちゃんと調べないと本当のところはよく分からなくてね」


「苦労したから巻き上げようってこと?」


「そう捉えてもらっても構わないが、こう考えることもできる。あまり周りに広まっていないということはつまり、二人とも確定させていない、匂わせている程度だということだ」


「僕の行動次第でどうにでもできるって言いたいんでしょうけど、それを掘り返したんですか」


「この私が気になってしまったからな。徹底的に追求しないと気が済まなかった」


「櫓にプライバシー保護の概念は無いの……?」


「それについてはより多く払えば考える。地獄の沙汰も金次第というだろう」


 目の前の人閻魔か何かだよ……。


「ただ、今回は金だけということでもない。君にも悪くない話だと思ってね」


「櫓さん……僕のために?」


「どちらを選ぶか、それとも選らばないのか今から楽しみだ」


「そうだと思ってましたよ」

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