第2話 乙女ゲームの世界へ②

この人は乙女ゲーム「Amour Tale(アムールテイル)」のヒロインの母親、名はマドレーヌである。すなわち予想と既視感が正しければ私はこの「Amour Taleアムールテイル」の世界にヒロインとして転生したことになる。


Amour Taleアムールテイル」は中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界を舞台にした、「ザ・ファンタジー乙女ゲーム」である。ヒロイン(名前はプレイヤーの設定に依存する。苗字は一律「ベルナール」)は、このリアムール王国で母親と暮らすしがない一平民だった。しかしある日特異な魔法適性があることが発覚し、魔法学園に入り、なんやかんやあってこの国の王子達や宰相の息子、侯爵家の長男や金持ち商人などの攻略対象者と親密になっていくのである。


私はこのゲームをプレイしたことがある。ただ知的好奇心でやってみた程度なので、ざっくり話の流れは覚えているが、そんなにやりこんでいたわけではない。確か第1王子のnormal endとbad endをクリアしたところでやらなくなった気がする。どうせならtrue endもやれよと思うが、飽きてしまったものは仕方がない。


さて、私はそのヒロインとなったので、順当に行けば攻略対象者のうちの誰かと恋愛しゆくゆくは結婚することとなる。だがそれはあまり私の好む展開では無い。前世にはさほど未練はないし、恐らく戻っても死体と化すだけなので転生自体は受け入れよう。だが、1人の男性、言ってしまえば他人に自分の運命を預けきりがちな乙女ゲームの展開は好かない(だいぶ偏見もあるだろうが)。それに選択肢が (攻略対象者の数)×(endの種類) 分しかない人生などつまらないでは無いか。あとそもそも「ヒロインのカナ」の今日以前の記憶は無いし、恋愛ゲームの内容も詳しくは覚えていない。


それならやることは1つ。


本来のシナリオをあえて無視し、自分の好きなように生きよう。そのためにはまず……



「カーナー!!はーやーくー!!大事な日なのに遅れるわよ~」


ここでハッとする。母親を待たせているのを忘れていた。急いで下に降りる。


「ほら、ご飯よ!いっぱい食べていっぱい大きくなるのよ~」

「おか……ママ、私もうこれ以上はほとんど成長しないよ、既に身長165cmだし」

「あらそうだったわね、もう15だものね、でも食べて!」

「うんありがとう、いただきます」

「……?」


そう、ヒロインは齢15、身長165cmのスリム体型で、髪は父親譲りの青みがかった黒髪、目は母親譲りの紫色をしている。父親は平民ながら成り上がって王国の騎士として勤めていたが、「今」から3年前、ヒロインが12のときに勤務中殉職した。


父親の死後、母親が土魔法で作った土人形を従えて経営している商店の収入で、食いっぱぐれない程度には生活できている。


ヒロインは魔法適性が確定する15歳までは特に頭角を見せることなく、一般の学校に通いながら時折母親の店の手伝いをしていた。その後この世界では珍しい水属性・光傾向の魔法適性と膨大な魔力量が発覚した彼女は、貴族が多数を占める「魔法学園」に入学するのである。


この世界の魔法は「属性」と「傾向」が存在する。「属性」は多い方から順に土・火・風・水属性、「傾向」は光・闇である。属性はほぼ完全にランダム、傾向は本人の人格や価値観、取り巻く環境、多少の遺伝に依存する。属性は一生変わることがないが、傾向は変化することもある。


「属性」は字の通り土属性は土を操り、火属性は炎を出し…という塩梅である。


一方「傾向」はそれ自体がなにか力を持つ訳ではなく、属性を持った魔法の使い道が変わる。


例えば火×光なら周囲を明るく照らしたり、炎の壁で人を守ったりすることが得意なのに対し、火×闇は敵を黒い炎で焼きつくしたり、炎を纏った剣を生成したりといった具合だ。


ざっくり言うと攻撃が得意なのが闇、それ以外が得意なのが光だ。ただ逆の立ち回り(黒い炎で壁を作ったり)もやろうと思えばできるので、あくまで「傾向」である。優劣も善悪もない。


水×光のヒロインは、水による城を覆うほどの防御壁(魔法耐性付き)、強力な回復ポーションやバフ付与のポーションの生成、挙句は治癒効果のある雨を降らすなど支援系魔法でチート級の力を保持していた。それほどの力を持ちながら、作中では最終章を除き、ほとんど魔法の行使をせず攻略対象者に頼りきりで、実にムズムズしたのを覚えている。


……とバトルマンガ好きが講じてダラダラ説明してしまったが、そんなわけで私の属性と傾向は………まてよ。先程母親は私が15歳だと言った。国民みんなが必ず受け、受けることによって属性・傾向が分かって初めて魔法が使えるようになる「神の啓示」(仰々しい名前だがこれが無いと魔法が使えないのであながち間違いでもない)も15歳の時にある。


「ねえママ、私の神の啓示っていつだっけ?」


「あらカナったらほんとにねぼけてるのね!今日この後行くんでしょ??」


……マジか。完全に失念していた。思えばさっきママが大事な日に遅れるとか何とか言っていた気がする。まあ、どの道避けられるものでもないし避けるものでもない。ここは素直に行くとしよう。


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい!」


朝食と支度を終え、私は神の啓示を受けに教会へと向かった。

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