新たな決意

 

 

 Vtuberが何かを視聴者さんたちに聞いたら、なんだか変な雰囲気になってしまった。……もしかしたらVtuberは一般常識の言葉なのかもしれない。そんな不安がよぎった。……ちょっと、妹の雪菜に聞いてみよう。


 雪菜はアウトドア派の人間で、よく他の子たちと外で遊んでいて家にいることが少ない。その為おそらくネット文化に疎く、一般的な言葉については詳しいはずだ。もし、そんな彼女がVtuberを知っていたのならそれはネット文化だけで通用する言葉ではなく、一般的に使われる言葉だという事だ。


 僕はハーブティーを準備してから、雪菜の部屋のドアを軽くノックした。すると、「はーい」という声と共に部屋の中からドタバタと音が聞こえた。そして数秒後、扉が開かれ、僕の妹である雪菜が姿を現す。


「お姉ちゃん、どうかしたの?」


 彼女は少し眠そうな目を擦りながら僕の方を見つめてきた。


「なんだか最近疲れ気味のようだからね。良かったら、これ飲んでよ」


 僕は彼女にハーブティーが入ったカップを手渡す。


「ありがとう。ちょうど喉が渇いていたところなんだよ。でも、どうしてこんな事を?」

「……ちょっと、聞きたいことが」

「ん? なになに?」


 雪菜は不思議そうな表情を浮かべながら、ハーブティーを飲み干す。そして、興味津々といった様子でこちらの話を聞いてくる。


「あのさ、Vtuberって、知ってる?」

「……えっ!?」


 僕の質問を聞いた瞬間、彼女の目が見開かれた。


「う、うん。知っているけど……」


 雪菜は明らかに動揺しながら答える。……ネットに疎そうな雪菜でも知ってるってことは、やっぱりVtuberは狭い範囲で使われているネット用語ではなく、一般的に使われている言葉ってことじゃん……。僕は頭を抱えたくなる気持ちを抑えつつ、話を続ける。


「そっか。じゃあ僕にVtuberのことについて教えてくれないかな?」

「えっと……それは、その……」


 雪菜は明らかに困惑して冷静さを失っていたので、僕は彼女にハーブティーのおかわりを注いであげる。すると、彼女はそれを口にして冷静さを取り戻した。


「あっ! 別に嫌だったら話さなくていいんだよ」

「べ、別にそういう訳じゃないんだけど……分かった。教えるよ」


 雪菜が、Vtuberについて詳しく説明してくれる。そして、僕はそれを頭の中でまとめる。


 要するに、Vtuberとはイラストを使って配信するYoutuberの事のようだ。……それって僕じゃん。そりゃみんなに突っ込まれるわけだよ。


 僕は恥ずかしくなり、顔が熱を帯びるのを感じた。


「あ、あれ? なんかお姉ちゃんの顔が赤いような気が……」

「き、気のせいだよ。それより、ありがとう。おかげでスッキリしたよ」


 これ以上追及されたら困るので、話を打ち切りハーブティのセットをもって雪菜の部屋から退出する。……どうしよう、これから僕はYoutuberではなくVtuberを名乗るべきなのかなぁ。


 僕は、自分の部屋のベッドに飛び込み色々と考える。……というかそもそも、なんでVtuberとYoutuberを分ける必要があるんだろう。どっちも自分の好きなものを紹介して視聴者さんたちと気持ちを分かち合うという点では同じだと思うんだけどな。


 ……でもまあ、別れている以上は気にしていてもしょうがないか。それに、Vtuberってなんだか響きがカッコイイよね。……よし、決めた! 今度からはVtuberとして配信をすることにしよう。どうせ、YoutuberもVtuberも本質的には同じなのだから。Vtuberを名乗ったって、いいよね!


 

 早速僕はSNSのプロフィールを変更する。そして、『Vtuberと名乗ることにしました』と呟いた。


「ふぅ……」


 一息ついたところで、自分に届いた一通のメッセージを確認する。時々まきチャンネルのアカウントに届くのだ。たいていは応援のメッセージなので読んで元気をもらっている。


 しかし、今回届いたのは応援メッセージではなく、質問であった。応援メッセージの次に多いのが僕に対する質問なのである。……だけど、今回の質問に、僕はちょっと困惑してしまった。


《まきちゃんはマシュマロ食べないんですか?》


 ……どうやら、この人は僕がマシュマロを食べるかどうかを確認したいらしい。マニアックな質問をする人もいるんだなと思いながら、僕は素直に質問に答えていく


《マシュマロ良いですよね。甘くてふわふわで、とっても美味しいです。……でも、最近は食べてませんね。僕の家ではマシュマロを買う習慣もないですし。マシュマロの他にも、キャラメルとか金平糖とかも食べる機会が少ないんですよね、美味しいのに》


 僕は、少し悩みながらも正直に答える。すると、すぐに返信が届いた。


《そうなんですか。……あの、私は甘いお菓子が好きなので、まきちゃんがどんなお菓子を食べてるのか知りたくて。私はマシュマロが大好きだから、まきちゃんもマシュマロ好きだったらいいなって思ったんです》


 その文面を見て、僕は微笑む。この質問を送ってきてくれた人は可愛らしい人だなと思い、心がほっこりと温かくなった。そこで、僕はさらなる返信をすることにした。


《マシュマロの話を聞いていたら、食べたくなってしまいました。今度スーパーに行くときはマシュマロを探してみることにします。美味しいものとのめぐり逢いの機会をくれて、ありがとうございます》


《嬉しいのは、私の方。大好きなまきちゃんが私の大好きなお菓子を食べてくれるなんて。……と言うのは冗談。マシュマロは、SNSの機能の事。いわば質問箱。SNSでマシュマロのサービスを使う事によって、まきちゃんに関する質問を集めることが出来るの。動画のネタにもなるし、視聴者とのつながりを作る事にもつながるから試してみてね》


 ……ジョークと共に、マシュマロについての解説が送られてきた。……えっ、もしかして僕、SNSのサービスを食べ物と勘違いしていた? やばい、恥ずかしい。顔が熱くなり、僕は頬に手を当てた。


 恥ずかしさを感じながらも、情報を送ってきてくれた人の為に僕は返信する。


《分かりました。ぜひ使ってみます!》


 僕はそう返事をして、まきチャンネルでマシュマロの募集を始めることにした。



 質問が来るのには時間がかかるだろうし、その間他の事をしよう。

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