【狐狸妖怪】ハーブティーの紹介をしたいと思います

「……あっ、1000人越えちゃった」


 僕は自分のチャンネルを見て、思わずそんな言葉を漏らした。チャンネル登録者の数字を見ると、いつの間にか1,000人を越えていたのだ。まだ一回しか配信していないので、かなり早いペースだと思う。これも、狐野妖香さんの影響に違いない。


 あの後色々と調べたのだが、どうやら動画サイトで『狐野妖香』と検索すると一番上に僕の初配信の動画が出て来ていたようだ。『狐狸妖怪』というゲームの名前をタイトルに入れていたせいだろう。確かに、『狐野妖香』と『狐狸妖怪』はそっくりだ。僕自身も、どっちがどっちか一瞬分からなくなるほど似ていると思った。


 そして、その事がきっかけで僕のチャンネルの登録者が爆発的に増えたらしい。ちなみに、何故初配信の狐野妖香さんが大きな影響力を持っていたかというと、彼女の属しているアニマリが、注目度の高い企業だったからであると思われる。……企業の力って、凄いんだね。まあ、そんな訳で、僕も狐野妖香さんと同じようにチャンネル登録者数が爆増してしまったのである。


 確か、チャンネル登録者が1000人を越えたら収益化が可能なんだっけ。どこかで聞いたことがある気がする。ちょっと調べてみよう。


 ……あっ、総動画再生時間が4000時間に足りていないと収益化が出来ないんだ。僕の動画はまだそこまで再生されていないので収益化はまだまだ先になりそうだな。早く収益化してみたい。


 僕のお小遣いは月に1000円しかないので、ゲームやYoutuberさんの紹介した商品を買ったらすぐになくなってしまう。でも、収益化したうえで配信者として成功することが出来ればお金に余裕が出来るはず。そのお金でかっこいい服を買ったり、メイクを試したりしてみたいな。


 ……でも、僕がYoutuberになったのは動画配信を通して多くの人たちと関わって生きたいからだ。収益化ばかりに気を取られているわけにはいかない。僕は出来る限りの配信をみんなに届けるだけだ。


「ふぅ……」


 一通り考え終わったところで、僕は椅子にもたれかかった。少し疲れてしまったのだ。慣れないパソコンの操作をしていたからだろうか?……そうだ! せっかくだし、ハーブティーを飲みながらゆっくりしようかな。


 そう思った僕は台所に行き、ポットのお湯を沸かしてハーブと混ぜてティーを作る。そして、いつものように、ゆっくりと味わうように飲む。……うん、やっぱり美味しい。今日も最高の出来だ。これぞ、正真正銘の『僕特製ブレンドのハーブティー』と言えるだろう。


 ……ん、気持ちが落ち着いてきたかも。よし、そろそろ動画を投稿しよう。






 僕はパソコンの前に座り直してから生放送の準備をする。普通の動画を投稿することも考えたが、今回は視聴者さん達とのつながりを優先して生配信することにした。いつかは普通の動画も投稿してみたいな。



 狐野妖香さんが動画で口にしていたハーブティ―。彼女の視聴者さんたちの間で話題になっていた。……僕は、それに関する配信をこれから行う。あの後彼女に許可を取ることが出来たのだ。


 僕は視聴者さんとのつながりを強くするため、話題を積極的に取り入れる配信者になることに決めた。だから、このチャンスを逃すわけにはいかない。配信画面を開き、配信開始ボタンをクリックする。




「こんばんは。まきチャンネルです。……あっ、もう既にコメントが沢山流れてる」




コメント

・待ってました!!

・まきちゃんの初配信以来だ!

・楽しみにしてます!!

・前と同じく実写+巫女美少女か。今日もお部屋がきれいですね

・今度こそゲームの紹介?



 どうやら、放送開始と同時にたくさんの人がコメントしてくれたようだ。……良かった、みんな僕の動画を見に来てくれていて。初配信と比べて視聴者さんが少しだけ減っていたけれど、思っていたほどは減らずに済んだみたい。きっと、みんな僕に期待してくれているってことだよね。


「皆さん、ありがとうございます。早速始めましょう」




コメント

・おっ、ついに始まるのか!

・いよいよハーブを紹介するのかな

・でも、動画タイトルにゲームの名前があるんだよな

・まさか、タイトルは釣りか?

・まきちゃんが釣りなんてするわけないだろ

・……一体、何が始まろうとしているんだ?



「どうやら、皆さんタイトルに困惑しているようですね。……ところで、僕がゲーム好きってことは覚えていますか?」


 僕は視聴者さんたちに問いかける。



コメント

・ゲーム解説系Youtuberって初配信の最初に言ってたよね

・俺氏、寝坊中断しか覚えてない

・お姉さまの作ってくれたハーブティ―が好きなんじゃなかったっけ

・↑それは妖香ちゃんだろ

・俺は狐野妖香のネタとして見ていたから詳細は覚えてない。僕っ子JKってことだけ覚えている

・まきちゃんは可愛い声をしているし、癒される。だが、ゲーム好きってのは正直忘れてた

・↑ゲーム好きJKってのは魅力的な属性じゃねえか。忘れてしまうなんてとんでもない



「どうやら、何人かには忘れられているようですね。……でも、大丈夫です。今回の配信で僕がゲーム好きだってことを強く印象付けてあげますから」


 僕はあくまでもゲーム解説系Youtuberだ。それを、もう一度思い出させる。僕は、ゲームの楽しさを皆に伝えたい。……そして、埋もれてしまった名作のすばらしさをみんなに理解してもらいたい。僕の言葉が誰かの心を動かすことが出来るってことを証明したいんだ。



コメント


・気合が入っていて草

・ハーブティーはどうしたんだ……

・まきちゃんにとってハーブを吸うのはゲームだった?

・↑リスクが大きすぎるからゲームよりスリリングだな

・ゲーム解説というジャンル自体がかなり危険だと思うのだが

・ゲームに関する動画は権利関係がめんどくさいからね



 癖の強いコメントが僕の動画に届く。どうやら大きな勘違いをしている人たちがいるみたい。誤解を解いておかないと。


「僕は違法なハーブなんて吸いません。それに、これから解説するゲームの動画投稿ガイドラインも調べておきましたから。ルールを守れば自由に配信・解説が出来るみたいですよ」



コメント

・えっ、マジで!?

・流石まきちゃん、仕事が早い

・これからゲームを解説する? ハーブティーは?

・タイトルは釣り……じゃないよね

・まきちゃんが違法ハーブに手を染めないなら安心だ



「もちろんタイトルも釣りではありません。僕がこれから紹介するのは、ゲーム『狐狸妖怪』に出てくるハーブティと、それに使うハーブの解説です」


 そう、僕はゲーム解説Youtuber。なので、これから始めるのは僕の一押しのゲームである『狐狸妖怪』の解説で、それに登場するハーブが、今回僕が紹介しようと思うハーブなのだ。




コメント

・『狐狸妖怪』ってどんなゲームだっけ?

・『狐狸妖怪』はファンタジー系のRPGだよ

・主人公を操作して敵をやっつけるタイプ

・恋人を作ってイチャイチャするゲーム

・部屋や村を模様替えして楽しむゲーム

・推しのキャラクターを愛でるゲーム

・↑分からないからって適当に解説するな

・↑みんなの言ってることが矛盾しまくってるじゃねえか

・いや、俺そのゲームの経験者なんだがそれら大体あってるぞ

・えっ?

・えっ?



「皆さん、凄いですね。『狐狸妖怪』はかなりマイナーなゲームなのに、知ってる人ばかりで嬉しいです。予習してきてくれたんですか?」




コメント

・えっ?

・えっ?

・ん?

・みんなバラバラなこと言っていたような気がするけど……

・えっ?

・んんっ?



 狐狸妖怪は様々な要素をうまく融合させることに成功した傑作ゲーム。パッケージイラストやゲームタイトルから内容が連想しにくく、癖の強いシステムが目立つためあまり知れ渡っていないゲームだが、知っている人が視聴者さんたちの中にいるとは。正直、かなり嬉しい。まあ、大半は知らない人たちなのだが。


「ふふっ、混乱している人もいるようですね。……それでは、簡単にストーリー説明します。普通の村人である主人公の元に美しい女性がやって来るところから物語が始まり、二人は長い交流を通して特別な関係になっていきます。しかし、ふとしたことで彼女が化けギツネであることが発覚し、村の掟により村人たちは主人公に彼女を殺せと命じる。そこで主人公がとった行動は……? 正直なところ、無理のある展開や一部のキャラクター設定の矛盾などのマイナス要素はいくつかある。ただ、この手の物語としてはかなり完成度が高く、主人公の心情描写を丁寧に描きつつ、物語のクライマックスで一気に畳みかける技術には……」




コメント

・長すぎるっ!

・簡単に説明します?

・まきちゃん、めっちゃ早口だった

・長い上に分かりにくい。それに、口調もおかしい

・まきちゃんの説明が早すぎて逆に分からなくなった

・もっと分かりやすく

・『狐狸妖怪』は理不尽ゲーに片足を突っ込んでいるんだよな

・↑分かる。序盤の選択肢ミスると死ぬほどつまらないからね。でも、中盤以降は神ゲーになるよ

・まきちゃんは好きなんだけど、話が長すぎない? 最後の方口調もおかしくなってるし

・それほどまきちゃんにとってそのゲームがお気に入りなんだね

・普段のまきちゃんはゆっくりとして聞きやすい声を意識しているのに

・なんか、最後の方口調もおかしくなってなかったか?

・もしかしてまきちゃん、酔っているのか?



 ああ、やってしまった。熱意を持つあまり、空回りしてしまった。これじゃあ、ゲーム解説系Youtuber失格だよ。せっかくみんな僕の動画を身に来てくれたのに……。恥ずかしさで顔が熱くなる。……だけど、今更後悔しても遅い。こうなったら、最後までやり通すしかない。それが、ゲーム解説系Youtuber、まきチャンネルなのだから。



「……すみません、つい熱が入ってしまいました。冷静に、簡潔に説明しますね。『狐狸妖怪』は人生の縮図です。狩りをして、食料を生産して、恋愛をして子供を作る。フリースタイルのRPGです」



コメント

・まきちゃんが語りだしたぞw

・『狐狸妖怪』の面白さを語るまきちゃんかっこいい

・まきちゃん、ゲームをプレイするときもまきちゃんに違いないな

・↑当たり前だろ。何言っているんだお前

・↑まきちゃんが可愛くてカッコイイことは当然のこと

・好きなゲームを生き生きと解説するまきちゃん、可愛い

・好きなものについて楽しそうに話すまきちゃん、大好き

・↑おい、俺の方が好きだからな




 うう、みんな僕の事ばかりで解説に関してのコメントがほとんどない。やっぱり複雑なゲームである狐狸妖怪の魅力を伝えるのは難しいのかな。……ここは、アプローチ方法を変えよう。


「それじゃ、動画タイトル通り『狐狸妖怪』に出てくるハーブティーについて解説しますね」


 みんなには、ハーブティーという狭い範囲から『狐狸妖怪』について知ってもらおう。そこから、少しずつ『狐狸妖怪』の世界を広げていってもらおう。


「まず、このゲームで登場するハーブは全部で10種類あります。それぞれ、特徴や味、効果などを紹介していきましょう」


コメント

・おお、やっと始まった

・ハーブの解説か

・俺は途中で挫折して投げ出したわ

・『狐狸妖怪』はゲームとしては普通に面白いから安心しろ

・↑攻略サイトを見ながらじゃないといいエンド見れないんだよなぁ

・ようやくタイトル回収



「まずはレッドハーブです。今から絵を描きますね……っと。こんな感じです」


 僕は近くにあった紙に、色鉛筆でゲームに出てきた赤いハーブのイラストを描く。そして、配信画面に張り付ける



コメント

・上手い

・Vtuberなのにアナログイラストかよ

・普通のVtuberがイラストを描くとき基本はデジタルなんだよなぁ

・Vtuberであり実写勢であるまきちゃん

・普通にうまくて草

・絵がうまいまきちゃん最高!

・俺もイラスト描いてみたけど、上手く描けなくて落ち込んだ

・俺も俺も

・↑まきちゃんと比べたらダメだって




「これは、人々の心にある情熱を呼び覚ます効果のあるハーブです。ゲーム内では主人公が敵と戦うときに、このハーブを飲むことで戦闘意欲を高めることができます。他にも、料理に使うことで隠しステータスを上げることができるんですよ」



コメント

・情熱を呼び覚ます効果のあるハーブ?

・あっ・・・(察し)

・やばいハーブだな

・ハーブを飲む?

・吸うの間違いでは

・ゲームだからな。そこは目をつむってやれよ



「そしてですね、このハーブには重要な役目があってですね。何と、ヒロインの一人である少女サキュラに自分からプロポーズしてもらうために必要なアイテムなんですよ。通常であれば好感度最大である、フラグをきっちりと建てたヒロインに特定のアイテムを渡すことで主人公側からプロポーズするのが基本なんですけれど、条件を果たしたうえでこのハーブから作られたハーブティーを彼女に与える事によって、サキュラの方からプロポーズしてくれるんですよ。普段は受け身の彼女が、ハーブによって自分の気持ちに素直になり主人公にアタックする様子はとても尊く、彼女の隠された魅力が……」



コメント

・また早口になってますよ

・好きなゲームを語って早口になるまきちゃん尊い

・普段のまきちゃんとは大違いだ

・まきちゃんのテンション高いな

・まきちゃんの言うとおり、確かにそのシーンは良いよね

・見たことないけど見てみたい

・……でもさ、ちょっと分かりにくくないか? そんなの攻略見なきゃわかんないじゃん

・確かに

・このゲーム、そういった不親切な仕様が多くありそうだな

・面白い要素は攻略情報に頼らずに見れるようにしてほしいよな



 ああ、またやっちゃった。気を抜くと早口になってしまう。Youtuberとして、早くこの癖を無くしてしまいたい。……でも、今はそれより大切なことがある。一人のゲームファンとして、みんなに伝えなければならない



「……確かに、分かりやすいゲームはとても魅力的です。直感的に楽しめてプレイする感覚がとても気持ち良く、僕もそういったゲームを愛しています。しかしっ! 狐狸妖怪の不親切さにもすっごい魅力があります。確かにレッドハーブの説明にはヒロインがプロポーズしてくるなんて書いていません。だけど、全くのノーヒントというわけではありません。仲良くなると彼女が発するセリフ『いつか情熱的なアプローチをしてみたいな』、レッドハーブの説明文『人々の心にある情熱を呼び覚ます効果のあるハーブです』、これら二つから想像することが可能なのです。自力でこのことに気づいてサキュラのアプローチを見たときの感動は計り知れないものがあり、不親切なゲームでしか味わえない感情なのではないかと思うのです」



コメント

・おぉ

・おお

・分からん

・早口助かる

・まきちゃんの情熱だけは伝わったぞ

・まきちゃんが楽しそうで何より

・情熱があるのはいいことだぞ

・まきちゃんの言葉が胸に刺さる




 みんなのコメント欄には僕の熱意に対する感謝のコメントが増えていった。みんなに想いが伝わったのかな。だとしたら嬉しい。それから、僕は次々とハーブとハーブティーについて説明していった。『狐狸妖怪』に出てくるハーブ達と、それにまつわる小ネタを。



「……っとまあ、こんな感じで10種類のハーブについて紹介しました。次は、それぞれのハーブを使った料理を紹介していきましょう。例えば、レッドハーブを使って作った料理には……」



 僕は『狐狸妖怪』に出てくるハーブ料理についても解説していく。コメントには『狐狸妖怪』のゲームプレイ動画を見ていない人も多いのか、どの料理も新鮮な反応だった。僕は、そんな視聴者の反応を見て嬉しく思いながら解説を続けた。


「……はい、これで以上です」


 

 僕は一通りの解説を終える。……はぁ、スッキリした。


コメント

・面白かった

・知識のある人の話は面白い

・早口が多かったな

・早口の切り抜きがはかどるなぁ

・Vtuber界のゲーム王だな

・Vtuberってこんなにゲームに詳しいんだな

・ゲームは詳しくないけど、Vtuberの知識ならあるぜ



 初配信のころから思っていたんだけれど、何なんだろう、Vtuberって。やっぱりYoutuberの打ち間違いなのかな? でも、それにしても多すぎる気がする。……今は気分もいいし、みんなに聞いてみようかな?


「あの、皆さん。Vtuberって何ですか?」



コメント


・えっ?

・え……

・今更?

・いきなりどうしたの?

・まさかの質問w

・まきちゃん、Vtuberでしょ?

・えっ

・あれ? 知らない?

・まきちゃん、大丈夫か?

・Vtuberじゃないならまきちゃんは何者だよ

・まきちゃん、Vtuberである狐野妖香ちゃんのネタを使ってるよね

・【悲報】まきちゃん、Vtuberを知らなかった

・きっとまきちゃんは哲学的な答えを求めてるんだよ

・まきちゃんは哲学系Vtuberだった?




 Vtuberという言葉の意味を聞いた僕に、みんなが困惑してしまった。……変なこと、聞いちゃったかも。


「あ、いえ、すみません。今のは忘れてください。その、少し気になっただけですから……」



コメント

・まさかの展開

・切り抜きチャンスだぞ

・まきちゃん、本当に大丈夫?

・心配だ

・何かあったらすぐ言ってね

・俺達が力になるから

・まきちゃんの相談に乗るぞ



 たくさんの優しいコメントが流れていく。……なんだか、恥ずかしい



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る