第5話 森の奥へ
二人とも俺だったと分かってからは更に修業が捗る様になった。
試してみたいけど、高い負担がかかるなどを理由に遠慮していたような修行も、気兼ねなく相談し、やるようになった。
また、何かと便利だろうと、修行中に光の初級魔法[ヒーリングライト]も習得した。
これはゼブの書斎に沢山あったため少し拝借し模写してみたらすぐに発動させる事が出来た。
ネビアはこんなに大量にヒーリングライトの触媒紙を用意するなんて、心配性ですよねと笑っていた。
「そ、そうだよな。心配性だよな……」
真相を知る俺は、そう答えるしか出来なかった、
また、ヒーリングライトに球状にする命令と射出の命令を加えるとヒーリングライトのボールを射出させる事が出来た。
これはネビアがふと閃いて、実行した結果の成功だ。
実用性があるかは分からないが、こういった応用が出来ると言う発見は大きい。
中級魔法については、ネビアは描けば余裕で発動していたが、俺の場合発動しない時がちょこちょこ発生するようになった。
その際、ネビアが魔法陣を確認してくれるのだが、大体何処かに綻びがあったり、魔力の送り方が間違っていると言われた。
上級に関しては殆ど成功しない。
魔法陣もより複雑化しており、魔力の送り方もより繊細さを求められる。
結論的に言えば、俺の魔法は中級以上になると実戦に向いていない。
魔法陣を描く時間も、光の玉を4個操作できるようになったがそれなりに時間が掛かる。
ちなみにネビアは光の玉を15個を操作できる……!
もちろん魔法の勉強を止める気はないが、俺の場合は初級魔法を駆使して剣術で戦う方が向いている気がする。
「シャドウの事も大体分かってきた。そろそろ行ってみるか……?」
「光の線の外ですね。僕も思ってました」
ゼブからシャドウについても色々学ばせてもらった。
きっかけは、いつも食べている干し肉はなん肉なの? という俺も質問だった。
その時は、シャドウと干し肉が結びつくなんて思ってもいなかったが……。
生物が死んだらどうなるのか?
俺の常識では死体となってその場で残る……だがこの世界では間違いだ。
生物は等しく、死ねば粒子(魂片)となって消滅する。
消滅を止めるには生きた誰かが触れてなければならない。
それでも最終的には消滅してしまうようだが……。
そして、シャドウは大気の瘴気や魂片が変異し出現する。
核を持ち、黒い影のようなもので覆われた姿をしており、人や動物を認識すると襲ってくるらしい。
シャドウの種類は大きく分けて3種類いる。
まずは純粋なシャドウ、そして動物を殺して能力を吸収した吸収型魔物
生きた動物に憑依した憑依型魔物である。
動物と混ざったシャドウを魔物、純粋なシャドウをそのままシャドウと呼ぶ形で区別しているようだ。
俺達が食べている干し肉はなんとシャドウラビットという、憑依型のうさぎを加工した肉だそうだ。
憑依型魔物を殺すと、肉体が消滅せずシャドウだけが魂片となり消える。
不思議な現象ではあるが、それを俺達は有難く頂いていたと言う訳だ。
シャドウは、ゆらゆらとゆっくりとした歩調で動き、襲ってくる。
強い光を浴びると弱ってしまう為、暗くなってからしか殆ど活動しない。
魔物になると、動物の特性を引き継ぐため、光も平気になるそうだが……。
村は光の線で囲われ、光の円の中にある。
円の中は光の加護を受けた場所となり、瘴気が取り払われ、シャドウ避けになっている。
これは光中級魔法[浄化の光]と言われ、冒険するのに必須と言われている魔法だそうだ。
つまり光の線の外に出ると普通にシャドウが出現する。
さらにこの場所は常に薄暗く瘴気が漂う森……。
昼夜問わずに出現してしまう、非常に危険な場所だそうだ。
だが森の洞窟ダンジョンのシャドウナイト……どう考えても光の線の外にしかいない。
俺達が試練を達成するには、もうこっそり出るしかないのだ。
「次の休みの日にこっそり行ってみよう」
俺がそう言うとネビアは大きく頷き、その日まで色々と準備を行う事にした。
最初だからあまり奥まで行く予定はないが、念のために食料とヒーリングライトの触媒紙を少し拝借した。
そして、剣術の練習で使っていた木で出来た剣と革の籠手も持って行くことにした。
「あ、ネビア! 魔装魂はもう安定して使えるのか?」
「フィアンよりだいぶ習得が遅くなってしまいましたが……何とか出来るようになりました!」
守型見習い級剣術[魔装魂]
全身を薄く魔力と闘気で覆い、熟練度によっては斬撃等も通さない程の硬度を持つ。
また、瘴気への耐性も高める。
魔力と闘気の比率でも効果が変わる。
「ただ、闘気を武器に纏わせるのは無理です。剣術は難しいですね」
武器や籠手にに闘気を込めると、硬度がかなり増す。
ただの装備が非常に強力な物となるのだが、現状は俺しか出来ないみたいだ。
こういった細かい部分で個性が出てきた気がするな。
闘気と魔力の扱いがそれぞれ特化してきた印象だ。
「まぁ俺が前に出て攻撃は防ぐ! ネビアは魔法を頼んだ!」
とピースサインを見せた。
そして……待ちに待った休日の日がやってきた。
「両親は行きましたね」
「よし、ネビア俺の背中に乗るんだ! 光の線の所まで一気に駆け抜けるぞ」
少しでも調査に時間を使いたい為、道中は俺が[閃光脚]で全速力で行くことにした。
「この先からシャドウが出現するのか……」
「ですね。気を引き締めて行きましょう」
光の線手前まで来た俺達は、荷物や作戦などの最終チェックを行った後、溢れ出そうな期待と不安を胸に第一歩を踏み出した。
「うわ……」
光の線から出た瞬間、気温が一気に下がるのを感じた。
うっそうと茂った森で霧で覆われており薄暗い。
「周囲を照らしたいですが……先にシャドウに発見されるかも知れません。目を慣らしつつ進みましょう」
俺はネビアに分かったと頷き、迷子にならない様に真っ直ぐに進んでいくことにした。
1km程進むと、更に暗くなってきた。
幸い目も慣れていた為、全く見えないと言う事はないが……。
「フィアン、居ました」
ネビアはそう言って前方を指差した。
そこには前方10m程の所で黒い霧の塊が動いている。
霧と言うにはあまりにもはっきりと黒く、鮮明だが……
中心部には赤色のコアがある為、シャドウで間違いない。
「では決めていた通り、まずは僕が行きます」
シャドウの強さが全くの未知な為、まずは遠距離攻撃で先制できるネビアが相対すると決めていた。
その間、俺は周囲の警戒を行いつつ歯が立たなかった場合には即座に[閃光脚]で逃げる。
初めてのシャドウ討伐……ゲームでは無い命のやり取りを俺達は行う。
緊張から自然と手に力が入っていた。
「行きます」
ネビアはシャドウの前に姿を現した。
するとシャドウはそれに気がつき、ゆらゆらとネビアの方へ近づいてきた。
このシャドウは全長2m程のサイズで子供の俺達から見ればかなりでかく感じる。
ネビアは左手に籠手を装備し、右手は素手の状態だ。
籠手でガードの構えを取りながら、右手で光の玉15を出現させ、魔法陣を二つ即座に描いた。
(ネビア)――ウインドスピア×2
ネビアが描いた魔法は、二つとも風初級魔法[ウインドスピア]である。
[ウインドスピア]は竜巻の様に高速回転する風の槍を作り出し、射出する魔法である。
それは真っ直ぐにシャドウめがけて飛び出し、二本ともコアを綺麗に貫いた。
――バリンッ
コアが砕け散ると、シャドウはすぐさま消滅した。
「すげえ。一撃……いや二撃か? 瞬殺じゃないか!」
「念の為二つの魔法を使いましたが……一つでも十分そうですね」
俺達はそう言いながら倒したシャドウが居た場所へと向かった。
すると、シャドウが消滅した場所に無色のガラスの欠片のような物が十個程度落ちている事に気がついた。
「なんだろこれ……綺麗だな」
「フィアン、変な物に触らない方がいいですよ」
「そうだよな……!」
と二人で言いつつ、一旦二人で全てを拾った。
そして、お互い顔を見合わせながら、
「とりあえずこっそり持って帰るか」
と持参していた小さな革袋に入れた。
そして次のシャドウをすぐに探し始めたのだが、割とすぐに見つかった。
二人でこっそり近づいてみると、そいつは纏う影の大きさとコアの大きさが二倍程のサイズだった。
「なんかでかいですね」
「コアも大きいし、狙いはつけやすいか……?」
「まぁでも安心してください! やばかったら僕がすぐに助けます」
ネビアは先ほどより自信のある表情をしている。
きっと一度倒した事で大きく成長したのだろう。1と0の差は大きい。俺も怖気づかないでしっかりと倒さないとな。
最悪、怪我をしてもネビアのヒーリングライトがある!
俺も先程のネビアと同様、シャドウの前に飛び出した。
ゆらゆらと動く様子は大きさが変わっても同じようだ。
だが、こいつは先ほどより大きく全長5m近くある。
その圧迫感は中々のものだった。
「ふう」
一呼吸し、すぐに剣と足に闘気を込めた。
そして閃光脚で一気に詰め寄り、コアに向かって垂直に剣を振り切った。
(フィアン)――魔装・一閃
これは柔型の初級剣術で闘気を込めた剣を垂直に振り切る技である。
この技は剣を振る際に闘気が剣先を越えて伸びる為、射程が剣身5本分ほどに増加している。
十分に安全圏からの攻撃が可能だった。
俺の繰り出したその技は、シャドウのコアを綺麗に真っ二つにした。
そしてそのままシャドウは消滅し、先ほどの欠片を地面に残した。
「ふう……倒せたな」
倒し終わると、額から汗が流れ少しばかりの脱力感があった。
決して疲れている訳ではないが、筋肉が緊張していた状態から脱力状態になった事が原因だろう。
シャドウ程度の相手には汗一つかかずに倒せるようになりたいものだな。
「ん? 薄黄色の欠片も落ちてるぞ」
俺はそう言って欠片を拾い上げた。
「すごいですねフィアン! [閃光脚]で詰め寄る瞬間が全然視認できませんでした……」
ネビアは落胆した様子を少し見せたが、
「でも必ず目で追えるくらいにはなって見せます!」
と意気込んだ。
「この速度を見られるようになった時……俺はもっと速いぜ?」
俺はピースしながらそうネビアに伝えた。
・・・
(フィアン)――魔装・一閃
剣身は最初の時と比べより洗礼された一閃を描くようになった。
手に汗を握る事も無くなり、心に余裕が出来たおかげだろうか。
「この木の剣も……そろそろダメだな」
俺は二本目の木の剣に触れながら言った。
シャドウを斬っているのは剣でなく、俺の闘気のみの為、木の剣の見た目上は損傷が殆どない。
しかし実際には闘気で内部から焼かれ、剣身を叩くと空洞になっているのが分かる。
そうなってしまうと、最終的に技を撃ち切る前に剣身はバラバラに四散してしまう。
「とりあえずこっからは木の棒だな」
消耗が激しい為、1本目が壊れた後、木の棒を使って[魔装・一閃]を放ってみた。
しかし、放たれる闘気からは鋭利さが失われ、打撃攻撃へと変わってしまう。
それでもシャドウのコアを砕く事は出来るが、緊急処置に過ぎない。
「15体づつは狩りましたね……剣も無くなったし今日は帰りましょう」
「そうだな」
そういって俺達は光の線の中にあるいつも集まる場所へと移動した。
「持って行く荷物はここに保管しておきましょうか」
ネビアはそう言って、二人で作った簡単なテントに荷物を置いた。
この場所は修行中に雨を凌ぐために作った物である。
直径60㎝はある大木にロープを巻き付け先端を伸ばし、地面に木杭を打ち込み固定。
ロープの上に貼り合わせた樹皮をかぶせて完成というテントと呼ぶには少しお粗末な物ではあるが……。
「そうだな。荷物の移動が多いと両親に感付かれるかも知れないしな」
「ですね。この綺麗な欠片もここへおいて行きましょう」
そうして、ある程度の荷物をその中に置いている木箱に置き、俺達は家へと戻った。
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