十七話 炊きたて!たけのこご飯(1)
「ええーーっ!?
お風呂で汗をサッパリ流して台所に直行したわたしは、真っ先に冷蔵庫を開けて目に飛び込んで来た食材に歓声を上げた。
なんととっても立派な筍が、どんっ! と冷蔵庫のど真ん中に鎮座していたのだ。
「わー、おっきぃ! これは美味しそうだわ! ぜひ朝ご飯に使いたい……!」
手に取ればずっしりと重い、春の味覚の王様。王道の筍ご飯、天ぷらに煮物……。レパートリーにも事を欠かない。
ちなみに新鮮な筍の見分け方としては、穂先が黄色いものを選ぶといい。穂先が緑や黒のものはえぐみが強いので注意だ。
「でも不思議ね? 昨日まではなかったのに……」
わたしが冷蔵庫を覗き込んで首を傾げると、後ろでそれぞれエプロンを着けていた茜と葵が振り返った。
「それは閻魔様は多くの人や神に尊敬される偉大な神だからだアカ」
「え?」
「宮殿の食材は全て、閻魔様を崇める者達からの
「転送?? あ、じゃあもしかして、わたしの部屋の
からくりはなんとなく理解出来た。つまりこの筍は閻魔様に食べて欲しいと願った誰かからの贈り物ってことなのね。
「そっか、だから冷蔵庫にある食材はどれもこれも高級そうなものばかりだったんだ」
「ん? そりゃまぁ、なんてったって閻魔様に捧げるものだからなアカ」
「そんじょそこらの安い品じゃ閻魔様に失礼になってしまうアオ。もっとも、閻魔様はそんな小さいこと気にするお方じゃないけどアオ」
「…………」
でも、だとすれば……。
「閻魔様に贈られたものをわたし達だけで食べてしまうのは、ちょっと心苦しいわね……」
「桃花?」
「だってそう思わない? 贈った相手に届かないなんて、そんな悲しいことないよ」
筍を見つめてポツリと零すと、「それは違う」と茜と葵が首を横に振った。
「そんなことはないアカ。だって桃花が料理しなければ、ここの食材はいつまで経っても誰の口にも入らなかったアカ」
「そうだアオ。供物を捧げた者達もきっと冷蔵庫の置物になる方がずっと悲しいアオ。それよりも料理して美味しく食べてくれた方が嬉しいアオ」
「茜、葵……」
確かにそれもそうかも知れない。
どんなに素晴らしい食材も、使わなければ意味がないものね!
「よしっ! ならこの食材たちを贈ってくれた人達の気持ちに応える為にも、閻魔様には絶対食事してもらわないとね! その為にはまずわたしたちがお腹いっぱい、元気にならないと!」
「そうだそうだアカ!」
「その意気だアオ!」
茜と葵に囃し立てられ元気を取り戻したわたしは、前掛けを腰にぎゅっと結び、いつものように茜と葵を助手に早速料理へと取り掛かる。
「まずは筍の処理からね」
「処理? そのままじゃ食べられないのかアカ?」
「うん。通常筍はアク抜きが必要なの。それをしないとエグみが残ってね、渋くて食べられないのよ」
「じゃあ今からアク抜きするアオ?」
「ううん。今言ったのは、採ってから時間が経った筍の場合。この筍は朝堀りで新鮮だから、アク抜きをしなくてもエグみが無いのよ」
二匹に説明しながら筍の皮を剥いていく。黄色い部分までを残して全部剥けたら、油揚げと一緒に短冊状に刻む。
トントントンと軽やかな音を立てて刻んでいると、茜と葵が不思議そうに首を傾げた。
「桃花、これは一体何を作っているんだアカ?」
「筍ご飯よ」
「筍ご飯? 聞いたことはあるけど、それは豪華なのかアオ?」
「豪華も豪華よ! 超豪華! 食べてみたらすぐ分かるわ。世にも美味しいものが出来上がるから、二人はお米を研いで楽しみに待ってなさい!」
「「世にも美味しいものアカ(アオ)……」」
わたしの言葉に二匹はゴクリと唾を飲み込み、いそいそと米研ぎに動き出す。
「ふふふ」
そんな様子に出来上がりを見てどんな反応をするのかワクワクしつつ、わたしは刻んだ筍と油揚げをお醤油とみりん、それに出汁とお酒をお鍋に入れて、火にかけた。
「なんだかいい匂いがするアオ」
「この後お鍋の具とお米を一緒に炊くんだけど、こうやって炊く前に煮込んで具に味を染み込ませることで、味付けのしっかりした筍ご飯になるのよ」
「ほぉー、なるほどアカ」
ぐつぐつと鍋から音が立ち、蓋を開ければ筍も油揚げも綺麗なきつね色になっている。
「うん、いい感じ」
ここまできたら、後はもう具を冷まして茜と葵が研いだお米と一緒に炊くだけだ。
ちなみに炊飯器も例に漏れずやはりチートな神力パワーで動いており、わたしが知ってる炊飯器の半分以下の時間で炊き上がるすぐれものなのである。
「「スイッチオンアカ(アオ)!!」」
「ふふふ」
さてさて、冥土で作った筍ご飯。
どんな炊き上がりになるのかしら?
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