第2話
降魔の里
僕はここに生まれ落ちた。
レイと名付けられた僕は5歳の頃には物心が付くようになり、周囲の状況が分かるようになってきた。
父は毎日のように朝早く家を出ていき、夜になると帰ってくる
時折夜に出ていくこともあり、ケガを負って帰ってくることも多いため外で戦う者のようだ。
お休みの日は訓練をしている父を真似して木の枝を振ったりもした。
訓練が終わった後に笑いながら頭を撫でられるのが好きで毎回付きまとっていたら、ある日木剣を貰った。僕は嬉しくなり毎日のように木剣を振り回し、お休み時には指導をしてもらっていた。
母は基本的には家におり、僕の面倒を見てくれている。
また、父が持ってくる魔物の素材などを加工して色々なものを作り販売している。
母が加工している姿は見てて面白く、父がいない日で何かを作っているときは常にくっついて見て回った。見様見真似で作っていると母も優しく教えてくれて出来上がった際は必ず褒めてくれるのが嬉しくてどんどん作っていった。
10歳になるころには剣の訓練や物作りも本格的になると同時に周囲の者達から色々な情報を得て世界について認識するようになった。
世界は人間と魔族、そして両者にとって脅威となる魔物という存在で成り立っている。
人間と魔族は敵対し合っており領地を奪おうと常に争っている。
以前までは領地は半々だったが現在は人間が優勢であり魔族は少しずつ追い込まれている。
そして僕たちはその内の魔族と云われる存在に分類される。
魔族とはその名の通り、魔物でありながら進化をし知性を持ち人間と同様に喋り、生活する存在である。
種族も多種多様で小鬼族や狼人族、吸血鬼など一般的に有名な種族や僕たちのように特殊な能力を持った種族もいる。
降魔族
僕らはそう呼ばれる存在。
数はそう多くなく里で暮らしている数も数十にも満たない。
種族的に手先が器用で装備や装飾品を作る事に長けており、里内ではそれを販売して生活している。
勿論、装備の質も高く一般的な商人はこれを仕入れ、他領で販売している…が一部の者は降魔の里でしか製造していない特殊な装備を目当てに来ている。
小さい頃から母に付きまとっていた甲斐もあり、僕は12歳になるころには作れるようになっていた。
それは何かというと…呪いの装備だ。
仕組みだけでいえば単純だ。
恨み、想いの強い者の魂を装備に付与すればいい。
降魔族は魂の付与が出来る唯一の種族となっており、昔は一族皆付与が出来ていたが時が立つにつれ、数を減らし現在では僕のみとなっている。
付与が成功すれば対象の装備は呪われ、扱うことさえ出来れば非常に強力な装備となる。
しかし縁もゆかりもない装備、またまた全く関係のない魂を付与すること自体が難しく、もし上手く付与が出来たとしても呪い自体が薄れてしまい成功率の割には大したことがない装備が出来てしまう。
ではどうすればいいか。
呪いの装備を製造する時は出来るだけ素材と魂、両方に縁のあるものを使用すればいい。
その為、呪いの装備の製造を依頼に来る客は個人客しかおらず素材を必ず持ち込むことになっている。
そして今日も依頼をしていた客がやってくる。
入り口付近の雑踏を抜け、降魔の里でも比較的奥まった場所にある店に向かっている。
私はアイデ。約2か月前自身の集落が人間に襲われ、撃退することはできたが蜥蜴人族の長が重症を負った。日に日に衰弱していく長にある日呼び出され自身が死んだ際は新たに長になれ、そして無念に散っていく自身の魂を共にと託されその数日後長は亡くなった。
長の遺言を聞き遺体を持って降魔の里に来たのが先月、今日は受け取りの日だ。
丁度店が開いたところか店先に出て看板を出しているのは先日依頼をした…たしかレイという方だ。
レイも歩いて近づいている私に気付いたようで、店中に戻らず足を止めて待ってくれている。
「朝早くに済まない、依頼していたものは出来ているか?」
「アイデさん、おはよう。今持ってくるから店内で待っていてくれ」
人懐っこい笑顔を浮かべ挨拶をするとレイは店の奥に消えていく。恐らく依頼物にここにはないのだろう。
店内には様々な装備が置いてあり目の前にある短剣を一つ手に取ってみる。
恐らく魔物の牙で作られたものであり切っ先は鋭利で刀身もよく研がれている。素材が牙ということで根本に向かうにつれ太くなっていく形状を見る限り、切るというより突くものなのだろう。
何気なしに取った短剣に出来に感嘆しながらも他の武器を眺めているとレイが戻ってきた。持っていた大きな布に包まれたものを机に置き、切り替えるたかのように真面目な顔になり一度咳をする。
「お待たせしました、こちらが依頼されていた武器です。」
そう言いながら何重にも巻かれた布を解くと、アイデの肩まではあろうかと思う長さの大曲剣が現れる。
「これは…」
アイデはレイから手渡された大曲剣を両手で受け取り眺める。
刀身は若干くすんだ乳白色をしており側面には先端が鋭利なトゲのようなもの…恐らく牙か、背の一部には蜥蜴の鱗が無数についている。
本来鍔がある部分にも牙が付けられており、柄は刀身と繋がっており布を巻いただけの簡素な作りとなっている…が刀身にうっすら浮かぶ文様はアイデ自身でさえ畏怖させる何かがあった。
「お預かりした先代の使用していた武器に遺体の骨を混ぜ強度を上げ、側面の牙で殺傷力、背でも受けられるよう鱗を張り付けたました、単品での性能は保証します。」
その言葉を受け一瞬悲痛の表情を浮かべるが頭を軽く振り気を持ち直す。
「…これを使用するデメリットは?」
「デメリットは少なく蜥蜴人族長と僕以外が使用すると自傷の作用があります。鍔部分の牙が自身の手に刺さり振るう度に食い込む関係で…まぁ死ぬまで離せなくなるでしょう。その代わりアイデさんが持てば剣自体の重さを自由に変化させることができます。振るうときは軽く、当たった瞬間に重く、なんてね。もちろん限度はありますが…」
確かに先ほどから片手で持ち捻ったりしているが重さを一切感じず軽々と振るうことが出来る。
ただ一点気になり尋ねてみる。
「何故レイまで使用できるように?」
一通りの説明が終わったからか先程までの真面目な顔は鳴りを潜め椅子に腰を下ろし、机に頬杖をつきながら笑いながら答える。
「僕が使用できないとメリットを説明出来ないし、それに付与した瞬間デメリットで死んじゃったとか笑えないでしょ?もちろん他にも理由はあるけどね。」
「他に理由が?」
「勿論だよ、皆が皆アイデみたいな人じゃないってこと。例えば…」
ふとレイが何かに気が付いたように話を止め私の後方を見る。それに倣って後ろを振り返ると大きな足音を立てながらこちらに近づいてくる大きな豚人族が見えた。
「もしかしたら理由がわかるかもしれないね。」
「どういうことだ?」
不可解な顔をしながら再度レイに振り向く。
「見ていくかい?」
と提案するレイの顔はいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
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