16 「帝翔のお気に入り」


「もう帰ります。今日体調悪かったせいか、酔いが早かったみたいで」



帝翔は緑茶ハイを半分残して、お会計をする。


大丈夫か?


嫉妬でつい忘れていたが、帝翔は病気なんだった。


病気のことをもう一度聞きたいが、美智子さんには隠しているのかもしれない。


また二人きりの時に聞こう。



「そういえば今度の人事異動...沖縄から本社に聖奈が移動してくるぞ」



俺は妹の話をした。


帝翔は聖奈のことを気に入っている。


ぶっちゃけ、こいつは妹のこと好きなんじゃないか? と何度も思ったが、聞くのも野暮かと思って本人に確認したことはない。


ああ、帝翔が聖奈とくっついたらいいのに!


マリアに好意があると知った今、強く願ってしまう。



「どこに配属されるんだ?」



予想通り、帝翔は嬉しそうな顔をした。



「お前の下につける。本人は嫌かもしれないが、仕事は仕事だからな」



心配だ。


あの地獄のハーレムに配属されるなんて。


他の女性社員にいじめられそうだ。


帝翔は守ってくれるだろうか?



「今度4人で聖奈ちゃんの歓迎会しましょうよ」



マリアは楽しそうに言う。



「それは...聖奈次第だな」



俺は困った。


多分、聖奈は嫌がる。




「どうして? 帝翔さんと聖奈ちゃん、昔何かあったの?」


「うちのバカ息子が、聖奈ちゃんをいじめてたのよ」



俺の代わりに美智子さんが答えた。



「いじめてない」


「あんたはそう思ってても、聖奈ちゃんはいじめられてると思ってるの。受け取り側がそう思ったならイジメなの」



帝翔は悪気なく、人が傷付くようなことを平気で言う。


聖奈は何度もそれをくらっていた。


マリアは思い出したように、「ああ!」と大きな声を上げる。



「もしかして、帝翔さんが"悪魔の子(ダミアン)"?」

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