13 「優先順位」


「聖也! ちょっとこっち来い!」



帝翔は俺を椅子から立たせる。


腕をつかまれて、入口のドア付近まで引っ張っられた。



「童貞って言うな! 何で言うんだよ!」


「だって童貞じゃん」


「だからって言うなよ!」


「見栄張ったってしょーがねーだろ」



帝翔は昔から自分が童貞であることを気にしている。


そんなに気になるなら、早く捨ててしまえばいいのに。



「俺が童貞なのは、初恋の人に未練があったからだ! その初恋の相手が目の前にいるんだから見栄張ってもいいだろ!」



俺は雷に打たれたように、固まってしまった。


帝翔は、やっぱり純粋だ。


それに比べて俺はなんて醜いのだろう。


俺の初体験は中学生...13歳の頃だ。


年上の女性に誘惑されて。


その女性が好きだったわけではない。


他の男より、先に大人になった自分に酔っていただけだ。


でも次第に、その女性に本気になる自分がいた。


彼女が遊びなのは明白だった。


他に好きな男がいたから。


俺はこれ以上傷付くのが嫌で、その女性から逃げた。


帝翔が羨ましい。


恋に臆せず夢中になれるなんて。


俺は人を好きになるのが怖い。


俺は、マリアのことをどうしたいんだろう。


美人だし、一緒にいて楽しいし...。


でも、俺とマリアは恋愛に対しての熱量が違う。


俺の「人生の優先順位」に恋愛は上位じゃない。


家族、友人、仕事...その後に女だ。


俺みたいな奴が、彼女を幸せに出来るわけがない。


マリアに、俺と付き合って欲しいなんて言えない。


だが、いざ他の男に取られそうになると、モヤモヤする。


なんて自己中なんだ俺は。


マリアは俺の所有物じゃないのに。


こんなことで傷付いたり、怒ったり、馬鹿げてる。



「わかった。俺が悪かった」



俺は帝翔に謝った。


女はいくらでもいるが、帝翔ほどの親友は世界で一人だけだ。


くだらない嫉妬で親友を失いたくない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る