『伝説の少年』の再来として妖精から溺愛される少年……の保護者

鐘楼

久々に会った少年の状況が俺の愛読書とあまりにも酷似している。

 「サニーウインドさん! お願いします!」

 「りょーかいっ! ご主人くん!」


 少年の号令に応え、人ならざる美しさと眩いまでの溌剌さを併せ持った女がその手に持った弓で黒い靄に覆われた人影に向かって攻撃する。すかさず剣を持った少年が斬りかかり、怯んだ人影に一太刀を浴びせようとする。が、すんでのところで避けられ反撃を貰いそうになる。


 「っと! 無理すんな少年!」

 「あ、ありがとうございます! フレアルビーさん!」


 しかし、すかさず赤髪の女が少年に襲い来る攻撃を受け止める。


 「ほんと、坊やは貧弱なんだから大人しくお姉さんに守られてなヨ」


 さらに、もう一人の女が呆れた声で少年を下がらせる。だが、少年の目には未だ闘志が宿っていた。


 「クレイプレシャスさん……いえ、そういうわけにはいきません。皆さんばかり危険に晒してじっとしているなんてできませんから!」

 「ご主人くん……」

 「少年……」

 「坊や……」


 そうして、少年と三人は改めて黒い人影……暴走してしまった“黒化妖精"と対峙する。


 ここは妖精島。人間や魔族の手が及ばない妖精たちの楽園。そんな島にどういうわけか流れ着いた少年……クルスは最初こそこの島に不埒な目的で上陸する人間と同列に扱われ、妖精たちに命を狙われることもあったものの、この島に存在するとある剣を少年が引き抜いたことで少年と妖精たちの運命が動き出した。


 妖精島に伝わる、とある伝説。かつてこの島に降り立った見目麗しき少年が妖精と絆を結び、世界すべてを飲み込まんとする災厄を討ち滅ぼしたという伝説が島の妖精たちの間で語り継がれている。クルスが引き抜いた剣とは正にその少年が使っていた剣であり、今まで妖精でも人間でも引き抜けた者はいなかった。妖精たちにとって特別な意味を持つこの剣を抜いたクルスは妖精たちから一目置かれるようになる。


 そこからのクルスは……あまりにも妖精島の伝説と似通いすぎていた。成り行きで妖精が暴走する黒化現象に妖精たちと共に対処するようになったクルスはその過程で数々の妖精たちと絆を深めていき、多くの妖精がクルスと伝説の少年を重ね惹かれていった。


 クルスが島に流れ着いて半年が経とうとしている今、島の妖精たちの誰もがクルスの勇敢で挫けぬ心を持ちそれでいて紳士的なところを愛していた。


 「これで……終わりだっ!」


 赤髪の妖精、フレアルビーの一閃が黒化妖精に炸裂する。それが決定打となり、黒化妖精から黒い靄が霧散して元の妖精へと姿が戻っていく。こうして暴走した妖精を元に戻しつつ、事件の真相を追うのが今のクルスと三人の妖精……サニーウインド、フレアルビー、クレイプレシャスの最近の日々だった。


 「大丈夫ですか!?」


 戦いが終わるや否や、クルス黒は化が解け倒れた妖精の元へ駆け寄り、安否を確認する。今までクルスたちが対処して元に戻らなかった妖精はいなかったというのに、決まって心配をするクルスの一面を妖精たちは好ましく思っていた。


 「心配しなくても、しばらくしたら目が覚めると思うぜ」

 「そう……ですか」

 「にしても、温厚なソフトレイニーまで暴走するなんてネ。やっぱり黒化に妖精の気質は関係ないのカナ」


 少年を安心させる言葉を投げかけるフレアルビーに、事件への考察を述べるクレイプレシャス。残るサニーウインドはといえば、少年を思い切り抱き寄せた。


 「うわっ!」

 「ご主人くーん! 頑張ったねぇ!」

 「そ……そんな……結局サニーウインドさんたちに任せてばっかりで……」

 「謙遜しないの! もう、ご主人くんはもっとお姉さんに甘えるべきだよ」

 「謙遜なんて……と、というか離してください!」

 「確かに、少年は気を張りすぎだな。アタイの前ではもっと楽にしていいんだぜ?」

 「客観的に見て、坊やの指揮は優れているヨ。それに、人間の子供が妖精と肩を並べて戦えているだけで凄いことサ」


 妖精たちの肯定的な言葉にも、クルスは曖昧な笑顔を返すだけ。サニーウインドやフレアルビーの望むような反応をすることはなく、それが彼女たちの心に少しの不満を募らせる。


 「ぼ、僕はそんな……っ! 皆さん、後ろ!」


 そんな平和な一時が、クルスの一声で崩れ去る。


 「あれは……!?」

 「黒化妖精じゃない、よな……」


 現れたのは、巨大な化け物。クルスや妖精たちの身の丈の何倍以上もの大きさを持った、黒い影のような怪物だった。


 「……間違いない、こいつ、全身が黒化妖精を覆っていた靄で出来てるヨ。突然現れたのもさっき霧散した靄が集積……いや、今までのものも含めて……」

 「考察は後にしてくれ! 勝てんのかこれ!?」

 「……マナの総量からして、ここはどうやって逃げるかを考えるべきだネ」

 「っ! 皆さん構えて!」


 少年の号令で、四人が各々の戦闘態勢を整え、怪物がその足を振り下ろそうとし──真っ二つに割れた。


 「は……?」


 自分たちの命を刈り取らんとする強大な敵が、いきなり割れて霧散する。そんなあり得ない出来事に固まる四人に向かって、覇気の感じられない場違いな声がかけられる。


 「はぁーぁ、やっと見つけた……まさかこんなところにいるとは思わないだろ……」


 怪物を構成していた靄が霧散し、視界が晴れてくると、声の主の姿が露わになる。声に似合わぬ偉丈夫、おそらくこの男があの怪物を瞬殺した相手だと警戒する妖精たち。そして……


 「おーい、見つけたぞクル──」

 「レヴィンさんっ!」

 「おぉう……あー、半年ぶりだな?」

 「僕……目が覚めたらここにいて……何度も死んじゃうかとおもって……」

 「あー……悪かったよ、人捜しとか苦手なんだ……警戒はしてたのにいきなり転移魔法で拉致とか想定してなくてだな……泣くな泣くな」


 男のことを認識するや否やクルスは男の胸に飛び込み、まるで今まで抑えてきたものが決壊したかのように泣き出した。そして、男はそんな少年を珍しがる様子もなく仕方ないなとでも言う風に背中を叩いていた。


 そんな光景を見た妖精たちは……フリーズした。正確に言えば、その思考が眼前の光景を受け入れられずにいた。


 クレイプレシャスや一部の者を除く、クルスを慕う妖精たちにはとある悩みがある。それは、先のサニーウインドの言葉に示されているように、クルスがどこか他人行儀なところ、弱み……年相応な部分を見せてくれないところ、素直に甘えてくれないところ……細かく差異はあるが、妖精たちは概ねこのような不満を抱えていた。


 それが、そんなささやかな望みを……全妖精の夢を得体の知れない男が何でもない事のようにすべて叶えている! 彼女たちはそんな事実を認められずにいた。


 「んで……あちらは?」


──────────────


 いやー……焦ったぁ……。


 クルス……もといロクルス十世が突然拉致られ半年。それはもう焦った。一応俺は既に対価を受け取ってあいつの命に責任を持つ立場。最後の望みとして俺に託してくれた王家の人間に知れたら……まぁとても気まずい。


 ということでコネも魔法関連の腕もない俺はクルスがいなくなってからの半年間休まず世界中を走り回っていたわけだが、まさか人間が住んでいない妖精島にいるとは思っていなかった。いくらなんでもこんな場所に飛ばされているとは思わず後回しにしていたおかげで捜索にこんなにも時間がかかってしまった。


 何はともあれ、色々あったようだが無事なようで一安心だ。


 「んで……あちらは?」


 妖精と思しき女たちを尻目に、泣きじゃくるクルスにそう尋ねる。クルスに対しては友好的っぽかったが、拉致の犯人ならなぁなぁで済ますわけにも行かない。


 「あ……お世話になっている妖精の方たちで……」

 「ちょ……ちょっとちょっと! ご主人くんその人誰!?」


 会話の流れが自分たちに向いた途端、我に返ったように妖精の一人が俺を指さしクルスに聞く。なんというか……妖精らしい妖精だな。俺が大昔にここに来たときに出会った妖精もこんな感じだった。


 「レ、レヴィンさんと言って……僕に戦い方なんかを教えてくれた人でして……」

 「レヴィンですどーも。一応こいつの保護者ね」

 「ほ、保護者って……」


 俺がクルスの保護者だということが知ると、妖精たちはこそこそと話し合いを始める。


 「保護者って……そんな人がいるなんて聞いてないよ!?」

 「……そうは言っても少年はアタイらに自分のことをあまり話してくれなかっただろ?」

 「そ、そういえば……」

 「それより、ボクはあの男の力の方が気になるネ。あんなのは尋常じゃないヨ……とても人間とは……イヤ、よくよく見れば明らかに人間ではないネ……」


 ……何やらコソコソと話しているが、俺の耳には丸聞こえである。最後の奴は俺について勘ぐっているが、別にやましいことは何もない。


 「あー……そこのお三方、一応聞くがクルスを攫ったのって君たちじゃないよな?」

 「ち……違うよ!」

 「あの、レヴィンさん。僕をここに連れてきたのは妖精の方たちじゃないと思います。皆さんとてもよく……最初は色々ありましたけど、今は仲良くさせて貰ってるので」

 「ほーん? ま、お前がそう言うなら信じるよ」


 ……正直、攫った攫っていないの話で友好的かどうかはアリバイにならないと思うが、クルスがそう言うなら俺としてはそれでいい。被害者は俺じゃなくてクルスだし。


 「で、さっきのデカいの何だったんだ? 倒して良かったんだよな?」

 「……アレに関してはボクたちも初めて遭遇するものでネ……詳しいことは分からないケド、ボクたちが普段相手にしている黒化妖精の亜種ってところだろうネ。……君がいなければボクたちも無事では済まなかったかもしれない、礼を言うヨ。ボクはクレイプレシャスだ、よろしくネ」

 「あぁよろしく」


 クレイプレシャス、ね。なんか理性的で妖精っぽくない妖精だな。妖精ってもっとこう……いや、やめておこう。


 「ホラ、二人も悔しがってないで礼くらい言いなヨ」

 「お、おう……アタイはフレアルビー! お前強いんだな!」

 「まー基本負けたことないしな」

 「え……す、すごい自信なんだな!」


 信じてないな? ……まぁ普通そうか。この意外と常識的な赤髪の子がフレアルビーね……多分覚えた。


 ちらりと、残る一人を見る。全く心当たりがないのだが、なぜか悔しげに俺を睨んでくるその妖精は意を決したかと思えばクルスを引ったくるように抱き寄せてから口を開いた。


 「私はサニーウインド! あなたには負けないんだから!」

 「何の話?」

 「ご主人くんに甘えられるお姉ちゃんポジションのことだよ! あ、あなたの場合はお兄ちゃんだね」

 「いや、兄弟って年の差じゃないんだが……」

 「ぼ、僕はその……レヴィンさんがお兄ちゃんだったらって、考えたこと……あります……」

 「なぁぁぁぁ~~~!?」

 「マジ? クルスも物好きだねぇー」


 どうやらサニーウインドとかいう妖精が俺に敵意を向けてきたのは、俺がクルスから懐かれているのが気に食わなかったかららしい。なんなら、彼女ほど露骨ではないにしろフレアルビーからも同種の感情が見て取れる……気がする。


 はっ!? ……これは、まさか……?


 「……なぁ、クルスと仲良い妖精ってのはこの三人だけなのか?」

 「いえ、他にも……」

 「いるが、戦闘に積極的でかつ心得があり気まぐれでない、となると限られてしまってネ」

 「なるほど……」


 これは……もしかするかもしれない……。


 「……クルス、ちょっと来てくれ」

 「? は、はい」


 クルスを呼び寄せ、妖精の三人に聞こえない声量で聞かなければならないことを尋ねる。


 「この島には俺も昔来たことがあるが……相変わらず女しかいないのか?」

 「え……は、はい。妖精の方はみんな女性ですから……って、レヴィンさんこの島に来たことあるんですか!?」

 「まぁその話は今度な」


 妖精は揃いも揃って見目麗しい女性ばかり。前ここに来たときはガキだったんで知らなかったが、妖精という種族はその容姿以外にも魔道具の素材にしたり魔力タンクとして便利だったりとロクでもない輩に狙われる要素しかない存在だ。それ故にこの島に踏み入った人間は妖精から苛烈な自衛に晒されるわけで、クルスが死ぬかと思っただの言っていたのはそういうことだろう……というのは置いておいて。


 「それでその……随分好かれてるみたいだが……ひょっとして勝手に風呂に押しかけられて苦労してたりするのか?」

 「な、なんてこと聞くんですか!」

 「いいから答えてくれ、頼む」

 「それは……その、そういうことも……あります……」


 俯きながら白状するクルスは耳まで赤く染めて本当に恥ずかしそうだが、俺には確かめねばならないことがある。我慢してくれ。


 「じゃあその……毎晩ベッドの下で待ち伏せされたり、朝起きたら布団に入られたりもするのか?」

 「な……なんでレヴィンさんがそれを!?」

 「やはり、か……」


 つまり、クルスはこの島で年上の美女不特定多数に慕われ貞操を狙われ気の休まらぬ生活を送っていたということらしい。


 「同じだ……」

 「は、はい?」


 このシチュエーションは俺の愛読書No.7『おねショタハーレム愛ランド~そこはダメだよお姉ちゃん~』(ロクルス一世著)にあまりにも酷似している!


 「そうか……お前が……」

 「さっきからなんなんですかもう!」


 クルスなら……俺が諦めかけていたことを……実現してくれるかもしれない……。


 「ちょっとちょっと! 二人して何話してるの!」

 「あー、悪い悪い。保護者としてちょっと確認事項があってな……」


 クルスと二人でコソコソ話しているのが我慢ならなかったのか、サニーウインドが割り込んできた。見ればフレアルビーも不満げにしているが、クルスの俺との時間を邪魔しまいと我慢していたようだ。何というか、サニーウインドはお姉ちゃんがどうのと言う割にはクルスよりガキっぽいな。


 「保護者保護者って、あなたは知らないかもだけどご主人くんは凄いんだから!」

 「へー、と言うと?」

 「さ、サニーウインドさん! 僕なんかレヴィンさんに比べたら……」

 「そんなことないよ! なんてったってご主人くんは伝承の剣を抜いたんだからね!」

 「伝承の剣?」

 「あ、これです……」


 そうしてクルスが見せてきた伝承の剣とやらは……とてつもなく既視感があった。


 「ん? ……それ……」

 「その剣はね、かつて妖精島を救ったっていう美少年が使っていた剣で、これまで誰も……あ、危ないよ触ったら! ……って、あれ?」


 ……間違いない。これは大昔に俺が使った……というより、持たされた剣だ。伝承って何の話だ? この剣の誕生経緯からして、そんな逸話があるはずはない。


 「や……やっぱり! レヴィンさんにも使えると思ってたんです!」

 「な、なんでなんで? なんであなたにも持てるの!?」


 なんでってそりゃ昔使ってたんだから当たり前……いや、俺とクルスが使えるのにはちゃんとした理由があるのだが、それはいい。俺はその伝承とやらの方が気になる。万が一……いや億が一の可能性だが、昔この島に来た当時の俺がその伝承の少年だなんてことが脳裏によぎったからだ。


 「じゃあ……僕なんかよりレヴィンさんが使った方が……」

 「いいよこれなまくらだし」

 「なっなまくら!?」


 なまくらは言い過ぎたかもしれないが、俺は得物を選ばない。良い剣じゃなきゃダメだなんて状況は……まぁ一度くらいしかない。俺はクルスに剣を返すと、話が通じそうなクレイプレシャスに伝承について聞く。


 「なぁ、その伝承ってのはなんなんだ?」

 「あぁ、それはこの島に昔から……いや、ボクからすればそんなに昔のことでもないんだケド……とにかく妖精たちに人気のある逸話でネ」

 「あーはいはい! 私が教えてあげるよ!」

 「えーお前が? まぁいいけど」


 サニーウインドが話すと個人的な解釈が混ざってきそうなので、できるならクレイプレシャスの口から聞きたかったが……まぁとにかく聞いてみるか。


 俺が黙って聞く姿勢を取ると、サニーウインドは得意げに話し始めた。


─────────


 妖精島──妖精たちの楽園。あくまでもそれは、妖精にとって外の世界があまりにも地獄だからであって……この島に危険がないということではない。


 現に、この時も……在る妖精が危機に瀕していた。


 「へへ……まさか群れから外れた妖精がいるなんてついてるぜ」

 「こ……来ないで!」


 妖精島に土足で踏み込んだ男によって、一人の無垢な妖精の尊厳が奪われようとしていたのだ。


 「こんなに苦労したんだ……う、売りさばく前に役得があっても良いよなぁ!」

 「だ、誰か……誰か助けてぇっ!」


 けれど、この物語は不幸には終わらない。この日はありふれた悲劇の日ではなく、その妖精が……いや、妖精島が運命と出会う物語だからだ。


 「そこまでだ!」


 人も妖精も関係なく、誰もが聞き惚れてしまうような……いや、耳を塞ぐことを許さないような暴力的な美声。そんな声に賊も妖精も声の主を見ざるを得なかった。


 「僕が来たからには、もう妖精に手出しはさせない! ……さぁ、こっちに来て、妖精のお姉さん。僕が必ず助け──


───────


 「いや誰だよ」

 「ちょっと! まだ始まったばっかりなのに!」

 「あー、いや……悪い」


 変に勘ぐって損をした。サニーウインドが口にした島の伝承とやらに出てくる少年とやらは、どう考えても昔の俺とは似ても似つかない代物だった。あの頃の俺には正義の心なんて微塵もなかったし、場合によっては賊なんかより悪人判定される存在だ。絶対に俺とは別人だ。


 となると、あの剣が伝承と関連付けられてるのも俺の勘違いか伝承がおかしいかのどちらかだな。


 「それで、続きがねー」

 「いや、大体分かったからもういいわ」

 「えー!? ここからが美少年と妖精“ブラックデザイア"の物語の良いところなのに!」

 「ブラックデザイアだぁ!?」


 ……薄情を自覚する俺でも、その名前くらいは忘れてはいない。ブラックデザイア。その妖精は俺と共に旅をし……そして、俺を看取った存在だ。


 「……ってことは」


 俺じゃん。俺でしかないじゃん。


 ちらりと、不思議そうに俺を見るクルス眺める。


 ……このことは、黙っておこう。特にクルスに知られると不味い。何が不味いって絶対に詳しい話を要求してくるからだ。それは良くない。だって俺はクルスの健全な教育に責任を持っている身だからだ。


 要するに、だ。昔の俺は途轍もなく教育によろしくない。












───────────


 「ブラックデザイア……! 黒素獣が……一瞬で……!」


 手違いで招いてしまった少年。黒化について嗅ぎ回る厄介者。不相応にもあの剣を振るう愚か者。彼女の英雄とは似ても似つかぬ忌まわしき紛い物。


 そんな少年を排除する切り札があっさりと消された。だというのに。


 「うそ……あなたなの?」


 背丈は似ても似つかない。目つきも雰囲気も変わっている。けれど、その剣技。あの無遠慮を体現したかのような剣閃を、百年と少し焦がれた彼女が見間違えるはずがなかった。


 「なんで……いや……とにかく、帰ってきてくれたんだ」

 「ブ、ブラックデザイア……?」


 黒化現象の元凶。今では妖精の域をとうに超えたその女は笑う。


 「レヴィン……レヴィンかぁ……できるなら、あなたに名前をつけるのは私が良かったけれど」


 既に彼女の視界に、邪魔な少年のことなど一切入ってはいない。


 「もういい……いいの。だから……」


 すべては、かつて失った“少年"のために。


 「今こそ……! 私と共に……! あなたを忘れ貶めた世界に復讐を……!」









【★あとがき★】


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