第15話 招待状
「暇だなぁ……」
新領主、つまり僕のために用意された執務室で、机に突っ伏した格好のまま呟く。
結局安全が確保されるまで不必要な外出が制限されてしまった影響で、趣味の散歩も行けなくなってしまった。
エリザに護衛を頼もうにも、安全を確保するために動いているのがエリザを団長とした騎士団なので無理。
ランディは出かけたまま帰ってこないし。
「そんなに暇なら、この書類の対応していただいて、私は一向にかまいませんが?」
「あ、いや。パメラに任せた方が間違いないと思うんだよね」
綺麗に片付いた僕に机に比べて、パメラの目の前の机には書類が二つの山になっている。
高いのはパメラが処理した書類。
低いのはパメラが処理する書類。
たまーに僕のところに、確認のために書類が回ってくるけど、僕はサインする道具状態だ。
この状態が始まったのはついこの間。
僕が領主になってひと月が経とうとしている。
魔鉱石の鉱床に関する書類だとか、領地の租税の書類だとか、見てもよく分からないものを随時パメラに処理を頼んでいったら、結果的にほぼ全てパメラに処理をお願いすることになった。
そしてパメラは基本断らない。
僕がお願いしたら可能な限りやってくれる。
もうパメラが領主でいいんじゃないかな。
残念ながら、現行法では歴代領主の血縁者しか爵位を引き継げないから無理だけど。
「こちらを確認いただき、受けるか受けないかの返信とサインをお願いします」
「はい、はい。受けるか受けないか……と? これってもしかして。手紙?」
「そうです。パーフェン伯爵から招待状が先日届きました。その返信です」
「パーフェン伯爵……誰だっけ?」
「隣国のオルメト・パーフェン伯爵です。またいつもの冗談ですか?」
「ああ。うんうん。隣国のね。もちろん冗談だよ。冗談。それにしても招待状だって? 行くの? 僕が?」
多分、うちの領地の西側の……東側だったかな?
南はモビレナ侯爵領だから違うはずだ。
それにしても招待状だなんて、一体何の用だろう。
パメラは小さくため息を吐いてから、説明してくれた。
「行くか、行かないかをご判断ください。もし状況の説明が必要ならお聞きください」
「えーと。行かなきゃ、まずい?」
「パーフェン伯爵は文字通りクライエ子爵から見て格上です。アーク様は先月領主になられたばかりですから、友好を示したいのなら、明確な理由なしに断るのは避けた方がよろしいですね」
「じゃあ。行くと、めんどくさい?」
「招待状には明確に書かれていませんが、これまでの当家との関わり方を鑑みますと、何かしら先方に利益がある要求をされる可能性が高いですね。時期的に考えれば、魔鉱石の鉱床に関して何か言いたいことがあるのだと思います」
「それってすごくめんどくさいやつじゃん」
はぁ……行きたくない。
そもそも、よく知らない人と喋るの苦手だし。
試しにパーフェン伯爵の記憶がないか思い出してみる。
ぼんやりと、昔父に付き添って何かのパーティに参加した時に会ったことがあるようなないような。
ダメだ。
全然見た目や人柄が思い出せない。
「先ほどもお伝えした通り、理由なしに断るのはやめた方がよろしいでしょう」
「うーん。領地に魔物が出ていて忙しいっていうのは?」
「それこそ魔鉱石の鉱床の管理能力不足を指摘される格好の餌をパーフェン伯爵に渡すことになります。お勧めしかねます」
「パメラがそういうならしょうがない。領内は散歩できないし、遠足ついでの訪問だと思って割り切ろう。行くよ」
「かしこまりました。それではこちらに招待を受ける旨と、サインをお願いします。早馬で返信を届けますので」
言われた通り簡単な一文と横にサインを書く。
パメラに渡すと封をして、人を呼びに行った。
問題は一人は嫌だから、誰か一緒に行く人を探さないとってことだ。
誰か……エリザにダメ元で聞いてみようかな。
でもエリザは屋敷の外にいて、僕は屋敷から出られない。
詰みだね。
仕方ない。
屋敷に誰かいないか見て回るか。
そう思ってたら、パメラが手配が済んだのか戻ってきた。
「パーフェン伯爵にはいつ会いに行けばいいの?」
「先ほどの招待状の日程に間に合うようにするためには、明後日にはこちらをたたないと、ですね。準備はこちらでいたしますので」
「分かった。ちなみに、他に誰か連れて行っても問題ないよね?」
「どういう目的かによりますね。招待されたのはアーク様のみですから、常識的に考えれば、関係ない者を連れ立つのはよろしくないでしょう」
「目的はそうだな……人が決まったら考えるよ。ちょっと屋敷を歩いてくるから」
ひとまず誰を連れて行くか決まらないと目的も何もないからね。
適当に屋敷の中を探索する。
みんな忙しそうだ。
パッと思い付く仲の良い人ってなると、コックとか給仕係とか庭師とかになっちゃうんだよなぁ。
さすがにコックや給仕係や庭師を連れてく目的は、思い付かない。
これといった良い案も湧かないまま、ぐるぐる歩いていたら、あまり訪れたことのない部屋の前に着いた。
風通しのためか扉が開いているので中の様子が通路からでも見える。
たくさんの書類の山。
片隅に置かれた机と椅子に、見知った青髪の女性が作業をしている。
「やぁ、マリー。久しぶりだね。その後の調子はどう?」
「……!? アーク様。お久しぶりです。廃坑の調査以来ですね。しばらく大変でしたが、さすがにもう回復しました」
「それは良かった。ところで、マリーの仕事って色々なことを書き残すことだったよね?」
「書記官ですね。主な仕事はそうですが、それが何か?」
「ちょうど良かった。明後日からパーフェン伯爵のところに行って、話をしてこなくちゃいけないんだけどさ。言われたことをきちんと覚えておく自信がないから、記憶と記録のために一緒についてきてよ」
「は……? いえ……あの?」
「じゃ、よろしくね!」
良かった、良かった。
マリーなら、廃坑で一緒に散歩した仲だし、その時話もしたから一緒に行く人としては問題なさそうだし。
パメラの言ってた、目的ってのもバッチリだから大丈夫そうだ。
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