第18話 ドラゴン退治は終幕に
ガードたちが撤退戦が順調に進行している一方、冒険者組……セクレトとコーストは、スカイドラゴンと対峙していた。
「防御は頼んだぜ～？」
「あ、あぁ！ 任せておきたまえ！」
あくまで軽い口調のセクレト対してに、コーストが緊張感に満ちた声で答える。
A級冒険者といえど……あるいはその危険性を余すことなく理解出来るレベルだからこそ、余裕は微塵も存在しない。
しかし、恐怖の類もまたその表情からは感じられなかった。
それは、今回の『相棒』への信頼ゆえなのか……あるいは、他の理由が存在するのか。
「よっ、っと」
セクレトは懐から魔石を取り出し、跳躍すると同時にそれを割る。
込められていた風系統魔法『飛風』の補助によって、その身体が天高く舞い上がった。
たちまち、スカイドラゴンと同じ高度に到達する。
セクレトを睨みつけたスカイドラゴンが、今一度大きく口を開けた。
ブレスが放たれる。
進路を変えることで回避。
余波はコーストの結界が防いた。
セクレトは次々に魔石を割っていく。
光系統魔法『輝光』。
一瞬だけスカイドラゴンの目を眩ませる。
火系統魔法『極爆』。
僅かにスカイドラゴンの体勢を崩す。
水系統魔法『捕水』。
スカイドラゴンの顔を水で包み込むことによって、少しだけ気を逸らす。
闇系統魔法『剥魔』。
若干ではあるが、スカイドラゴンの纏う魔力障壁を削る。
どれも一つ一つは、さほど有効な魔法ではない。
ドラゴンからすれば、小虫が集って少々鬱陶しい、程度のものだろう。
だが、それで十分。
準備は整った。
「フッ！」
鋭い呼気と共に、セクレトは背にした大剣を抜くと同時に一閃。
こちらは何の小細工もない、正真正銘ただの剣撃だ。
ただし、それは『神剣』の異名を持つ者が放った剣撃である。
とはいえ、セクレトとて何でも斬れるというわけではない。
物理的に、不可能なものは不可能だ。
例えば硬い鱗と柔靭な筋肉、強固な魔力に護られたドラゴンの体皮。
魔剣の類ならまだしも、業物ではあっても普通の武器の範疇を逸脱しないセクレトの大剣では技量でどうにかなるレベルではない。
が、しかし。
目を眩ませ体勢を崩し気が逸れたことで弛緩した弱点を易々と晒し、若干とはいえ魔力障壁まで削られたドラゴンの首ならば。
見事、頭と胴体を泣き別れさせることに成功した。
「ほい、終了～っと」
ドドスン！ と大きな音を立ててスカイドラゴンの頭部と胴体が地面に落ちる。
その傍ら、こちらは音もなくセクレトが着地した。
「ははっ、驚いたな」
後ろから、そんな声と共にコーストが近付いてくる気配。
「セクレト。君、昔より随分と」
セクレトは、振り返ろうとした。
けれど、その直前に。
「弱くなったじゃないか」
ズブリと。
「……あ？」
セクレトの胸から、剣の切っ先が飛び出した。
「こふっ」
軽く咳き込んだのと同時、口から大量の血が流れ出す。
「私などに、殺されるとはね」
ようやく、セクレトは振り返った。
身体は剣によって固定されているため、顔だけで。
「残念だよ」
言葉通り、コーストの表情は遺憾が見られるものだ。
「な……るほど、ねぇ……」
彼の手にした剣が間違いなく自分の心臓を貫いている刃と繋がっているのを視界の端で確認し、セクレトは血液と共にそんな言葉を口から吐き出した。
「こういう、パターンか……」
もちろんセクレトも、スカイドラゴンの出現が自然発生的なものだとは微塵も考えていなかった。
黒幕の存在は、明確に感じ取っていた。
そしてその予想の中で、それが内部に紛れている可能性も当然検討していたのだ。
「ひひっ」
セクレトは、ニッと笑う。
「さようなら」
それを負け惜しみの笑みと取ったか、コーストの顔にありありと失望の色が浮かんだ。
コーストが剣を引き抜く。
「かつて、私の憧れだった冒険者よ」
支えを失い、セクレトは倒れ伏した。
ドクドクと流れ出す血は、もちろん止まる気配などあるはずもない。
既に、致死量に達している。
こうして。
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