第3話 転移

「おいおい、献花台まで作っちゃって何を暴露してくれてるんだよ!」


「あら、可愛い名前ね。──キルたん!」


「ちょっと女神様までからかわないで下さいよ」


「それにしても火事を起こした部活の責任者だったのに献花台を設けてもらえるなんて、君のいた世界は甘いわね。──と言うか業務上過失傷害罪だと思うのよね。 私が校長なら首塚作って晒首さらしくびにするところよ!」


「ちょっと待ってください、それはちょっとおかしくないですか? そもそも首塚は晒首さらしくびを供養するところなのですよ、その場所に新たに晒首さらしくびを置いたらダメでしょ」


 ・・・・・・


「──このどら焼き、美味しいわよ」


「いただきます──。ところでいかにも異世界転移か転生をうながす展開なのですが、どうしてちゃぶ台を囲んで録画映像を見ながら茶をすすっていなければならないのですか?」


「このちゃぶ台の事が気になる?」


「いえ、ぜんぜん」


「これはね、天界一オークションで、それはもう高額で落札できた逸品なのよ」


「へ~」


「とある野球バカな父親が愛用していた物らしくてね、オークションのカタログで見て一目惚れしたのよ、だから頑張って競り落としちゃったわ」


「落としちゃったわ、じゃないですよ! そもそもちゃぶ台の事は全く気にしていませんのでそろそろ話を前に進めてもらえませんかね」


「お茶、もう一杯飲む?」


「いただきます」


・・・・・・


「少し脱線したわね。ではキルたんの今後の事についてお話しします」


「お願いします。──というかキルたんはやめてください」


「コホン、──君には転移してもらいます」


「異世界転移ですか?」


「異世界? ・・・そうね、異世界ね~ それって定義があやふやなのよ、だから別の言葉を君に送るわ」


「なんですか?」


「惑星間転移してもらいます」


・・・・・・


「それって別の惑星にこの姿のままで飛ばされると言う事ですか?」


「それはムリでしょ、君の体は燃えちゃったし」


「ではどうやって転移するのですか?」


「それはアレよ、魂だけ飛ばして向こうの誰かに入れ込むのよ」


「では向こうの誰かの魂は消えて無くなるのですか?」


「まあ、色々なパターンがあるけど今回は入れ替えね」


「僕と入れ替わった相手は魂だけ地球にやってきて幽霊にでもなるのですか?」


「大丈夫よ、今回の相手方は地球で転生する事になるから」


「僕はなんて罪な男なんだ。僕が死んだせいでどこかの宇宙の誰かが強制的に地球で転生させられるのですね」


「まあ、まあ、全宇宙の摂理なのだから仕方ないのよ」


「そう言われましても」


「分かって、キ・ル・たん」


「可愛く言われても納得できません。あと、マジでキルたんはやめてください」


「あ! ホラ、君が行くところには魔法もあるし、エルフやドワーフもいるのよ」


「スライムは?」


「当然!」


「・・・ならいいです」


「地球以外の惑星もいいものよ。空気は美味しいし、美人は多いし。地球なんて狭い狭い! お茶のお代わりいる?」


「いえ、まだあります」


「それで転移先なのだけど、少し遠い所になるのよ」


「どこに転移させられるのでしょうか?」


「そうね、君たち地球人に説明するとなると・・・ あ~ 地球にもそのことを理解してた人物が1人いたわね、たしか、宮沢さんとかいう小説家なのだけど。知ってる?」


「宮沢さん? それって知らない方がおかしいですよ」


「その小説家の言い回しだと、と表現してたわね」


「・・・」


「実際は我々の創造主が食事の時にこぼしてしまったタピオカジュースの跡なの。それがダダっと流れて広がってそのまま天体として作られてしまった経緯があるのよ」


「はあ・・・」


「君にも分かるように説明すると太陽系を含む天ノ川銀河系がそのタピオカジュースのこぼれた跡で、君が今から行く所はその中の惑星の1つ、イポカンテクロスマノマニトーレスよ」


「惑星イポカンテクロスマノマニトーレスですか、なかなか記憶に残りそうに無いネーミングですね。たぶん明日には確実に忘れていますよ」


「そこで君には魔法鍛冶職人になってもらいます」


「魔法鍛冶職人ですか?」


「横文字にするとマジカル・ブラックスミスといったところでしょうね。略してMBS」


「MBSですか、それはちょっと嫌な感じなのでやめてください。それに無理やり略さなくても魔法鍛冶職人のままでいいじゃないですか」


「呼び名はどうでもいいのよ。何か不満はある?」


「いえ、なんだかワクワクする職業名でなによりです。不満は無いのでそれでお願いします」


「同意が取れて良かったわ。もしごねられたら君の魂を永久封印するところだったわよ」


「永久封印とか困るのでやめてくださいね」


「冗談よ」


「・・・冗談ならいいです。──ところでその魔法鍛冶職人の事を詳しく教えてもらえませんか?」


「そうね、いいわよ。ではまず魔法鍛治職人とは何かから説明するわね」


「よろしくお願いします」


「それはね、簡単に説明すると君が今まで学校の部活で教えていた刀鍛冶の手法を魔法でサポートして手間を省いた感じでできるようにした職業なのよ」


「魔法でサポートですか?」


「そうなのよ」


「何だかワクワクしますね」


「まあ喜ぶのは後にして、まずは私の話を聞きなさい」


「はい」


「それでは機材の話をするわね、これ目録ね」


「機材?」


「──いい、読み上げるわよ」


「お願いします」


「まず魔力を付加しながら砂鉄と炭を入れるだけで玉鋼たまはがねができてしまう、たたら製鉄器、タマちゃん。──このたたら製鉄器は土壁では無く特殊合金で作られているのよ」


「・・・」


「次に魔力を付加しながら叩くと叩いた回数だけ折り返し鍛錬ができてしまうマジカルハンマー。15回ほど叩けば地鉄に立派な鍛え肌が織り込まれた刀が完成するわ」


「それはいいですね」


「その他にも色々と機材があるのよ」


「・・・」


「魔力を付加しながらイメージしたデザインを思い浮かべるだけで仕上がってしまう手袋、マジカルタクミン手袋。あらゆるモノが鑑定できてしまう、アテナ14号。鉱石レーダー、ミルミン。ついでに異空間収納BOXのスキルもあげるわ。異空間収納BOXの中には役立つ物も入れておくから」


「凄いです! こんな凄そうな機材がもらえるなんて。まるで本物の女神様みたいですね」


「ありきたりな賛辞をありがとうね」


「なんだか、いたせりつくせりな感じですが、そんなにもらっちゃって良いのですか?」


「ええ、問題ないわよ」


・・・・・・


「ところで僕には何か使命的な事は無いのですか? こんなに優遇されているのですから一つや二つくらいの事は聞きますよ」


「使命? そんなものは無いわよ」


「それではなぜ僕はこんなに優遇されているのですか? それに僕にピッタリすぎる道具の数々なのですがなんだかそこのところがせませんね」


「そうね、それについては最近のわたしの話をしをする必要があるわね、──聞く?」


「お願いします」


「この前、休憩時間に君たちの惑星で流行りの映像コンテンツを見ていたのよ。そこで興味深い内容の映像があってね」


「どんなやつですか?」


「たしか素人でもできちゃう操業と匠が教える刀鍛冶の世界というタイトルだったかしら」


「・・・・・・」


「何回か繰り返し見ているうちに私なら魔法でどうにかできるかな~とか思っちゃたりしてね、色々やっていたら魔道具ができちゃったのよ」


「女神様は暇なんですね」


「暇ではないわよ、それに遊んでたわけでもないのよ。これは知見を深める為であって、色々な映像を見ることで君たち人間の転移や転生に役立てる為なのよ」


「それで?」


「それで作った道具がもったいないから、たまたま死んだ君に、たまたまあげようかなと思ったの」


「僕がここにいる理由がよくわかりました。それと使命が無いことも加えてよくわかりました」


「と言う事で前置きが長くなったけど早速転移してもらうわね」


「ちょっと待ってください」


「ナニ? 私も一緒に転移して欲しいとか言われてもそれは無理よ!」


「そんなことではありません、少し別の希望があるのです」


「え~ 違うの~ つまらない男ね」


「それじゃ一緒に来てください」


「ムリ! (´∀`*)アハ」


「最初から否定する気ならそんな振りはしないでください」


「ついついよ、ついつい、──それでナニ? おおむね希望には添えるわよ」


「それでは容姿をひ弱な感じで可愛くしてもらっていいですか。それと実は力持ち的な感じの人間にしてください。生殖器は大き目で。あと死なない感じでお願いします」


「なんだか要望が多いわね。でもまあいいわよ。そんな感じにしてあげる。ただし容姿に関しては元を大幅には変えられないからそこのところは勘弁してね」


「はい、ありがとうございます」


「では黒森ハガネ君、立ちなさい」


「はい!」


「──§Δ§・ΨΛΨ・ΦΛΨ・・・」


 女神様が呪文を唱えた。


「君を惑星イポカンテクロスマノマニトーレスのコルテス王国に転移させます」


女神さまの声が頭の中でグルグル回り徐々に意識が薄れていった。





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