第3話 おしゃれハッカーの誕生(3)
「どうするらに? ここじゃあ、怒られちゃうらに」
らにちゃんはいつの間にかわたしの肩に乗っている。ここがらにちゃんのお気に入りの場所。なんでか、よくわたしの肩に乗るの。わたしも小さなのころはよくおんぶしてってパパやママにおねだりしていたけれど、らにちゃんもそうなのかもね。
「フィールドワークしましょうよ」
「ふぃーるどわーく?」
「外で調査するって意味」
「おお、なんか楽しそうらに! フィールドワークしようらに!」
らにちゃんをそっと撫でて、わたしは足取りも軽やかに、校庭の隅にあるアスレチック広場へと向かった。こういう時にわたしの地味なファッションは便利。汚れを気にせず気ままに遊べる、いや、調査できるもの。着替えだってお家に帰ればいっぱいあるしさ。
「楽しそうな場所らに! マナちゃん遊んでらにっ!」
アスレチック広場というのは、砂場にジャングルジム、シーソー、登り棒、それに滑り台からブランコまで、いろんな遊具が置いてある校庭にある広場のこと。子供に危険ということで公園に行ってもなんにも遊具が置いてないことが多いのに、こんな広場のある学校は珍しいってパパは言っていた。
「だめよ、今日はフィールドワークのお仕事なんだから」
「お仕事だなんて、なんだかマナちゃんのパパみたいなことを言うらにね」
わたしのパパは獣医さん。普段のお仕事とは別に、休日にまで森で動物の調査をしている。それでついわたしも真似をしたくなってしまった。たまに連れて行ってもらって、パパのお仕事を見ていると、山の中で、わたしや若い学生さんたちとみんなで動物と一緒に遊んでいるだけに見えるのは内緒。それだけみんな動物や自然が好きなんだね。好きなことを仕事にできるのっていいなって思うな。わたしなら漫画家とかパパと同じ獣医さんかな?
でも、大人になった自分のことなんてまだまだ想像ができないよ。いまいちピンとこない。
「うーん、なかなか見つからないわね」
きっとここなら何かあるかなと期待していたのだけれど……。
「ねえ、四色さん、またひとりでロボットと遊んでいるよ」
「誘ってあげたら?」
「えー嫌だぁ、だってぇ、何を考えているのかよくわからないんだも~ん」
同じクラスの女子三人組。みんな活発でおしゃれ、それに可愛いから男子からの人気もあるグループ。そんな彼女たちの無邪気な笑い声が、オレンジ色になった校庭にこだまする。
委員会の活動で帰りの遅くなったんだろうね。わたしのことを好き勝手に言ってくれる。
気にしないようにしているけれど、こんな姿をらにちゃんに見られて、なんだかとっても恥ずかしい。
……あれ、おかしいな。
わたしは冷静なつもりなのに、こころがざわざわしてる。
夕陽を背にして、長く伸びた自分の影を、わたしはどれくらいぼんやりと眺めていたんだろう。あんなことを言われたくらいで胸がざわつくのは、自分に自信がないからだろうな。
もっと可愛くておしゃれだったら自分に自信が持てたかもしれないのに……。今のままじゃ、自分のこころにある『正しい友達』と思うものに胸をはれないんだ。このまま人間の友達を作らずにロボットと生きていくのかな? これからの時代ってそうなっちゃうのかな? でも、らにちゃんが『とっても大切な友達』だっていう気持ちは、人間の友達に負けないよ!
「マナちゃん、これからどうするらに?」
わたしに気をつかっているのか、それとも無邪気なのか、らにちゃんが話題をそらしてる。ま、くよくよしてもしょうがないか。わたしは自分が好きなことをやることくらいしか才能がない地味な女の子なんだもん。
「ふっふっふ、だいじょうぶ! ひらめいちゃった! 幽霊なら見つけられないけれどロボットなら見つける方法があるの!」
わたしがランドセルから取り出したのは磁石。磁石には鉄を引き寄せる力がある。つまり、機械なら磁石にくっついちゃうというわけ。
「どう? 磁石でロボットをつかまえようってアイデア。論理的に考えてイケてる作戦でしょ」
「うーん、でも、その磁石、小さすぎてダメなんじゃないからに?」
「あ、そうか。それもそうだよね。でも、そうとなると方法がないわね……」
わたしったら何を言っているんだろう。普段ならこんなミスはしないのに。
「マナちゃんはおっちょこちょいらに」
「返す言葉もございません」
そんな時、ちょうど下校のチャイムがスピーカーから流れてきたの。
「時間切れか。結局、全ての謎は解き明かせなかったな……」
登下校の時間は校門を通過するときにランドセルのICタグで記録されるようになっている。だから、早く帰らないと明日先生に怒られてしまう。
「また明日調べればいいらに」
らにちゃんと話をしていると小さな女の子がいつの間にか砂場に立っているのが視界に入った。さっきまであんな女の子いたかしら。
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