第8話 体力づくりはじめます

 邸に到着してからロラ姉様とモニカ姉様は私と久々に遊んでくれたわ。本の話や刺繍の話、今王都で流行っているお菓子の話。色々なことをいっぱい話したの。でも、とうとう姉様達の帰る時間になった。


楽しかった分とっても寂しくなって涙が出そうになるのを我慢する。


「姉様達ともっと一緒にいたいです。」

「ブランシュ! なんて可愛いのっ」


私は二人の姉様達にギュウギュウと抱きつかれ頬ずりされている。


「そうだ、姉様、お願いがあるのです」

「なぁに?何でも言ってちょうだい」


私はモジモジしながらこっそり姉様達の耳元で話す。


「実は、今度お兄様の誕生日なのです。街にプレゼントを買いに行きたいのですが一緒に行ってもらっていいですか?」

「なんて可愛いのっ! 良いわ。叔母様ともお話した上で決める事になるけれど、私達は大歓迎よっ! 楽しみだわ」


姉様達との別れを惜しみつつ街へ出掛ける約束を取り付けた喜びでウキウキで踊りだしたくなるわ。その様子を見ていた母は苦笑していたわ。




翌日からまた私は部屋でマリルと一緒に刺繍をしていると、邸が慌ただしい気がする。

「マリル、邸が何だか騒がしいけれど大丈夫なのかしら?」


マリルはきにした素振りをするでもなく私にお茶を淹れてくれる。


「きっと下の階で虫が発生したのだと思いますよ。大丈夫です。ささ、お茶でも飲んで刺繍を続けましょう」


虫!?


 私は驚いているけれど、マリルもエディットも全く気にしていない様子。騒がしくなったほど大きなゲジゲジとかヤツデとかなのかな。


大量発生していたとか!? それはそれで怖い。


「そうだ! エディット。私に護身術を教えて頂戴」


ふと思い出したの。この間のお茶会の時の連れ去られそうになった事を。


「んー護身術ですか。そうですね、まず体力を付けないといけませんよ。ですが部屋から出るのはあまり得策ではありません。難しいのではないでしょうか?」

「大丈夫。今日から筋トレをしようと思っているの。目指すはムキムキマッチョなの!」


私はスクワットをしてみせる。エディットもマリルも私の姿をみて鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。そりゃそうよね。絶世の美少女令嬢が突然ワンピース姿でスクワットを始めるんだもの。


「そうだ、マリル。部屋で運動をしたいからズボンが欲しいわ!動きやすい物がいいわ」

「かっ、畏まりました」


いくら超インドア派の私でも筋トレしないとね! まだ十歳。護身術を身につけるためにも筋肉は付けておきたい。とりあえず、マリルとエディットと私だけの秘密にと口止めしておかなければね。


令嬢が筋トレなんて下品だって言われかねないもの。世の中はどうなっているのか分からないけれど。


女の子でも剣を持つのかしら?


自分の世界が狭すぎて知る術がないのが悔しい。



 そうして私の室内トレーニングはこっそり始まった。朝と寝る前はプランクとスクワット。日中は母とお勉強をするので出来ないのが残念だわ。


マリルは動きやすいズボンを用意してくれたので朝晩はズボンで過ごしているの。これがまた楽ちんでいいわ。グーたら出来る。


マリルの視線は痛いけれど気にしない! 最初の一週間は筋肉痛が酷かったね。さすが室内だけで過ごしている令嬢。


十歳にしてこの体力。絶対不味いよね。


たまにダンスを練習するけれど、ダンスだけでは体力の強化出来ないらしい。一週間を過ぎる頃には少しずつ体力も付いてきたんじゃないかな。

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