035-アンドロイド

「では、ここで」

「...ああ」


私は支払いをアレンスターに押し付け(食事代自体は奢ってもらうほどの額ではなかった)、一人で街を歩き始めた。

だが、少しだけ気になって少し戻る。


「まだいたか」


先程のテナント募集の張り紙の前で、アンドロイドはまだ佇んでいた。

私が声をかけると、


『あなたは.....引き取り業者の方ではないようですが...?』


と返してきた。

引き取り業者がいるんだ。

それなら佇んでいるのも仕方ないかと思い、私は踵を返そうとする。


『.......ワタシを心配に思ったのですか?』

「....いや? ただ、アンドロイドが欲しいなと思っただけだ」


経理とかやってくれそうだし。

私はその辺がちょっと苦手で、ノルスに任せっきりにするのも不安だ。

彼らは優秀なように思えても、まだ子供だし。


『....そうですか』

「自分を売り込んだりはしないのか?」

『...ワタシの存在意義は、商品をお客様に売る事です。自分を売ることはできません』

「そうか」


アンドロイドって、凄く単純な存在なんだ。

感じる知性や個性は、全て見る人間の妄想で、彼らはただ与えられた目的に沿って動いているだけだ。


「回収業者が来たら、廃棄か?」

『そうですね、ワタシは居なくなってしまうでしょう』


まあいいか。

私も暇じゃないので、彼を置いて去る。

一度だけ振り返ったが、彼はその場から動くことなく、佇んでいた。







「.....という事があったので、アンドロイドを購入することにした」

「アンドロイド...ですか。御主人、此の身では不足ですか?」

「そういう事じゃないんだがな....ノルスの頭がいいのは分かっているが、船全体の制御となると.....」


ようは、船を管理するコンピューターが欲しいが、ついでに雑務を任せる程度の能力も欲しい。

だからアンドロイドに頼みたいのだ。


「此の身はあなた様の僕、不足でないのであれば反対する理由はございません」


ノルスも納得してくれたので、私は早速マーケットに出向くことにした。

.........のだが。


「....た、高いっ!?」

「主人....値段をご存じなかったのですか?」

「....仕方ないだろう」


クルータイプは120万MSCだった。

流石に超高性能らしく、他の愛玩タイプ(5万MSC)、店員タイプ(2万MSC)、教師タイプ(17万MSC)、家政婦タイプ(22万MSC)等に比べて破格の値段を持っていた。


『自分で組み上げるのであれば、パーツだけお売りできますよ?』

「.....パーツだけという事は、素体はどこで買えばいいんだ?」

『....すみません、お答えできません.....』


アンドロイドは自分で提案したというのに口を噤んでしまう。

ファイスに目配せをするが、ファイスも知らない様子だった。


「....これは、アレンスターに聞いてみるか....」


私はファイスの視線を背中に浴びながら店を後にした。

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