032-緊迫

アルゴの船は、小型のボロ船だった。

けれど、しっかりカスタムはされている。


「機動戦用か」

「よく分かるな?」

「スピードタンクだろう、攻撃が当たらない分、こちらも当てるのが難しくなる筈だが、上手くやっているんだろうな?」

「....ああ」


見れば、メイン武装はマルチキャノンだった。

機体の上部に二基ついている。

あれで高速機動中に弾をばら撒くのだろう。

ただし、恐らくレーザータレットで、プロジェクタイル実弾ではない。

減衰率が激しく、近接戦闘でないとほぼ当たらないと思う。


「入れよ」

「ああ」


船の中に入ると、酷い様相だった。

最低限の清掃はされているが、散らかっていたり部屋の端に黒ずみがあったりしている。

アドアステラは全館自動清掃なので、この辺はありがたい。


「それで、こんな場所で俺に何の用だ?」

「こうするのさ」


アルゴが壁際のスイッチを押すと、入ってきたドアが閉まった。

そのままアルゴは、私に銃を向けた。


「海賊と繋がってる奴は流石に見過ごせないんでね」

「俺はそんな事を....」

「黙れよ!」


アルゴは銃を構えたまま私に近寄って来る。


「俺は五年もシルバーなんだぞ、お前みたいなぽっと出が、すぐシルバーなんてあり得ないんだよ」

「なんだ、そんな事だったのか」


私は練習したとおりの動きで、アルゴにカルセールを突きつけた。

アルゴが一瞬目を見開く。


「....こいつは驚いたな、どこで手に入れたんだよ、こんな逸品」

「武器屋の店主から託された、と言っても信じないだろうな」


この眼、見覚えがある。

中学の時にお兄ちゃんに突っかかっていた男と同じ。

人に嫉妬はするけれど、どうせできないと心の中で卑屈になって努力しない人間の眼だ。

だったら、理解らせるしかない。


「撃つのかよ?」

「そう言ったらどうする?」

「....通報するさ」

「どこまでも腐ってるな」


私は銃の引き金に手を掛ける。

相手が撃つならいつでも撃てる姿勢だ。

私たちはしばらくにらみ合い、そろそろ銃を卸そうかと思っていたその時。


「御無事ですか、主人!!!」


外で声が響いた。

それに驚いたアルゴが、引き金を引いてしまう。


「ぐ......」


彼が撃った。

だが、その瞬間に全てがスローモーションになる。

カルセールが波打ち、そして。


「しまった!!」

「いいや、構わない」


時間の流れが元に戻るものの、私は無事だった。

私の命を救ったのはカルセールだ.....ただし、あの店主が説明しなかった変形を見せた状態だったが。

銃身が上方向にずれて、抑えていたグリップの銃身部分が開いて、内部にあった発光するクリスタルのようなものを露出させていた。

まだ一回も撃ってないのに、新機能なんて......


「(まあ、撃たなくてよくなったからいいか)」


戦艦のシールドを貫通する代物をぶっ放すと、確実にトラブルに発展するのでエネルギーを吸収する機能くらいで済ませられてよかった。

このまま展開してると何かまずそうなので、戻ってほしいのだが――――戻った。


「お前......そ、その、すまなかった...」

「構わない」


アルゴが謝罪し、その場は何とか収まったのであった。

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