157-『アークルート』攻略戦-前編
「ジェキド様」
「どうした?」
四日後。
ジェキドは、側近であるキシナに呼ばれ意識を浮上させた。
「『ヌルレス』に展開中の敵軍が動きました」
「ほう、それで?」
「『アークルート』へと侵入を開始、既に傘下の基地に攻撃が行われています」
「!!」
その時初めて、どうでもよさそうだったジェキドの顔に焦りが浮かぶ。
アークルートとは、エミドの本拠地である『バクタラート』の空間的に隣接したワームホール星系なのだ。
「バカな、アークルートへの門は閉じたはずだ」
「敵もワームホール制御技術を保有している模様」
「あ、あり得ん!」
ジェキドは叫ぶ。
遥かに超越した理論を以て運用される技術なのだ。
「(我々のような知性体以外の原生生物が持っていい技術ではない)」
ジェキドは更なる焦りを加速させる。
そして、同時にその高い知能は、ある結論へと辿り着かせる。
「(まさか......このエミド統合体を超える超文明?)」
一度は敗北したものの、すぐに盛り返し、エミドを超える技術で以て戦力を圧倒している。
それも、ただの通常艦船と、たった二隻の主力艦で。
ジェキドは認めざるを得なかった。
「秩序が......秩序が破られる........混沌が、蔓延ってしまう! キシナ、待機中の全戦力をアークルートへ回せ!」
「それが.....ジェキド様、通常空間の方でも、Ve’zが.....」
「Ve’zなど放っておけ!」
ジェキドは感情を露にして叫ぶ。
「奴らは我々より強いが、しかしその力をどう扱うか理解している! だが、この侵略者どもは違うのだ! ただ喰らい、滅ぼすだけの存在だとなぜ理解しない?!」
「承知しました。全戦力を向かわせます」
キシナに感情はない。
最近になってジェキドがその機能を復活させただけであり、まだそれらしい感情は生まれていないのだ。焦りや混乱というものは彼女からは無縁のものであり、ジェキドの必死な様子は彼女の中では「極めて優先するべき事項」として映った。
こうして、アークルートに全戦力が集結し――――――
「......弱くないか?」
『そうですね』
俺は疑問を口にする。
エミドの本拠地に繋がっているらしいワームホールから、数万を超える敵艦が出現したのだが........
『恐らくですが、急な戦力要請の結果だと思われます。各分隊同士の統制が取れておらず、隊長格同士の競合が発生している模様』
「それに、エネルギーも足りないのか?」
俺は気づく。
もしかして、エミドの特異点機関とは.......どこからか力を転送されているだけではないのか? と。
それならば、これだけの数がいながら沈黙している艦がいるのも頷ける。
「オーロラ、敵はこれだけの数を動かすことを想定していないのか?」
『恐らく。P.O.Dによる制圧が可能な以上、大規模な数を動かすことを想定していない可能性が高いかと。』
最強の鉾と盾を持っているが、それを動かす力はどこかから得ている。
そして、その力の源からは一定量のエネルギーしか得られず、普段数千程度の運用だとしたら?
当然、数万を同時に動かせばエネルギーが枯渇するのは当然の話だ。
「最強の鉾は躱され、場合によっては修復されてしまう。対して最強の盾は容易に貫かれる――――まあ、戦略アップデートをしないやつの末路だな」
よくある事だ。
圧倒的じゃないか我が軍は、と数字だけを見て笑っていると、数度の戦いを経るうちに露出した弱点や、未知の事態や不測の事態に見舞われ、その「最強」は容易に崩れ去る。
敵を知り、自分を知り。
常に戦略と戦術をアップデートし続ける事こそが、「最強」を手にするにふさわしい人間なのだ。
『敵基地への射程距離に到達』
「よし」
俺は頷く。
「『ランサー:クリムゾンロード』、『アルビオン・メイカー』充填開始!」
ミドガルズ・オルムとナグルファーが、エネルギーを同時に収束させ始める。
させるまいと、エミド艦が殺到するが――――
「無駄だ。行け――――紅蓮・雷華!」
虚空が歪み、赤い、紅い機体が姿を現す。
その爆撃艦は、殺到するエミド艦の進路にその艦首を向け、ボムを放つ。
『通じるんでしょうか?』
「ただのボムじゃないからな、ド級のボム、ドボムだよ.....ってのは冗談だが、あれはボムの中でも高い奴だ」
素材が滅茶苦茶に高い。
まったく、こんなものを数百発も一度に使うなんてな。
だが.....
「楽しいな、少ない資源をやりくりするのは!」
『頭は大丈夫ですか?』
「ああ」
俺の目の前で、光の閃光が巻き起こる。
シールドを吹き飛ばし、その装甲が凄まじい爆風で剥がれ落ち。
バラバラになったエミド艦がそこに残った。
一体何千人が死んだのか、俺には想像もつかない。
『エネルギー充填完了、発射します』
「ああ、撃て!」
そして。
ミドガルズ・オルムとナグルファーが、紅い光と蒼い光を同時に放った。
それは、シールドが減衰したエミドの基地に突き刺さり、そのシールドを徐々に崩壊、貫通して内部の構造物を蒸発させた。
「P-G艦隊を旗艦級の周囲に展開しろ! 直ぐに寄ってくるぞ!」
『了解!』
「ナグルファー、急速冷却開始! POSEを使う!」
『はい!』
俺は引き続き指示を出し続ける。
敵は確かに弱体化している。
しかし、油断ならない戦いであることは間違いない。
ナグルファーがPOSEを使い、寄ってくる敵艦をP-G艦隊の壁ごと吹き飛ばす。
「ルル、天空騎士団を率いて敵艦内部を撹乱しろ!」
『はい!』
編隊が複雑な機動を取って飛んでいく。
それを横目に見ながら、俺は次の選択肢を選ぶために戦場を俯瞰した。
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