153-雷霆の名は

ユグドラシル星系の戦況は、一瞬でNoa-Tun側に傾いた。

しかし、第二船団も負けてはいられない。


『来やがれ、後詰め共!』


ワームホールから呼び寄せたエミド艦隊を合流させ、数を揃えてナグルファーを襲い、そして再び謎の攻撃によって吹き散らされる。

その攻撃の正体は、P.O.S.Eフィールドジェネレーター。

Particle Oscillation Shock Eruption......つまり、粒子振動衝撃波ジェネレーターという意味である。

P.O.Dと原理は似ているが、こちらは違う。

即ち、周囲にあるすべての粒子を――――攻撃に利用するのだ。

文字通り、格の違う一撃。

物理攻撃に弱いとはいえ、エミドのシールドは硬い。

それをたった一瞬で破壊してしまうほど、粒子は速く、強いのだ。

そして、何より......


『損害拡大。32%』

『クソォッ、何だこいつら! 囲んでも囲んでも......突破しやがる!』


スプリットダーク級巡洋艦。

それらは、巡洋艦らしからぬ速度と突破力、そして火力を持ち合わせていた。

電撃が戦場を駆け巡り、エミド艦を次々と打ち破っていく。

そこに、小型のエミド艦数隻が群がり、P.O.Dで薙ぎ払う。

だが、


『硬すぎる....!』


その船体をいくら切り裂こうと、直ぐに修復が始まってしまう。

そして、素早く援護に回ったストームブリンガーがエミド艦を撃つ。

電撃は友軍にも当たってはいるものの、直撃程度であれば装甲の貧弱なエミド艦とは異なり、耐えられる。


『敵の艦載機隊が接近』

『適当に撃ち落とせ!』


そして、電撃が飛び交う中で戦闘行為をする編隊が一つ。

エミドが展開しているドローンや艦載機相手に攻撃を仕掛け、撃墜している。

タウミエルと――――HAL-0001。

無人戦闘機の初期型として導入されたものだが、どうも性能が低く、徐々に数を減らしていた。

対するタウミエルは、新たに増設された両翼の大型砲でドローンを吹き飛ばしている。


『はぁ....はぁ.....ふぅ......』

『大丈夫か? 問題があるようであれば、直ぐに帰投させるが?』

『問題ありません、司令官!』


なぜこんな機動がアインスにできるのか?

それは、アインスが大量のインプラントを装着しているからだ。

かつて自分を実験台にして副作用を調べ上げられたインプラントが、今度は彼女の力となっていた。

しかしながら、インプラントとは身体性能を無理やり引き上げるか、脳に負担をかけて高い効率を維持するもの。

アインスの目は血走り、口からは常に全力疾走のような息が漏れていた。


『まあいい、アインス! キルゾーンより離脱せよ』

『はっ!』


アインスは即座に離脱する。

キルゾーンの線を見たシンは、小さく呟く。


「一度言ってみたかったんだ、この台詞」

『何と?』

「”連鎖のラインは整った”! H-LVPR、発射ァ!!」


High-

Large

Vorton

Pulse

Releaser。

ワールドスレットにのみ装備することを許された、究極の最終兵器が光を放つ。

二つの電撃が、まるで道を通っていくようにエミド戦艦を破壊しながら伝播し、そして――――


『エミド統合体、万歳!』


エミド主力艦に直撃し、そのシールドの内側で二つの電撃が暴れまわる。

シールドが消失し、電撃は周辺のデブリ全てに分散して拡散していく。


『司令官、お疲れさまでした。ユグドラシル星系で敵のシグナルが完全に消失しました』

「まだだ! オーロラ、例の地点へ!」

『はい!』


ナグルファーは回頭し、即座にワープを行う。

即座と言っても、数分を要するが....

その先に、エミドの星系に繋がるワームホールがある。


「オーロラ! ワームホール制御装置を!」

『はい!』


元々は、星系内に発生するワームホールの数を増やす装置としてあったものを、急遽改良したものである。

そのため効率化されていないが......


「やはり、閉じようとする力は強いか。だが――――――そうはさせない! オーロラ、やれ!」

『はい。次元導管誘導ビーコンを発射します!』


ナグルファーから発射されたビーコンがワームホールへと飛び込む。

内部に入ると同時に自動でワープし、遮蔽して隠蔽するドローンに近いタイプのものだ。


『期日は三日後の今です、それまでにワームホールアクセラレーションゲートを起動することを推奨します』

「ああ」

『ホールコントロール、主導権を掌握。接続を完全に切断します』


オーロラの手によって、ワームホールとユグドラシル星系とのリンクが完全に閉じられる。

これで、向こう側から再び開く時には無限に近いリソースを必要とする事になる。


「さあ、戦後処理の時間だな」


シンはそう呟く。

オーロラの勝利宣言が通信回線を通して全体に伝えられ、獣人用のローカル回線は勝鬨の咆哮で溢れかえるのであった。

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