064-天空騎士団

獣人国の式典は、俺が思っていたより大規模な物だった。

なんの式典かと思っていたが、獣人国解放後、ほぼ全ての奴隷を解放した事による式典だそうだ。

俺はなんのために必要なのかと思ったが、どうやら救い出された獣人たちに、俺への恩義を感じさせるためのはからいらしい。

どうも恣意的で、反吐が出るのだが...


「次に、戦没者たちの名を読み上げ、ここにいらっしゃる星空の王の宮殿の、永遠の礎となり、獣神様の寵愛を受けられるように願おう!」


元奴隷たちの顔見せが終わると、今度は慰霊だ。

広場の中央にあった石碑に刻まれた名を、獣人で一番声がでかいらしい獅子頭の獣人が読み上げていく。

その中には、ネムとルルの父親の名もあった。

ネムは何が何だかわからない様子だったが、ルルは顔を俯かせた。


「ティファナ、ルルを裏へ」

「ええ、わかりました」


ティファナがルルを連れて、こっそりと式典会場の裏へと連れて行く。

空いた隙間に、ケセドが入る。

慰霊の式が終わったところで、一人の鼠獣人が飛び出してきた。

真っ直ぐこちらに向かってきて、警備を振り払う。

相当の強さだな。

しかし、その眼前に、刃渡り140cm程のブレードを腕から飛び出させたケセドとゲブラーが立ちはだかる。

獣人はそこで止まって、懇願するように五体投地した。


「星空の王様、お願いがございます!」

「お前たちは下がれ、聞いてやろう」


俺は座っていた椅子から立ち上がり、ケセドとゲブラーを退かせる。

どうせ殺す気があったとしても、立ち上がってから襲い掛かるまでの予備動作の間に、二機が攻撃姿勢に入る。

生身の有機生命体では決して勝てない性能だからな。


「どうか...どうか私めの母親を、生き返らせては頂けませんか?!」

「...」


ほら来た。

これだからカルトは嫌なんだ。


「それは出来ぬ」

「なぜですか!?」


出来ないからなんだが、適当な理由をでっち上げておくか。

ついでに、俺が万能でない事も。


「俺は万能ではないし、仮に出来たとしても行う理由はない。この世に失われないものなどない、人も動物も死ねば皆無に帰る! その道理を捻じ曲げたいと、俺も過去に思ったことはある! だが出来ぬ、出来んのだ、分かってくれるか?」


死んだ兄が生き返れば、母親もまともになるかと願ったことはある。

だが結局、それが叶ったところで、一度歪んだモノは元には戻らないのだ。

俺が神を信じないのは、そこにも理由がある。

歪んだ物、壊れた物、失われた物。

それは全て不可逆で、起きてから人は後悔するものだ。

それらの道理が覆れば、人間は今度こそ狂ってしまう。


「はい.....」

「だが、お前の母の名は、俺が永遠に覚えておこう、その名を教えてくれないか?」

「ぽ....ポリアンヌです...!」


俺は急いでオーロラにメモするように命じる。

ゲブラーがジト目で見てくるように思えるが、いつまでも覚えてられるわけではない。


「覚えたぞ。さぁ、下がれ。お前の罪は、俺が赦そう」

「は....はい......!」


鼠獣人の男は、下がっていった。

俺も席に戻る。

あ、そうだ。忘れていた。


「丁度いい、俺の方からひとつお前たちに伝えることがある!」


その声に、群衆が一気に騒めく。

Noa-Tun側の人間...ティファナを除いた全員が、混乱している。


「俺は今、ルルシア元姫を、天空を駆ける騎手として育成している! そこで、お前たちにも、天空騎士団として立候補を求めよう! 進んだ技術を扱える智慧と、ルルシア姫を守るために戦える勇気を持つ者だけが、この役割に相応しい! .....立候補する者は、国の外れにある砦にて、志願を行え」


既に、砦(ロケット打ち上げ場)には志願用の機械を置いている。

俺が口を閉じると、騒めきはしばらく続いた。

天空騎士団とは、よく言えば戦闘機パイロット、悪く言えば捨て駒である。

勿論使い潰すつもりもないが、ルルを毎回出撃させないようにするための理由でもある。

戦闘機はドローンのOSとは大きく異なるために、オーロラでは操作ができず、獣人特有の「瞬間活性」なる特徴を活かすという理由もある。


「で、では.....これより、式典を締めくくる!」


そして、食い気味に獅子頭の獣人が叫び、式典は終わりの式へと入った。

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