062-復活のM

『司令官、そろそろ処遇を決めていただきたいのですが』

「処遇? ナージャのか?」


昼飯を食べていた俺に、唐突にオーロラが聞いてきた。

ナージャならもう少し様子見だが...


『いいえ、皇女マリアンヌの処遇です』

「あっ」


すっかり忘れていた。

ここの所忙しかったからな...


「それで、今どんな状態なんだ?」

『司令官が変な事を命じたので、直視できない状態ですよ』

「俺がいつ命じた...?」


甚だ疑問だが、オーロラは殆どの場合嘘をつかない。

俺のせい、というなら会うべきなんだろう。


「仕方ない、午後のルルとのミーティングを二時間ずらしてくれ、本人にも通達を頼む」

『はい』


ルルとは、現在進行中の新しい計画について話し合う予定だ。

だがまあ、そこまで日を急ぐ話でもない。

俺はささっと非常食糧の食事を片付け、下へと向かった。







どうしてこうなった?

そして俺が抱いた感想は、ドン引き...だった。


「ご主人さまぁ」

「.........」


多少歪んではいるものの、芯の通った風に見えていたマリアンヌ。

だが、今の彼女は...俺の足に縋り付き、甘い声を発する存在へと成り果てていた。


「おい、オーロラ?」

『自我薄弱の状態で、司令官が色々と呼び掛けたのが原因です。私の声以外の声で命じられたせいで、深層心理に深く刺さったのでしょう』


...あれか。

冗談のつもりだったんだが?

被虐体質になれだとか、祖国を裏切れだとか、俺だけを見ろとか言った覚えがある。

思えば、だいぶストレスが溜まっていたのだろう。

だがそれが、一人の人間を歪めてしまうとは...


「俺は罪深いな」

『そうでしょうか、彼女は幸せそうに思えますが』

「そりゃAIから見たらな」


話が通じるようになればとは思ったが、半ば洗脳じゃないか?


「退け」

「♡」


振り解くと、幸福に惚けた顔で床に転がっている。

ごめん、マジでごめん。


「まあ...こんなになっちゃったからには...」


俺はオーロラに命じる。


「ほとんど俺のせいだが、彼女を日常生活を送れる程度に回復させられるか?」

『可能です、ただし自我が殆ど壊滅状態にあるため、元のマリアンヌとは似ても似つかなくなりますよ』

「...しょうがないだろ、こうなると分かってたなら、次からは注意してくれ」

『分かりました』


俺は皇女だったものに命じる。


「立て」

「はぁい、ご主人様」

「そこの椅子に座れ」

「...ひっ!」


だが、椅子に座れと命じた瞬間に、マリアンヌは怯えたように硬直する。


「どうした?」

「そこは...イヤ...」


なるほど、トラウマスポットなのか。

俺はオーロラにこっそり相談する。


「おい、椅子ならなんでもダメなのか?」

『はい、そのようです...』


参ったな、それじゃあどうしようも...待てよ。


「庭園に移動させて、そこで矯正を行え。椅子じゃなかったら座れるなら、草地の上でもいいだろう?」

『わかりました、庭園に閉鎖スペースを構築し、その中で矯正を行います』


ルルに見られると面倒だ。

ネムならその幼さゆえに何も分からないだろうが、ルルは違うからな。

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