036-クロトザク決戦
「ふざけるな!!」
机を思い切り叩き、憤る男。
その男の形相に、その場にいる者たちは言葉すら出せずに硬直する。
「我が皇室騎士団が、我が皇国軍が! たった一か月でここまで追い詰められるなどと!」
その男、将軍は一通り喚いてから、会議室に置かれた水を注ぎ、錠剤を水で喉に流し込む。
胃薬である。
「アルレキ前哨基地も! フロッダリ総合植民コロニーも! ナーシブル要塞もすべて破壊され! 今では把握可能な領域は、最早この首都だけなのだぞ!!」
ワープとジャンプを繰り返し、ステルス爆撃艦と大型ステルス艦による襲撃を行うNoa-Tun艦隊に、皇国軍はあっちにこっちにと行動を繰り返して疲弊しきっていた。
「やられっ放しは許されないため、守るためにリソースを割かざるを得ない」状況に追い込まれ、本来より大幅に規模の縮小した主力艦隊を各個撃破されたのだ。
「かくなる上は......」
「ダメだ! 反応が多すぎて、敵の拠点を特定できない....!」
ダミーが多すぎて、皇国軍はNoa-Tunの位置を特定出来ないでいた。
「ならば、『ラー・アーク』を.....」
「馬鹿を言え! あれは単騎で運用する船ではないわ!」
混迷する会議を前にして、将軍は思考を続ける。
残った戦力では、未だ姿を見せない敵主力艦の相手など不可能だ。
そもそも、小規模戦力でインフラストラクチャーにダメージを与え、補給を断ったうえで激しく攻撃を仕掛けてくるNoa-Tunの戦法では、主力艦隊など現れるはずもなかった。
「何なのだ.....一体何なのだっ!!」
将軍は机を再度叩く。
遥かに超越したワープ技術により、兵站を必要とせず、シールドによって多少の被弾程度は無効化してしまう。
そのうえで皇国を舐めてかからず、ゆっくりと肉を削ぎ落すように戦略を組んでいる。
統率も取れていて、まるで一人が動かしているような無駄の無さである。
「何故この時代に.....」
将軍の心中には、愚かなる皇女への不信があった。
もともと、偉大な先代が亡くなってからというもの、この国は皇族至上主義へと変わってしまった。
内戦を収めるために全てを統一し、皇室がそれを管理するというシステムだったはずだが、皇女は愚かにもそのシステムを悪用し、国民の意思統一を自分への崇拝システムへと変えてしまったのだ。
先の時代を知りながらも生かされている将軍には、それが不満でならなかった。
「いや....こんな時代だから、か」
将軍は溜息を吐く。
神の下した天罰に違いないと。
虚仮脅しの軍はほぼ全滅し、平和と皇室が齎す支配に冒された国民たちは恐怖に震え、そして――――
「......儂も、か」
将軍は、誰も自分の事を見ていないことを確認して笑う。
皇女が指揮を執った第一次首都防衛戦において、皇女を引きはがしてでも自分が指揮を取ればよかったと。
それをしなかった自分への罰なのだと。
死んでいった部下たちが、無駄に散った命を恨んで、自分を地獄に引きずり込もうとしているのだと。
『将軍!』
その時、外から警報が響いてきた。
すぐに室内でも警報が鳴り始めた。
「どうした!!」
『惑星軌道上に敵艦隊出現! 推定350隻! 未確認の主力艦と思われる艦影多数!!』
「.........そうか」
将軍は立ち上がる。
そして、命じた。
「総員、中央管制塔へと向かえ! 」
こうして、たった一か月の戦争の行方を決める最終決戦が開始されたのであった。
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