029-研究者たちの会話

皇国、その研究施設が入ったオフィスにて。

二人の研究者が、雑談をしながら資料をまとめていた。


「ねぇ、知ってる?」

「何だい」

「最近、戦況が芳しくないって噂」

「そんなわけないじゃないか」

「でも...」


そう呟くのは、若い女性だ。

胸のワッペンには、「エリシャ・クガナード」と書かれている。

返す男性は、「カイエル・ジーグハント」と言う名前のワッペンをつけていた。


「その、実戦の資料を見たのよ、一般には報道されてないのを」

「生きて帰れないよ、そういうのを見ちゃうと」

「でも、すごい技術だったわ」

「そうかい」


女性は、その目で観測したことを男に話す。

有限ではなく無限の回数を持つワープや、驚くべき超射程、見たこともない兵器の資料について。


「皇女様は勝てるって思ってるらしいけれど、将軍様はいつもお疲れの様子らしいわ」

「まぁ...僕もちょっとは話を聞いているよ」


神出鬼没の艦隊を操り、補給線を分断しつつ数回に渡って交戦する敵艦隊。

その話は、皇室直属の研究所にすら届くほどであった。


「だけど、皇女様は『弱兵の浅知恵』って切って捨てたそうじゃないか」

「それはそうなんだけど......でも、こっちの死者の方が多いのは事実みたい」


皇国の艦船は、核融合.......『大皇機関』で宇宙を飛翔し、『神界越境装置』にて、フィラメントを高速燃焼させることで時空間の壁を突破してFTL航行が可能だ。

だが、その圧倒的な技術レベルをもってしても、敵を倒すことはできない。


「敵は、シールドを持っているらしいわ」

「シールドぉ...? それって、理論的に可能なのかい?」

「ええ」


シールドは、皇国でも現実的ではないが、利用可能な技術として存在している。

電磁フィールドによって、接触した飛翔物の運動エネルギーを軽減させる程度の用途だが。


「それに、こちらの装甲を容易に貫く――――」

「ちょ、ちょっと待って! ついてこれそうにないよ!」


カイエルは叫ぶ。

内戦によって、武装に対して極限まで最適化された肆式皇兵装甲を破るのは、至難の業である。

だが、敵はそれを難なくやってのけたのだ。


「それから、範囲爆撃で前哨基地を消し飛ばしたのよ...」

「はぁ!? 『神の火ブレイアド』でも、そこまでの威力は....」


ブレイアドとは、核融合を利用した爆弾――――ようは核兵器だが、堅牢な前哨基地を打ち破るほどの火力は持たない。

だが、ステルス爆撃艦が投下した爆弾は、凄まじい範囲に爆発を生じさせ、内戦時に堅牢化した前哨基地を完全に吹き飛ばした。


「.......どう考えても、我々より技術レベルが上じゃないか?」

「蛮族っていうのも、果たして合ってるのかしらね....?」


二人は雑談しつつも、本気の様子ではない。

皇女の言葉は絶対である。

皇女が『蛮族の愚策』と断じれば、それは間違いなく事実なのだから。


「だけど、きっと大丈夫だよ。今開発中のこいつが完成すれば、敵の位置を直接割り出して攻撃を仕掛けられるからね」


カイエルは少し上を見上げる。

そこには、天井から吊り上げられた円筒状の装置があった。

それは、敵の航跡を辿り、ワープのためのビーコンとして機能する新開発の兵器であった。


「そううまく行くかしら....」

「敵基地の場所さえわかれば、こちらには無限に近い戦力があるんだから大丈夫さ」


そして彼らは、無知でもあった。







「.....とまぁ、偽装した基地の場所に飛んでくると思うんだが」


俺は予想を口にした。

実は、星系中に偽のビーコンを大量に仕込んでいて、そこに艦隊の一部をわざと戻してるんだよな。

範囲型ワープ妨害をばら撒いてるので、即座にピンガーを展開して艦隊を送り込める。

その後もどうせそこに基地があると思って仕掛けてくるだろうから、いいエサだ。


「あいつらの愚かなところは、自分たちの技術が世界で最高と思ってる事だな」


無敵の艦隊など存在しない。

ゲームが無限にアップデートされるように、新たな強みを戦術や戦略にアップデートしていくのが戦いだ。

相手はこちらとの数回の戦闘で、こちらの基本戦術を学ぶべきだったはずだ。


「イイ感じに戦力がばらけたな」

『はい』

「首都惑星を攻撃する」

『分かりました』


Noa-Tunの真の戦い方を見せてやろう。

そして、首都の防備を固めるのであれば外縁部を同時攻撃、施設を引き払うのであればインフラを吹き飛ばして復興を困難にした上で同じことを繰り返し、これまでと変わらないのであれば同じことを一年でも十年でも続けてみよう。

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