009-領域隠蔽ユニット防衛戦-前編

そして。

完成したのは寄せ集めの防御陣。

一番手前にモルドレッド二隻、その背後にペイロード三隻、更にその背後にスレイプニル七隻が待機している。

スレイプニルは襲撃型戦艦であり、素のEMP耐性が高い。

昔性能がバフされたんで、ユニオンをあげて大量生産したんだが....まぁ。

ナーフの影響で一気にゴミと化して、Noa-Tunのようなストラクチャの倉庫には大量に眠っている。


「まぁ、これで守れなければ....最終兵器の出番だな」


”戦争”において、ストラクチャがただの拠点でない理由は、ストラクチャしか装備できない強力な装備の存在だ。


『太陽フレアの第一波到達まで残り42分です』

「効果があるかは分からないが、周辺宙域に荷電粒子抑制ユニットをばら撒け」

『了解』


太陽風の正体は、荷電粒子や電磁波だ。

本来であればフィールド内を通過するレーザー系列の威力を減衰させるユニットだが、この場合フレアの影響をある程度抑制できるはずだ。


「..............」

『艦隊総司令、緊張していますか?』

「.....嘘だと言えば、安心できるわけでもないな」

『リラックススペースに行かれますか?』

「....いや、いい」


失敗しても、リカバリー案は無数にある。

なに、ちょっと胃の底が抜けるだけだ。

仮に胃を病んでも、居住区を直せば医務室で治せる。


「最終兵器もあるからな、ここまで数日かけてリソースを割いてきた結果を見るだけだ」

『では、対電磁フィールドを展開します』

「ああ、頼む」


Noa-Tunの表面を防御するようにフィールドが発生する。

艦船のフィールドが真球なのに対して、こちらはさながら表面を覆う膜のような感じだ。


『太陽フレアの第一波到達まで、残り8分』

「もうそんなに経ったのか...」


その時、艦内放送が聞こえてきた。

ストラクチャのHPが25%を切った時にドックインすると聞こえてくるやつだ。


『緊急警報。緊急警報。ストラクチャおよび領土に甚大な被害が出る恐れあり。現ストラクチャ内に滞在している職員および戦闘員は、直ちに避難を開始してください。避難経路は、B-2、C-4.........』


あの時俺はNoa-Tunのブリッジで操作をしていたため、この音を聞く事はなかった。

これが、俺とNoa-Tunが歩む新生の、最初の試練なのだ。


『第一波到達まで、残り1分』

「可視化してモニターに投影!」

『了解』


不可視の電磁波が、フィルターを通して実体化しモニターに表示される。

途端に、太陽方面の表示が真っ赤になる。


「おおっと...」


地球にいた頃にこれが襲ってきていたら、まず間違いなく世界中の電子機器が破壊されていただろう。

いや、電子機器の破壊だけじゃ済まない。

人体に甚大な影響を及ぼす規模だ。


「全艦、電磁波防御陣を構築!」

『既に構築済みです、落ち着いてください、艦隊総司令』

「あ、ああ...」


そういえば数分前にも指示を出した。

俺は自分の焦りを自覚して、数秒後に迫る時を待つ。


『到達』

「く...」


デスクの縁を握りしめていた手の感覚がなくなる。

だが、衝撃やモニターにノイズが走るといったことはなく、依然として警報が鳴り響くだけだった。


「状況報告!」

『モルドレッド二隻、パワーコア出力82%まで低下。ほか異常なし』

「了解」


何もなかったからと言って、何もしなければ状況は悪化する。


「艦隊のステータスを上部モニターに投影しろ」

『了解』


船のパワーコア、シールド出力のステータスが一覧として表示される。

攻撃ではないのでシールドは気にしなくてもいい。

むしろ、パワーコアとモジュールの消耗によるシールドの効率低下を見るのだ。


「第二波は?」

『22秒後に到達します』

「モルドレッド級のパワーコアはおそらく次の波に耐えられないな...破壊され次第、デコイとして利用しろ」

『了解』


第二波が到達し、警報が響く。


『前面に展開中の荷電粒子抑制ユニットに異常発生、システムからパージし、自爆プロトコルを実行します』


ブリッジからは見えないが、モニターに表示されている展開映像に爆破光が複数確認できた。


「状況報告!」

『モルドレッド級、パワーコア暴走! 機関を停止して宙域に待機させます』

「わかった!」


どうやら、これからが本当の戦いのようだ。

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