007-野望

それから数日後。

ついに、中型艦艇ドックが修理完了した。

長く使うだろうからと、丁寧に修繕を指示した甲斐があった。


『では、氷塊ベルト探索・採掘スクアッド発進します』

「ああ」


俺がNoa-Tunから発射した通信整備ビーコンによって、この星系中にネットワークを展開している。

これを使って船舶を操舵するのだ。

本当はプレイヤーのように、転生を繰り返して死んでも大丈夫と行きたかったが、生憎俺は転移なので普通の人間だ。


「さて、俺は俺で直近の課題に取り組まないとな」


朝食はビスケットとチョコレートらしい板二枚。

それに紅茶を合わせたものを食し、モニターを覗く。


「じゃ、あの惑星はかなり理想的な資源分布があるんだな?」

『はい、ただし...現地点からドロップシップを投下する際、付近の集落らしき集合体に対して何らかのアプローチがなければ、交戦状態になる可能性があります』

「だろうな」


平野を埋め尽くす人間の生命反応、その中央に存在する国家らしき巨大な集落。

これを何とかしないと惑星開発なんかやってられない。


『いかがいたしますか?』

「スカウトドローンをドロップシップで投下、言語解析プロトコルを進めつつ偵察を進めろ。最悪殲滅してもいいが、コミュニケーションの取れる現地住民がいた方が便利だ」

『分かりました、艦隊総司令』


一人くらい話し相手が欲しい。

そんな邪念のもと、俺はそんな指示を飛ばした。


「まさか水生成装置に特殊鉱石が要るとは思わなかった」


当然そんなものは物資倉庫にない。

ゲーム中では低レアのアイテムだったので、後方の生産拠点にならあるのだが...


『艦隊総司令、ドック内の損傷した艦艇は如何いたしますか?』

「ああ、それは放置だ」

『分かりました』


修理しても、そもそも周辺数百万kmに敵影はない。

無駄に終わるだろうし、それならホールドスターの武装を修理した方が有効打になる。


「研究施設の修理は後どれくらいで完了しそうだ?」

『残り22時間程を予定しております』

「分かった。それが終わったら、居住区の...いや、加工施設の修繕を頼む」

『はい』


採掘艦隊が戻って来たら、氷塊を加工する施設が必要になる。

俺の住む場所より、これから先の事を考えないとな。


「施設を見回ってくる」

『作業ドローンを手配いたします』


俺は戦闘指揮所から出て、いつも通り防護服を着用する。

居住区にある医務室が使えない現状、ほんの僅かな怪我で俺は大事に至る可能性があるらしい。


「今日はどこへ行こうか」

『特に確認される場所がないのでしたら、上部展望室などどうでしょうか?』

「...行ってみるか」


今や話し相手もオーロラしかいないので、彼女のおすすめに従って上階へと昇る。

エレベーターが復旧したおかげで、上階へと楽に昇ることが出来るようになった。


「そうだ、所持金はどうなってるんだ?」

『0です』

「だろうな」


金が残っているわけがない。

そもそも、前に使っていたSCスタークレジットではなく、Iインペリアル・Sソーシャル・Cクレジットという見たこともない通貨に変わっているので、持っているのが逆に不自然である。


『到着しました』

「....ああ」


エレベーターから外に出ると、新鮮な空気が鼻孔を擽った。

俺が一度もここに来ていないので、淀みない純粋な酸素が滞留しているのだ。


「空調を起動しろ」

『了解、平均的な惑星の平均空気比率・気温を維持します』


俺は廊下を進む。

その間、等間隔で配置された空調ノズルから吹き出した風が肌を撫でる。

廊下の奥にある扉の前で、俺は立ち止まった。


「この先工事中で宇宙空間とかはないよな」

『はい、他区画の修繕には不要でしたが、娯楽に飢えていらっしゃったので修繕しました』


何やってんだか...

だが、有難く受け取る事にして、俺はドアを開けた。

そして.........


「......これは!」


満天の星空を見た。

Noa-Tunの最上部に位置するここでは、戦闘指揮所からは見れない180°の空を見る事ができるのだ。


「......ありがとう」

『感謝されるような事は何もしておりません、艦隊総司令』

「いや、いいんだ。......ありがとう」


俺はただ、感謝を述べた。

そして思った。

この星空を、手に入れたいと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る