004-極限状態

それから数時間後。

俺はシャワーを浴びていた。


「惜しむらくは、熱源も水源も無駄には出来ないという事だな」


俺は壁面のパネルから、予備の水と残り非常電源の残量を確かめる。

当然それは、まだ大量にはあるが、しかし少しずつ減少している。


「早く復旧を進めないとな」


電源についてはセントラルコアを再起動すれば、ローパワー期間を経るもののすぐに充電できる。

しかし水については少し込み入った事情があり、戦闘指揮所の水は一時的なものでしかない。

救援の艦隊が来るまで耐え凌ぐためのもので、飲用水は物資倉庫の数日分を除けばほぼ無いに等しい。

水の再利用システムはあるが、出来れば新しく作る...つまり、水を生成する装置を作る必要がある。


「加工施設か、居住区画か...悩ましいところだな」


清潔なタオルで濡れた髪を拭きながら呟く。

現在のリソースでは、分散修理は無為に時間を消費するだけだ。


「まあ、当分はここで寝泊まりすればいい。俺一人だしな」


数十人で、男女と考えると居住区画の修繕は必須だろうが、このNoa-Tunに生物はどうやら俺一人だけのようだ。

先に加工施設を完成させれば、物資倉庫の未精錬鉱石を素材に変える事ができるようになる。


「そうだ...船も見てみるか」


発進ベイが破壊されているので出撃はできないが、少なくとも操作方法くらいはわかればかなり今後の思案に役立つ。


「食料はどうだ?」

『今回の食事を初回と数えた場合、先程の報告通り211日食糧を維持可能です』

「了解」


机の上には、ビスケットが一袋とスープが一杯だった。


「バリエーションはあるのか?」

『はい、全部で五種類になります。ただしビスケットだけは全食共通となります』

「...わかった」


これは、食料問題も早急に解決しないといけないな。

食にそこまでこだわるわけでは無いが、ずっとこの食事も厳しいものがある。

俺はビスケットを齧り、スープを飲む。

かなり味の濃いスープは、その素朴な見た目とは裏腹にずっと栄養があるように感じた。


「...ただのスープじゃ無いな?」

『はい、必要栄養素をより短時間で摂取可能なレーションフードになっております』

「なるほどな」


俺はそれを飲み干して、デスクに置いておいた飲料水のフタを開けた。

濃い味に焼け付いた喉を潤すように少し飲んで、またフタをしめた。


「とにかく、食糧に余裕がないな」

『一刻も早い惑星開発もしくは交易を提案します』

「その通りだな」


俺の命は、食糧が尽きる後211日。

一年も持たないのが悲しい限りだ。


「.......死にたくない、なんて言っても仕方ないか」

『よろしければ、脳を取り外し、機械化いたしましょうか? そうすればより長期間生存可能な確率は高まります』

「やめておく。そういう奴らの末路は知ってるからな」


俺はオーロラの提案を断る。

ゲームの設定で、そういう手術をした奴らの末路は明確に描かれている。

同じ目に遭いたくはない。


『英断です。艦隊総司令がこの手術を行った場合、安定した精神状態を保持できる可能性は限りなく低かったので』

「おい」

『申し訳ございません』


まったく。

発狂する可能性のある手術を提案するなよな。


「....まあいい、今日はもう寝る。戦闘指揮所を消灯して、訓練時の非常灯に切り替え」

『了解』


灯りを緑色のダウンライトに切り替え、俺は床に敷いたシーツに横たわる。

快適な空調によって、布団をかける必要はないが.....


「.....疲れた、な」


昇らない朝日を夢見て、俺は瞼を閉じた。

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