第19話 意外な仲間
全てを終え、ひとまず黒峰家に集合いた一同は、なんとか乗り越えられた達成感に浸っていた。
「さっきの逃亡マジアツかったよな!!」
「ねー!!私達マジナイス!!」
袴塚兄妹はずっと元気だ。
「はぁ、逃がしたわ……」
「まぁでも生きられたのなら、オッケーです」
敵の首を取り損ねた白亜は落胆し、麗音はどこかで見たことのあるような振る舞いでグーサインを向けていた。
「全く、天野君はもう少し警戒して過ごしたまえよ」
「あれは不可抗力だと思うんだが?」
怜音はやれやれと呆れているが、無能力者に警戒しておけと言っても限度がある。
楼久に捕まった時には割と死を覚悟していた。
「にしても変だわ……私、なんであのメンヘラ逃がしたのかしら」
「メンヘラ、どうやって逃げたんスか?」
「えぇっと……んん?上手く思い出せないわ……」
白亜が考え込む。確かにそれは快斗にも起こった不可解な現象だった。
あのゴスロリ少女は瞬間移動のような高速移動を用いてこちらを錯乱させていたが、単純に移動しているだけでは無い。
こちらの記憶、引いては現実に干渉する能力だと考えられる。
「僕が麗音越しに顔を見ておいて正解だったね。あの子の能力も分かっているよ」
怜音がパソコンの画面を皆に見せてくる。そこにはあのゴスロリ少女の写真がずらりと載っていた。
今の姿から、学校の集合写真や家族との写真、とこかの監視カメラの映像など様々だった。
「お前ハッカーなの?」
「方向性は一緒だね。僕の『侵略』はなんにだって適応可能なんだ。どんな強固なシステムだって、僕が扱う機材なら突破できる。君を助けたドローンとか、そういう技術も他国から盗み取った技術だよ」
現代において最強格の能力だと思う。怜音に隠し事は通用しない。末恐ろしいものだと快斗は怜音を見下ろした。
「あの子の名前は
「かっこいい名前ッスね」
「そうか?」
「かっけぇ、俺もそんなんが良かった」
「それがいいマジか」
黒峰グループのバカ二人が呑気にそんなことを言う。
「注目すべきは、この子の能力だね。名前は『選択』」
「せんたく?選ぶ方の?」
「うん」
「なるほど、つまりどう言うことッスか?」
「そうだね、言語化が少し難しいんだけど……」
怜音は紙を取りだしてペンで棒人間を2人描く。
右が愛莉夢。左が快斗らしい。何故説明に用いたのか。その真意は定かでは無い。
「いいかい?まず、この2人が対峙している時間を10時だとしよう。」
上に大きく10時と文字を書く。それから、愛莉夢がカッターを持って快斗に襲いかかっていく絵を追加する。
カッターを振り上げ、飛びかかった瞬間の絵を見せ、その絵の下に10時5分と書く。
「この瞬間、天野君は襲われているわけだ。だが、泉さんはこの10時に始点を設定することが出来るんだ。」
怜音は更に違う場所にいる愛莉夢を描いた。そしてその上には10時5分と書かれた。
「例えば、この10時から10時5分までの間、泉さんがとれる行動は何通りもあるだろう?そのうち、天野君を襲うという選択をして最初飛び出している。が、ここに手助けが来たり、罠だったりしたら自分がピンチだ。だから、襲っていないという選択肢、つまりはifルートを選択できるのさ」
「現実改変能力か」
「そう。だから選択を変更された場合、1回目の選択の過程に刻まれた世界の歴史は消され、新たに作り上げられる」
だからで会った瞬間に選択を変えられてしまえば、会ったという過程すら消え去るため、愛莉夢に会った人物の記憶からは消えてしまう。
「掻き乱しくるタイプの能力ね。対策はあるの?」
「難しいけど、予め相手が取れる手札をできるだけ少なくするしかないだろうね。詰将棋みたいな」
「……はッ!!まるで将──」
「言うなそれ以上」
なにか口走ろうとした麗音の口を抑える快斗。
「ともかく、今日はお疲れ様。明日は休みだし、ここで解散にしようか」
パンと手を叩いた怜音の掛け声で、この場は解散となった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ……」
白亜の大きな家の玄関から快斗が溜息をつきながら出てきた。
命を狙われた疲れとストレスで倒れてしまいそうだ。
「……天野さん?」
そんな気疲れをした快斗の目の前に、黒い髪の可愛らしい顔の少女が立っていた。
「上水戸?」
「はい。上水戸瑞希です」
そこにいたのは、書道&イラスト部の部員である上水戸瑞希だった。
学校帰りなのか、もうすっかり暗い夜道に、鞄を背負って立っている。
「なんでここに?」
「それはこちらのセリフです。あなたが何故、白亜ちゃんの家に?」
未だに敬語の堅苦しさが抜けない瑞希は、快斗を見上げ怪訝な目を向ける。そんな瑞希の疑問に、快斗はどう答えるべきかと悩んだ。
「あら、瑞希。おかえり」
そんな時、後ろのドアを開けて外へ出てきた白亜が、瑞希に手を振った。瑞希はその瞬間に笑顔を見せる。
「ただいま」
「天野。なに瑞希の邪魔してんのよ。退きなさい」
「あぁ……これから家に泊まりでもするのか?」
「泊まるも何も、ここは私の家です」
「あ?」
瑞希の言葉に顔を顰める快斗。それはそうだ。瑞希が目指す家は、快斗の背後にある白亜の豪邸だ。
瑞希と家を交互に見て、最後に白亜を見ると、
「瑞希は私達の仲間で、私の家に住んでるのよ。この子の家族、もういないから」
あっけらかんと言ってのける白亜。意外な人物が殺害者だと分かって、快斗は瞠目した。
瑞希はそんな快斗を見て溜息をつき、その日はもう無視して家に入っていった。
取り残された快斗が、なにか悪い事をしたみたいになって気まづかった。
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