第15話 弱音

伊吹さんと部屋の前で別れ、軽く汗を掻いた身体を綺麗にする。

シャワーを浴びた後本棚から漫画を取り出して、少の間漫画を読んでいると、和真の様子が気になってしまい集中が出来無い。

なので和真に連絡をすると、少しの時間だけ通話する事になった。

  

「もしもし?和真大丈夫か?飯食ったか?」

 

『…大丈夫って言われると、ちょっときついな。飯はまだだ』

 

そんな正直な感想を言う和真。

流石にすぐに切り替えるようなものじゃないか。

しかし和真は少し明るい声で関係ない事を聞いてくる。

 

『お前伊吹さんと来てたろ』


「いきなりその話題かよ。…まぁいいけど。最初の方は結構視線が痛くて野球どころじゃなかった」

 

『ハハハ。来る前に少し考えれば分かることだろ』


「寝起きで何も考えず誘ったから、スタンドに来てどうしようって思ったわ」


『まぁそれも彩斗らしいか』


「どういう意味だよ」

 

『そのままの意味だよ』


よく分からん事を和真に言われて、少しは余裕があり、思ったよりは元気なのかと思ってたが、今日の試合の話題になるとやはり声のトーンがワントーン下がる。


『あの場面どうすれば良かったかな?』


「どうすればって。でも和真あんなミス初めてだろ」


『…ミス自体はそりゃあした事あるけどよ。…あそこまで試合を決めるミスはな』


「俺は野球やった事無いし、そんな責任のある事言えねえけど、やっぱり野球やるしかないんじゃね」


『分かってるけど…ボールが何かな…怖いんだよ』


和真がここまで弱音を吐くことは聞いたことが無い。

やっぱり精神的なダメージが大きそうだ。


「でも少しの休みも必要かもな」


『…確かにその通りだな。明日、明後日オフになったから気分転換でもするかな』

 

「ならおすすめの漫画教えてやろうか?」


『それはいいわ。俺はラブコメ漫画は趣味じゃねえから』


「人生損してるぞ」


『そこまでかよ』


そんな会話をしていると、和真が親からご飯に呼ばれたので通話を終了した。

少しだけの会話だったが、見たことない和真の弱音もあったし、少し心配だ。



ベットに横になって和真と会話していたが、喉が渇いたのでリビングに向かう。

すると人の気配を感じた。


「伊吹さん?」


俺がそう呼ぶと角から伊吹さんが顔だけ出してきた。

 

「電話終わったの?相手上内さん?」


「あぁ。そうだけど。来てるの気づかなかったわ」


「何回インターホン押しても出てこないから、合鍵使って入っちゃった」

 

「悪い。気づかなくて」


「別にいいわよ。それより上内さん大丈夫そうだった?」


やはりあのエラーを見ていたので、伊吹さんも気にかけてる様子だ。


「多分大丈夫だと思うけど…ちょっとめずらしく弱音吐いてたから気になるっちゃ気になる」


「それは少し心配だね」


伊吹さんの表情も少し険しくなる。

 

「別に伊吹さんが気にする必要無いからな。和真なら何とかするだろうし」


「そうね。じゃあご飯作る」

 

そう言って伊吹さんはキッチンに向かって行った。




最近は伊吹さんがご飯を作ってくれている時は勉強をしている。

2年生でも留年しそうになった嫌だし。

それに受験のこともあるしな。 

だか料理が出来ていくに連れ、食欲を誘う匂いがして集中力が下がってしまうのが欠点でもある。

1時間くらいの間勉強をしていると、いつも通り伊吹さんに呼ばれた。


「出来たから〜運ぶの手伝って」

 

「おっけー」


参考書にペンを挟んで簡易的に片付け。キッチンへ向かう。

キッチンで盛り付けられた料理を机に運び、2人とも椅子に座る。

今日の献立は和風ハンバーグをメインにしてコンソメスープ、サラダといったメニューだった。

何となく匂いで察してはいたが、いざ目の前に並ぶと食欲が増す。

その影響で無意識に言葉が出る。


「今日も美味しそうだな」


そう言うと伊吹さんが微笑みながら言ってくる。


「フフッ。よく毎回初めて見るみたいなリアクションできるよね」

 

「え?俺そんなリアクションしてるの?」


「うん。毎回目がキラキラしてる。面白いからいいけど」


「面白いとか、少し深く意味を聞きたいけど。食欲がそれを上回ったから聞かない事にしてやる」

  



 

「「いただきます」」

 

2人とも手を合わせて食べ始める。

まずはコンソメスープから。

コンソメスープはいつもの味噌汁より、ソーセージ、人参、じゃがいも、キャベツ、玉ねぎと具沢山であり、コンソメの味と胡椒の風味が上手くバランスを保っていて身体が温まる。

ハンバーグは口に運ぶと溢れ出る肉汁に、少し辛みのある大根おろしが抜群に相性がよく、食べやすい。和風が好きな俺からしたら、箸が止まらない。

そしてなんと言ってもご飯が進み、おかわりを何回もしてしまう。

 

「「ご馳走様でした」」

 


食べ終わると「もう食えない」と言いながら食器をキッチンに運ぶ。


「何杯ご飯食べるのよ。お米足りなくなると思って焦ったんだから」


「あまりにご飯と合うから」


「だとしても食べ過ぎよ」

 

「大丈夫だ!俺あんまり太らないから」


俺が自信満々に言うと伊吹さんの足が止まった。


「え?どうした?」


「それ女の子に言っちゃ絶対駄目な言葉だから」


「え?」

  

伊吹さんの言葉に怒気を感じる。

何でいきなり怒ってるの?

何故怒っているのか理解出来ないが、こういった時は謝ったの方がいいと和真から聞いていたので、取り敢えず謝る。

 

「すみません」


「…他の子の前じゃ言わないように」


そう言って食器を置いてリビングに戻って行く。

何とかなったとホットしながらも、何故怒らたのか分からないので、少しモヤモヤしながら洗い物をする。

  






 

 

 

 






 



 

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