7話 かべにみみあり

 まいど!アグリアちゃんやで!

前回ウチはバエルっちゅーソロモニア・コードと契約したことに気づいてもうたんや。


「いやぁ……まさかあん時かぁ……?」


 『アグリア・クローネ』、あん時機械音で呼ばれたこの世界におけるウチの名前と、死んだ時には持ってなかったスマホ。


 これで全ての点と点が繋がった。あの蜘蛛は、高校の進級祝いにおばあちゃんから買ってもろた、何よりも大事なスマホを媒体にしたみたいやな。


「いやまぁ、ウチらの世界にも付喪神っちゅう文化はあるし、トイレにだってごっつべっぴんさんの女神様もおるし……ま、これも慣れってやつやな」


 もっとも、憑いてるのは付喪神ではなく悪魔なんやけど。


「……何ブツブツ喋ってんだ、あのオオサカ女」


「さぁ……」


 そこのアホ蜘蛛とアホライオンのせいで、ウチの故郷に思いを馳せる時間…もとい、考察タイムは終わった。


(にしてもこの蜘蛛、ごっつ腹立つけど……声『だけ』はええな!声『だけ』は!!)


 無駄に声のいい蜘蛛は一旦置いといて、ウチには買わなきゃいけないものがあることを思い出す。


「アレナちゃん、ちょっと待ってーな。すぐ戻るから」


〜〜


「よし、確保!」


 ウチが買ったのは目に入れるタイプの魔眼制御用アイテム…もとい、コンタクトレンズや。それもただのコンタクトやのぅてカラコンと呼ばれる、瞳の色を変えられるタイプのやつや!……用途がやや異なるとはいえ、異世界にもカラコンってあるんやなぁ……


「これを右の目にはめたら……よし、ええ感じ!」


「……???」


 あっちゅーまにアレナちゃんの目はオッドアイでなくなった。これで普通に暮らせるんちゃうか……?


「……まだ解決してないのがあった……」


 そうです、アレナちゃんの義手があまりにもメカメカしい上に画面までついております。とりあえずライオンに相談するかぁ。


「マルバス、腕そのまんまやとアレナちゃんが活動しずらいんちゃうか?」


「む……確かに、一理あるな」


 なんか今回は珍しく素直に話聞いてくれたなぁ…


 …なんて考えてる間に、アレナちゃんの義手のカムフラージュは完了してました…!


「陽炎的なアレで我以下の魔力を持つものからはゴエティアを見えなくするようにしておいた」


 おぉ、助かる。少なくとも普通の人には見えないようにしたらええ。仮にゴエティア持ちに見つかったとしても、向こうもそうやすやすと素性を明かすのは難しいだろうし。


「それ故、私は見れるがな!なぜなら私はアウッ」


 ……なんか聞こえたような気がしたけど、気のせいや。スマホの電源が切られたような気もしてきたけど、きっと力みすぎて間違えて押してしもうただけや。


「…ほ、ほないこか」


「?……うん」


 こうしてウチらは、図書館に向かうことにした。


(アカン。圧倒的ツッコミ不足。ウチがいくらツッコミの本場、大阪から来た言うてもな、流石にウチ以外全員ボケはしんどいて!)


〜〜

「泥棒?」


「はい。現在犯人を追っておりまして……」


 図書館に入ろうとした矢先、警備の騎士に止められてしもうた。なんでも、すごく大事なもんを盗られてしもうたらしい。


「へんほうはほほひはっひはっはは(面倒な事になっちまったな)」


 この街の看板商品(であろう)ヒヒイロまんじゅうをボリボリと音を立てて食いながらあっけらかんと言い放つタルジ君。アンタ何歳や?10歳前後にしては随分達観しとるで?


「んで……やなかった、それで、何を取られたんです?」


「それが……

……初代ソロモニア王国の国王、ジャバイソ・ソロモニア様の著書らしく……」


 どうやら相当大事なもんらしいな。仮にそんなのを一般公開してたら警備がガバガバだと言いたくなるが……


 ……問題は、厳重に保管されてなお奪われた場合や。こっちの方が100倍面倒なことになる。


「犯人の情報はわかりますか?」


「そうですね……急に姿を消して、そのまま逃走したことしか…」


 最悪や。おそらく相手は透明化のなんちゃらコードを持っとる可能性が高い。


「わかりました。情報提供、ありがとうございます。」


「い、いえいえ。それではお気を付けて…

……急いでショコさんにこのことを伝えなきゃ…」


 こうしてウチらは、この場を後にした。


(てかさっき、あの子が言ってたショコさんって…いや、まさかな。)


~~


「Heyバエル、逃げた泥棒の居場所ってわかるか?」


 ソロモニア・コードの能力の行使は確かに強力。とはいえ、こいつらはタダでさえ厄ネタな上に能力がどれもこれも倫理観をどこかに捨てているし、何より被害がでかくなるものだって少なくはないはず。そのため、使うタイミングと場所は慎重にしないと、大変なことになってまう。それ上にイヤホン(のような魔道具)をつけてバエルの音声を聞かれないようにしてるってわけや…


『はい。ここから南方、200m先の一件屋で休憩しています。家の住所は…』


 こういうとこや。いっちょまえにモノマネしてるくせに、プライベートもクソもあったもんじゃない。


(こんなんじゃお天道様に顔向けできまへんでー…)


『うるさい、ぶっしばきます。』


 うわコイツ心を読んできやがった!


「…で、特定したんはええんやけど、どうやって追い詰めようか…」


 と、ここでウチはバエルの能力『炎上写真』のことを思い出す。


「バエル、アンタの『炎上写真』ってどんな能力なんや?」


『あぁ。アレか?アレは私の子機を潜ませ、スクープを激写するものだ。ついでにそういった情報を瞬時に世界中に拡散する『繋ぎ糸』も使ってみるか?』


 倫理観のかけらもないけど…今はそれが最適解や。


「もちろんや。タルジ君、アレナちゃんの面倒見といてな。ここはお姉ちゃんはなんとかする…というか、ウチが最適なんや。


…壁に耳あり障子に目あり、や。透明化を持ってようが、絶対に逃がさへんで…!」


「かべにみみあり…しょうじに、めあり?」


「どこで誰が見てるかわからんってことや」


 こうして、ウチは単身で犯人を迎え撃つことにした。


~~


「…嘘やろ」


 現在、犯人を見つけることはできておらず、街中の人たちが血眼になって追いかけている。…とはいえ、逃げる先を想定するのは。


「…さて、このままだとコイツがここまでくる確率は94%…」


 そう、ウチは仮説を立て、犯人を地下水道で待ち伏せしてるんや。ここなら仮にソロモニア・コード戦になったとしても、バエルで応戦できるはず。


(アホっぽいと言ったこと、後悔させたる…JKの発想力舐めんな!)


 無論マルバスのような大立ち回りはできないと分かってる。だから、蜘蛛の糸で罠を張ることにした。


~~


「はぁ、はぁ、ここなら…」


 …お、『獲物』やな。


「ある日の事でございます。 御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました……ってね!!」


 かの有名な小説の冒頭を口にしながら、ウチは手に持っていた糸を引っ張った。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?なっ、なんだこりゃあッ!!」


 ものの見事に引っかかったなぁ。お天道様に顔向けできんことするからそうなるんや。


「な、なんなんだお前!」


「地獄堂からの使者!アグリアちゃんやで!!」


 なんなんだと聞かれたので、こう名乗っておいた。ちなみに地獄堂ってのは大阪は全興寺っちゅーとこに実際にある礼拝所や。ここ、テスト出るで〜♪


「くっ…だ、だが、この本の力さえあれば!」


 まずい、詠唱を始めた!しかも詠唱と同時に、『何か』が組み上げられていく。しかも、目の前にはなんでここにいるのかわからないぐるぐる眼鏡の男性!


「そこのあんちゃん!ここは危ないで、はよにげぇや!」


(…バカめ…あ、アイツは…あの魔力値は…!!)


 ウチが言えることやないねんけど、ほっとくわけにはいかん。だから、必死に呼びかけた。一方でバエルが小刻みに震え取ったけど、まぁスマホだしなと無視してた。


『ぐぉぉぉぉぉっ!!』


「しまっ…」


 なんと向こうは詠唱を完了し、スライムっぽい悪魔を召喚していた。


(かんっぜんにやらかした…あの能力、透明化やなくて音もなくせる『無化』的なやつか!)


 詠唱が大事な魔法の世界において、相手に聞かれずに詠唱を完了するのは控えめに言わずともアドバンテージすぎる。元々あった透明化の能力を、あの本によって覚醒させたってんなら…相当ヤバいで…!


「アカン…ウチは2度死ぬんか…!」


 悪魔の腕が振り下ろされる。私は恐怖で動けず、無様に殺されるのを待つはずだった。


…でも。


「マジックコード『ドラゴンレイ』」


 どこからか飛んできた閃光によって、攻撃は遮られた。


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