銀河地球大戦〜赤竜魔人と黄金女王〜

世乃中ヒロ

第1話

 竜の吐く炎の息が町と森を焼き。

 金属生命体の光線が大地を焦がし。

 魔族軍が通った跡は灰が降り積もる。

 地球は地球外生命体の戦場だった。


         ※


 紅葉が見頃を迎えている名もなき滝の滝壺は今、人類の最重要拠点の一つ。海鐘島うみかねじまの命運が掛かっているかもしれない戦いの最前線となっていた。

 湖から流れ落ちる瀑布が、長い年月を掛けて形成した滝壺付近に、一体の傷だらけの竜が翼を休めている。


 全長は二十メートルくらい。翼長は二十五メートル前後はある。翼を除いた胴体の全高は三メートルほど。

 赤く色づく楓の葉を濃くした鱗を持つ竜の体は大きく傷つき、空からの急襲を可能にする翼は、空き家の障子戸の様に穴だらけだった。


「目標確認。体と翼に著しい損傷……航空隊と仲間たちが追い詰めた、火竜の個体に間違いないな」


 第一特殊作戦連隊第四空中機動小隊の生き残りである赤羽雷人あかばねらいと伍長は、断崖の上から双眼鏡で竜の様子を探っていた。

 微かな違和感を覚えるも、鱗の色から対象が火竜であると確信する。


「仲間たちの仇は討つ!絶対に」


 雷人は双眼鏡を握る手に力を込めた。


 銀河地球大戦。

 宇宙のどこからか襲来する地球外生命体の各勢力の戦争を、人類はこのように呼称している。


 竜。金属生命体。魔族。

 地球外勢力はどれも人類を凌駕する力を持っているのに対し、能力で大きく劣る人類はずっと地下に隠れ住む事しか出来なかった。


 その意味で、日本海に浮かぶ海鐘島の銀山の坑道は、人類が隠れ住むにはうってつけだった。

 逃げ延びて来た日本人が徐々に集まり続けた海鐘島は、いつしか日本における人類圏の一つとなった。そんな島の上空に竜一体が出現した。


 個体の強さで言えば、竜種は他勢力を圧倒している。


 海鐘島防衛を任務とする、日本国防軍第一師団の総力で竜を先制攻撃。かなりの損傷を与えはしたが、竜の逃走を許してしまう。


 このまま竜を逃せば、巨大地震以上の災厄をいずれもたらすとされる以上、黙って見逃す訳にはいかない。

 そう司令部は判断した。航空隊と雷人が属する第四小隊に追撃命令が下された。


 しかし、竜の飛行能力の奪略と更なる損傷を引き換えに、追撃に出た戦闘ヘリ六機と第四小隊は、雷人一人だけを残して壊滅してしまう。


 手負いとはいえ、竜の一個体を殲滅するには、最低でも一個連隊に匹敵する戦力が必要と言われる竜種である。

 たった一人で立ち向かえる相手では無いが、戦友たちの仇を討つ。雷人の腹はすでに決まっていた。


 無論、無策で挑む気は無い。

 敵の接近を警戒しながら傷の回復を待つという意味で、瀑布が形成したこの場所は最悪の地形をしている。

 上からの急襲を受けやすい事に加え、滝が物音を聞こえなくしているからだ。


 両翼の付け根の間が弱点であるのは、長年の研究で判明している。

 問題は、空を縦横無尽に翔ける竜の背中を取るのが困難な事だったが、今は竜の背中が丸見えとなっている。

 ここに不時着するしかないくらいに、仲間たちの攻撃は苛烈だった。仲間たちの執念が雷人に、千載一遇の勝機を与えてくれたのだ。


「皆……俺に力をくれ」


 噛み締める様に言いながら雷人は、日本刀の形をしている高振動刃を鞘から引き抜く。

 

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