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 暗闇から出てきたのは、人型のゴーレムだった。全体的に細見だが、見た目以上にパワーがある。それに鉱物でできているから当然ではあるが、かなり重たい。その癖、動き素早いので、タックルが洒落にならない威力だったりする。


 先頭にいたゴーレムが飛びながら、殴りかかってくる。

 それを視界内で捕らえながら、視線は動かさない。飛び上がったゴーレムの陰で、姿勢を低くしたゴーレムが見えたからだ。

 これも厄介だよな。ゴーレム全体に言えることだが、高度な連携を当たり前のように取ってくる。

 だが、高度な連携というのは、概して脆いものだ。


 殴りかかってきゴーレムの腕を掴んで引き、正面から抱きしめた。

 そして、姿勢を低くしてぐんぐん加速していたゴーレムへの盾にした。

 衝突したゴーレム同士は大破したが、同時に俺も後ろに吹き飛ばされそうになったがなんとか踏ん張った。いくら腕闘硬化で硬さと重さを増しているとはいえ、やっぱりまだまだ俺自身軽い。また、ルルにバンテージに書き込む術式を調整してもらおう。


 残った二対のゴーレムは、両腕を前に上げて、五指をこちらに向けてきた。


「ルルッ! 防御っ!」

 

 咄嗟に後ろを振りむいて叫ぶも、すでにルルとブーは術符による半透明の壁で作られた箱の中にいた。

 うん、心配なそうだな。

 前に向き直った、直後、ゴーレムの指が煌めいた。

 

 ガーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!


 殆ど一音に聞こえるほどの連射攻撃を、咄嗟に鱗を生やした腕でガードすることで、なんとか穴だらけになることを回避。そのまま、前に出て距離を詰める。

 近づくにつれて、弾幕は濃くなり押し返す力も増すが、脚が止まるほどではない。腹と脚にかなりの数を喰らったが、接近することには成功した。

 攻撃をやめて後ろに退こうとする二体のゴーレムのうち、片方に足を引っかけて転ばせて、胴体を踏みぬいて壊す。

 

 再び距離を取った、最後のゴーレムは姿勢を低くして、突進してきた。

 短い加速ながら、凄まじい速度に達したその一撃は一切、体のバランスが崩れておらず、ぶつかる直前まで狙いが分からない。

 胴体か? 脚か?

 

 時間の流れが緩やかに感じるほどに、神経をとがらせて迫るゴーレムを見る。

 瞬間、ゴーレムの身体が沈んだ。

 地面に拳を叩きつけるようにして、脚に向かって突進してきたゴーレムを叩き落とした。


「お疲れ様です」


 防護壁の中から、出てきたルルがこちらに歩みよってくる。ドロップした素材は回収してくれたらしい。そのうちの一つと思われる魔石を、ブーはぺろぺろしていた。


「ルルとブーも、一体ずつなら、問題なく戦えるはずだ」

 

 戦ってみた感想として、ゴーレムは練習に丁度いい。

 遠距離は連射、中距離はタックル、近距離は肉弾戦。やること自体は単調であり、連携さえなければ、決して強い部類ではない。


「本当ですか? いまいち自信がないんですけど」

「あぶなくなったら、いつでも介入できるようにはするから、物は試しってことで」


 スライムを百匹狩るより、ゴーレム一体を倒したほうが、絶対に得られる経験は大きい。


「それに、こうして戦闘している姿を見ていると、やっぱりわたしが攻撃に参加する意味ってあんまりなさそうなんですよね」

「うーん…………たしかに」


 戦えるからと言って、必ずしも攻撃する必要があるわけじゃない。

 魔物を倒した際に、倒した魔物の強さに応じて魂の強化というものが行われるらしい。これが眉唾ではないことは、俺が喋れるようになったことが証明している。そして、この強化は使い魔である俺が魔物を倒しても、主人のルルにも適用されるらしのだが……ルルは体質なのか、あまり強化の恩恵がないように思える。

 精々が、疲れても次の日に熱を出さなくなった程度だ。身体能力の向上などは殆どみられない。まぁ、病気をしなくなるのは、いいことなんだけど。


「今は、ブーちゃんの育成に専念しましょう」

「わかった」

「その分、わたしもサポートは頑張りますよ」

「あぁ、まかせた」


 今までもルルは余裕があるときは、術符で俺を強化したり、足場や障害物を作ったりしてくれていた。あれで十分過ぎるほどに支援になっている。


「じゃあ、ブーは……」

「…………?」


 どうすればいいんだ?

 昨日考えたのは、ルルとブー、二人での戦い方であって、ブー単体のものは特に考えていなかった。

 

「ルル、」

「はい?」

「ドライアドって、どうやって獲物を捕まえるんだ?」

「あー…………」


 何故かルルが気まずそうに視線を逸らす。

 言いづらいことなのだろうか?

 ブーはキョロキョロとしており、魔石が落ちていないか探している。お前の話しをしているんだぞ。


「別にどんなに非道な方法だって、それでブーを見捨てたりはしないから、安心してくれ」

「いや、そういうことじゃなくてですね」


 あら? 違った。

 てっきり、獲物の子供に悲鳴をあげさせて、親を呼び出すとかの方向だと思ったのに。


「最初、ブーちゃんがわたしに対して求愛行動をしていたのを覚えていますか?」

「あぁ、鉢の中でクネクネしていたやつだろ?」


 あの頃はブーもまだ小さくて……ってまだ、一月も経っていないんだった。


「そうです。あれが捕食行動です」

「え、」

「ドライアドにとって捕食行動と求愛行動は同じ意味を持つんです」

「えぇ……」


 何それ、怖っ。


「それは、食べることで一緒になろう的な?」

「的な、です」


 どうしよう。ブーに対して今、初めて恐怖を抱いている。


「あれ? でも、俺はされていなくね?」

「美味しそうじゃなかったんじゃないですか?」

「でも、鱗は食べてるけど」

「さぁ? そこはブーちゃんなりの理屈があるんだと思いますよ」


 嬉しいのか、嬉しくないのか、判断に困るなぁ。

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