妻のブログには俺と浮気相手との間で揺れる心が赤裸々に書かれていた
天狗のカミカザリ
第1話 秘密のブログ
本当はいけない事だとわかってる。
私にとって家族が、そして夫がなによりも大切だ。
でも彼の愛を受け入れてしまう自分もいる。
彼とひとつになっている時はふわふわとした気分になれる。
これが幸せってものなのかな?
もう私も自分の幸せを求めてもいいのかな?
もっと自由に生きてもいいのかな?
妻のブログにはそんな想いが綴られていた。
最初に見た時はひどくショックだった。浮気相手とのメールや直接的な写真を見た訳でもないのに、俺はトイレへと駆け込んだ。
これまで彼女の浮気を疑った事など一度もない。
怪しい素振りなど微塵もなかったし平和で平穏な家庭だと思っていた。
だからスマホを覗いてみようなんて思った事もなかった。
妻が内緒でブログやっていると知ったのは偶然だった。
ある日残業を終えて帰ると、妻と子供はすでにベッドで寝ていた。
充電器に繋いだままのスマホが妻の寝顔を照らしている。
眩しそうなのによく寝れるな、と心の中で苦笑いしながら俺はスマホの電源を落とそうと枕元に手を伸ばした。
その時ふとスマホの画面に目に入った。
悪いとは思ったが少し覗いてみると、なにやらブログのようだった。
誰かのブログか?それとも彼女が書いているものか?
少し興味が湧いたので、俺はそっとスマホを充電器から外した。
そのブログは『白雪舞う世界』という名前が付けられていた。
妻の名前は雪子。おそらくそこから取ってあるのだろう。
これは俺に見られると恥ずかしいだろうな、と少し見るのを躊躇った。
「う~ん、ダメだよ……」
その時、妻が寝返りを打ちながらそう言った。
俺は慌ててスマホの画面を消してから元の位置に戻した。
幸い妻は起きてはおらず寝言を言っただけのようだった。
俺は妻と子供を起こさぬよう忍び足で歩きながら寝室を出た。
◆ ◆
翌日。
やはり妻のブログが気になったので、昼休みに妻が作った弁当を食べながら俺は彼女のブログをネットで検索した。
特徴的なブログ名だったので割とすぐにそれは見つかった。
砂糖多めの甘い卵焼きを頬張りながら俺はそのページを開いた。
プロフィールの名前はユキ。年齢は30代で既婚者。
仕事は医療系と馬鹿正直にほとんど事実が書いてある。
「誰にも言えない胸の内を綴って行きたいと思ってます」
プロフィールの最後にはそう書かれてあった。
「ごほっごほっ!」
思わず卵焼きが喉に詰まり急いでお茶を飲んだ。
ベンチの近くでおこぼれを狙っていた鳩がびっくりして軽く羽ばたく。
「ふぅ~焦った。なんだよ誰にも言えないって……」
ペットボトルのお茶を半分ほど飲み干しながら、俺は思わずぼやいた。
夫婦生活はいたって円満だ。と俺は思っている。
俺の知らない妻の秘密があるとでも言うのだろうか。
どうやら弁当を優雅に食べながら、という訳にもいかなそうだ。
俺は一旦スマホの画面をオフにしてから弁当の残りをかき込んだ。
◆ ◆
弁当を食べ終え、いつもならデスクに戻って同僚と駄弁るのだが今日はそうもいかない。会社の屋上のベンチを陣取ったまま俺は再びスマホを手にした。
妻がブログを始めたのは約1年前からだった。
最初の方はポエムみたいな感じで、内容もいまいちピンとこなかった。
だが1ヵ月ほど経った頃から気になる内容が書かれだしていた。
『今日はS先生に誘われ食事に行った。
彼と話していると、日頃の疲れやストレスが消えて行く。
窓から見える綺麗な夜景を眺めていると、妻である事、母である事を忘れ
私は一人の女になれる。
そんな気持ちを彼は私に与えてくれる……』
スマホの画面が小刻みに揺れ、胸の鼓動は早くなり始めた。
まだ浮気と決まった訳じゃない。
でもドクドクと波打つ心臓は抑えようがなかった。
俺は震える指先で妻のブログの続きを読んだ。
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