転生したらソシャゲ仕様のファンタジー世界だったけど、原作知らないからミリしらで頑張るしかない

カラスバ

第1話

 スマホを操作してキャラクターに指示を出し!

 敵相手に無双して好感度を稼ぎ!

 日常では美少女キャラクター達とイチャイチャ!!


 ソシャゲというものを悪意を持って露悪的に表現するとこんな感じになると思う。

 美少女キャラクター達の影に隠れて指示を出しているだけの主人公がモテモテなのはおかしい(笑)とかつっこまれ過ぎてもはや「あーはいはいそうっすね」という感じではあるが、あえてそのように言わせてもらおう。

 実際、そのように表現出来てしまう時点でそういう側面があるのは間違いないだろうし、そして流行っているソシャゲはそこのところをうまく消化していると思う。


 しかしながら、俺の場合は違う。

 それこそ転生してソシャゲの主人公のような力を手に入れた俺は、間違いなくそういう流行っているソシャゲに登場する魅力的な主人公ではないと、確信を持って言える。

 そもそも転生をして元々の人格が残っている時点で既に台無しだし。

 ……俺という人間を魅力的にしたいのならば、まず「俺」という人格を消すべきだった。

 そして、ソシャゲ主人公らしいこの力を、俺は全然上手く使いこなしていないのだ。

 だから、そう。


 俺は、主人公にはなれていない。


 そのように、表現出来るかもしれない。



 まず、転生した俺の手にあったものはスマホだった。

 その時点でイヤな予感はしていたが、そのスマホがまるでソシャゲのそれのようにパーティーメンバーを育成出来たり、強化や指示をしたり出来ることが判明した時点でそのスマホを捨ててやろうと一瞬思った。

 しかしそのスマホは投げ捨てても何故かいつの間にか手元に戻ってくるし、意味がない。

 仕方ないからそれを使っているけど、今の所俺という人間はパーティーメンバーを「使って」楽をしている最低な小判鮫野郎でしかない。

 ……小判鮫のそれはあくまで生存戦略なので、そのような表現は小判鮫に失礼かもしれないが、それはさておき。


 毎日スマホに届く謎の強化アイテムを仲間達に「与え」、強化して敵を倒すための作戦を練る。

 この世界は、少なくとも俺にとってはソシャゲのような要素が多いが。

 それでも人は死んだらおしまい。

 だから、ちゃんと考えて行動しないと。

 俺は不本意だけどパーティーの司令塔なのだから。

 責任者として、頑張らなくちゃいけないから。


 

  ☆



 彼はただ、自分のことを「リーダー」であると言っていた。

 だからパーティーメンバーはそのように彼を呼んでいる。

 それこそ──彼の数少ない「願望」だったから、それくらいならばと仲間達は「リーダー」の名前はすごく気になりはするもののそのように呼んでいた。


「アリサ、鈴にスキルを──鈴、敵が攻撃を仕掛けてくる。右に移動した後に防御、後に敵にスキルを」


「!」

「……!」


 リーダーの指示通り、呼ばれた魔法使いの少女アリサはサムライの仲間である鈴にスキル、「鼓舞」を使う。

 瞬間的に爆発的な攻撃力を手に入れた鈴は、彼女もまたリーダーの指示通り右に移動。

 それに合わせるように敵であるグリーンワイバーンはブレスを放つ。

 完全に攻撃を避ける事は出来なかったが、ちゃんと防御をする事が出来た為に最小のダメージで済む。

 その後、鈴はその場でジャンプ、からの空中を舞うように移動。

 そこから──スキル「兜割」を使う。


 一閃。


 攻撃が直撃したグリーンワイバーンはそれで絶命、魔石を落としてチリとなって消える。

 ……完全に、そのダンジョンのボスエネミーを倒した事を確信したリーダーはパーティーメンバーに「作戦終了、お疲れ様」と緊張が程よく解けるような声色で労いの言葉をかけた。

 

「リーダー、お疲れ様です!」

「うん、頑張ってくれありがとうアリサ。鈴もいつも通りの刀の冴えだったよ」

「むん、ありがとう」


 それからリーダーは「ひとまずこの先にトラップがないか念のため確認してくるから」と言ってバトルフロアの広場、その先にあるフロアに続く扉を開き、姿を消す。

 気配がなくなったのを確認し、アリサと鈴は顔を合わせる。


「……むん、つまらない人」

「まーねー、あんまり人付き合いが好きじゃない、というか苦手? どちらにせよ一人でいるのが好きなタイプですよね」

「今までも、今も、そしてこれからも。生きていくのが大変そう」

「そうですね〜」


 そして二人は特に言葉を合わせるといった意図もなしに声をあわせて言う。


「「私がいないと大変」」



「「……?」」


 二人は顔を見合わせる。


「なぁに、鈴ちゃん」

「むぅん、そちらこそ。アリサは未来ある若者なのだからあのような男など放っておくべき」

「あはは、そうだね。でも『あんな』なんて思っている人に任せるのも申し訳ないし、私が面倒を見ますよ」

「面倒ならやめるべき」

「いやいや、言葉のあやですって」

「……」

「……」


 しばらくして。


「帰った──ん、どうした二人とも?」

「「別に何も」」


 二人は声を合わせて仲良く(何故か)両手で握手しながら合図をするのだった。

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