縄文海洋民族

 前項では、火山災害からの避難生活は、悲惨なものではなく、多くの恩恵をもたらしたのではないかという事を書いた。


 こういった避難イベントはたびたびあり、車も飛行機もない時代ではあったが、僕達が想像するよりも遠方に移動したり、逆に遠方から人が来たり、という事が多かったのではないだろうか。


 これは最近、よく知られるようになってきた事だが、縄文人は遠方への航海技術も持っていた。驚くべきことに、彼らは南米まで行った形跡がある。

 私が通っていた大学にそれを研究している教授がいた。彼は学生を集めてその実証実験を行っており、丸木舟というでかい丸太を半分に切っただけの超簡易的な縄文カヌーを作り、それでもって南米の方まで航海したという。


 噂では体育会系の学生を見つけると漕ぎ手としてスカウトしていたようで、実は私も声を掛けられたのだが、当時の私はシーズン中はとても短気だったので、わりと酷い断り方をしてしまったのを申し訳なく思っている。


 その際に聞いた話だが、なんでも縄文人たちはマングローブ的な近海に生えている植物を辿るように航海していたらしく、本州~北海道~アラスカ~北米大陸沿岸~南米といった感じで旅したらしい。実際に南米では縄文製土器や勾玉が発見されており、間違いなく到着していたのだろう。


 都市伝説で古代日本はシュメール人が作った!? みたいな動画がYouTubeにあり、実にオカルト感満載なのだが、縄文人の行動力から考えると安易に一笑に付せない部分はある。彼らは東は南米、西はマレーシアあたりまではおそらく航海していた。そこからベンガル湾とアラビア海を越えれば、シュメールまでたどり着くのだが、中国、東南アジア、インドを越えてシュメールまで行くとすると、地球一周でもする気かと思うほどに遠くまで行くことになる。丸木舟は潮流に逆らった航海はできない。ONE PIECEのグランドライン入りよろしく、海流に流されるまま航海していく。インド越えが可能なのかはちょっと自分では分からない。


 それと後述する事になろうが、縄文人の大航海時代開始はおそらく7000年ほど前に始まったのではないかと考えており、シュメールの1000年前、インダス文明の3000年くらい前である。


ただし、もし、何かしらの接触があったとして、シュメールが日本を発見したのではなく、その逆だろう。シュメールは灌漑農業と他民族との戦争で忙しい。地球の裏側近いところまで自分から冒険しに来るとは考えづらい。


 縄文人が遠方までの航海を始めたのは、おそらく鬼界カルデラ噴火以後ではないかと私は考えている(鬼界カルデラについては別項にて)。考えているというか、この辺りは発掘物から推測できそうなので、既に判明しているのかもしれないが、それに関する有力な書籍などにはまだ出会えていないので、どなたか知っている人がいれば教えてほしい。




 シュメール云々はともかく、縄文海洋民は最初は難民として彷徨い始め、列島の回復具合を見るために行き戻りを繰り返しながら、航海技術を身に着け、範囲を広げていったのではないか。

 そして、カルデラ被害回復以後は航海目的が変化する。おそらく新種の植物を獲得するための旅である。縄文人は原始的な生活をしていたと思われているが、思考能力自体は現代の我々と変わらない。当時は知識や技術が未発見であるというだけで、アホなわけではない。農牧においても、単純な狩猟採集だけでなく、豚の飼育、栗の栽培などを行っていた形跡が見られる。


 古代日本列島は食糧の獲得が容易かったとはいえ、美味しい品種や収穫効率の高い品種はいくらでも欲しい。例えば、桃やマンゴー、葡萄のような果物が手に入るとしたらどうだろう? 危険を冒してでも入手しようという者達がいてもおかしくないとは思わないだろうか? 

 実際、桃は縄文期に中国大陸から輸入したものである。古代中国人が持ってきたのか、縄文人が交換で手に入れてきたのかは分からない。しかし、最初に桃を手に入れた縄文人はこれを他の村との交易の目玉にしただろう。


 航海技術を身に着けた彼らは、新たな美食を求めて旅をした。もしかしたら、そこには冒険心や知的探求心もあったかもしれない。小野不由美の『十二国記』には、猟木師と呼ばれるまつろわぬ民がいる。彼らは新種の植物を探す冒険者である。そのような民が古代日本にもいただろう事は想像に難くない。


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