第49話
何かの腹いせなのか、キャンプファイヤーかというくらいの火柱が上がった頃に伝令の兵士がやってきた。
「大隊長閣下より伝令。連隊司令部より出頭命令あり同行されたし」
「連隊司令部に出頭、了解」
軍旗を回収して伝令の後に続く。相変わらず増え続ける青服の共和国軍兵士の脇を抜け、丘を回り込むように進んでいくと、丸太で補強された半地下の陣地が並ぶ辺りに出た。おそらく共和国軍の司令部だろう。帝国軍のものと造りが似ている。
「塹壕内には降りないようにご注意ください。罠が多数設置されています」
「罠?」
「敵の最後の抵抗です。銃弾が効かないと見るや、落とし穴や障害物を設置していったようです。爆薬で天井を落として埋めるような罠もあるので、壕内にはなるべく入らないようにと通達が出ています」
「了解しました」
そうか、直接の攻撃は効かなくても落とし穴にはまれば前進は止まるし、生き埋めになれば救出に時間がかかる。命は奪われなくても、少なくとも装備品は確実に損耗していく。不死の軍団相手に、共和国軍も最後まで戦い抜いていたのか。
ほとんど撤収もできずに放棄された天幕の間を進んでいくと、開けた所に将校がずらりと立ち並んでいた。連隊旗が高く掲げられている。天幕も何もないここが臨時の連隊司令部のようだ。大隊長は…既に戦果を報告していた。赤ら顔が少女のようにキラキラ輝いている。とりあえずそっと後ろに並んだ。
「──右翼の被害は確認中だが、作戦行動に支障なしとの一報が届いている。第一大隊は
引き続き陣地内の掃討を継続していただきたい。捕虜の処遇については本部より一個中隊を派遣する」
デューリング少佐が連隊長の横で作戦地図を広げている。赤鉛筆でごちゃごちゃ書き込まれていて賑やかだ。達筆すぎて何一つ読めないけど。
大隊長が敬礼して振り返り、「いたのか」という顔をして去っていった。ついていった方がいいのか迷ったが、大隊長の態度だとあんまり期待もされていないようなので残ることにした。まだ少しは気心の知れた人達と居た方がやりやすい。
「掃討を含めて一五〇〇までには共和国軍陣地の攻略が完了する見込みです。想定よりも遥かに早い」
作戦参謀のデューリング少佐が難しい顔で腕組みをした。ちらりと中佐の階級章を付けた士官を見やる。
「軍団司令部はどう判断されますか?砲兵の前進については随分と渋っておいででしたが」
「うむ…」
壮年の中佐は苦い顔で言葉を濁した。あ、この人あれか。『黄』号作戦の説明に来た人。作戦中は砲兵の指揮権を第3軍直轄にするとか何とかで、不穏な空気になってたやつだ。
「連隊としてはこのまま前進し、敵の体制が整う前に橋頭堡を確保したい。砲兵が追従できないとなれば貴官の責任問題だな」
連隊長が鼻息も荒く睨みつける。やっぱり指揮権を奪われて面白くなかったっぽい。一人軍司令部から派遣されて、命令に従っているだけなのに恨まれる中佐がちょっと可哀想に思えてきた。
「野砲は既に過半を移動開始しています。重砲については、順次可及的速やかに移動を」
「中佐、師団司令部に打診してみてはどうかね?連隊所属の砲だけでも指揮権を戻してもらえたなら、後は我々が対処する」
「それは…第3軍としての作戦計画に関わります」
「『黄』弾の実戦試験は終わっただろう?何か問題でも?」
議論は続いているが私の入る余地は無い。毎度そうではあるが、私がこの場に居る意味あるかな?
「連隊長閣下、よろしいでしょうか」
「ん?ああ、中尉。ご苦労」
やっぱり「いたのか」という顔をされた。でっかい帝国軍人の中に混ざると物理的に見えないというのもあるだろうけど、呼んだからにはもう少し気を遣ってもらいたい。
「私の任務は引き続き第一大隊の防御でよろしいでしょうか?連隊司令部前進後は司令部を担当するというお話でしたが」
「ああ、どうする?」
「掃討が落ち着くまでは引き続き現状維持。司令部に対する脅威は無いものと思料します」
「作戦参謀の意見を支持します。周辺に組織的な抵抗が可能な集団は無く、敵司令官も投降しています。中尉の能力に頼る必要はありません」
「だそうだ、中尉。別命あるまで待機だ」
「了解いたしました」
デューリング少佐の言葉をホイアー中佐が補強する。とりあえずその辺で待っていれば良いらしい。その間にお昼にしようかと思っていたら、ホイアー中佐がちょいちょいと手招きしてきた。
「後で話がある。余計なことはせずに大人しく待っていろ」
「はい」
今度は何だろうね?
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