目的は海底火山

 相模湾に引きずり込まれた、というか諸共沈みゆくムラシンガーとセントーA。海底の急斜面に沿うようにして、深く、深く。


「てめぇ! 何のつもりだ!?」


 流石に昭が声を上げた。セントーAは身体を拘束されているので、それぐらいしか出来ることがない。


「ちょっと付き合ってもらおうと思ってね。良い武器持ってるじゃないか!」


 海中であるのにムラシンの声は明瞭だった。「音」が伝わる媒体を空気から海水に変更して、わざわざ昭に伝えようとしている。


「武器? 足のこれか?」

「そうさね。随分見事にしてやられたよ。やられた分、協力してもらうよ」

「なんだ、すりゃあ!!」


 昭は吠える。吠える事しか出来なかった。


                ~・~


 指揮所もまた打つ手を無くしていた。何しろ次の行動の指針となるべき情報がさっぱり入ってこない。情報機器が仕事をしていたとしても、海中からはデータを送れない。


 それに例え情報が送られてきていたとしても、やはり出来ることは無いだろう。海中装備の必要性などとは、しげるでさえ想定外なのであるから。


「『汎宇宙公明正大共存法』の運営に連絡を取ることは出来ませんか?」


 そんな状況の中で、プラカスは冷静だった。


「僕は出来ません。手段すら見当がつきません」


 プラカスの問いかけに、サヒフォンが念の入った答えを返す。


「では、あくまで参考意見で結構です。現状はすでに引き分け再試合が適当だと思うのですが」

「その点は……」


 言い淀むサヒフォン。そしてそれが答えでもあった。

 サヒフォンであっても、この状況に明確な答えを見出せないようだ。


「要するに昭はまだ戦ってるってことよね?」


 重苦しくなった雰囲気の中、篁があっけらかんとまとめてみせた。未だに運営からの「音」が聞こえてない以上、戦闘は続いていると割り切るべきなのだろう。

 そしてそれが前提なら、昭が戦っていないはずはない。


 ――つまりムラシンガーもまた抵抗しているという事になるのだが。


「……とにかく潜水艇を向かわせましょう」


 篁の指摘で場が改まったと判断したプラカスが指示を出した。しげるもそれに頷く。


「確かに、情報は必要だな」

「いえ、情報ではなくミスター昭の救出です。セントーAの中でどれだけ酸素がもつのか。そもそも水圧の問題もあります」


 失念していたわけでは無いのだろう。目をそらしていただけ。

 海の中はそもそも人が生息できる場所では無いということに。


             ~・~


 巨大ロボ達はさらに深く潜航していた。すでに陽の光も乏しい。

 だがこの時、昭は海底にも僅かな光源を見つけていた。


「海底火山ってやつか」


 と、昭が口に出した瞬間、主導権を握るムラシンガーが海底火山に向けて速度を上げる。ここまでムラシンガーが沈み続けていた目的は海底火山のようだ。

 昭はそれを察し、同時にムラシンガーの狙いも察する。


「海底火山でセントーAを溶かしちまおうって肚か!」

「さぁねぇ! 何でも親切に教えて貰えると思ってるのかい?」


 セントーAは力を込めてムラシンガーを振りほどこうとする。だがそれは初めから間違った選択であった。ムラシンガーはセントーAに絡みついてるのではない。事実上一体化しているのだから。


 この状態から脱出するためには「手」が必要なことは明白だが、それは今更だし無いものねだりだ。

 そうなると――


 グゥオングゥオン……


 「カッターキック」で何とかするしかない。水圧に逆らいながら刃が回転を始めた。 そう。こうなっては自分を傷付ける覚悟で刃を振るうしかない。


 右足の膝から先は比較的自由であるので、目一杯膝を畳めばムラシンガーのボディに届く可能性は確かにある。

 しかし昭の狙いは違った。


 海底に到達するタイミングで、勢いよく右足を振り回したのである。こうなれば狙いは明らか。海底火山から漏れ出している溶岩マグマを何とか利用しようとしているのだ。


「あんた! なにやってるんだい!?」

「お前の狙いも似たようなもんだろうが!!」


 わざわざ海底まで沈んできたのである。ムラシンガーの狙いが海底火山にあることは間違いない。となれば昭の言うように、どうにかして溶岩を使うつもりなのだろう。


 互いに決め手に欠けた攻撃方法しかない状態なのである。勝敗を決するためには、何とかして相手にダメージを与えなければならないのだから。

 すると昭の狙いは、ムラシンガーが使用しようとしている溶岩を横取りするような思惑があるのかもしれない。


 高熱によって揺らめく海水。「湿度」などという計測に意味が無い環境だ。世界全てが揺らぐ、揺らめく。そして一気に気化したことで水蒸気が爆発する。

 このような変化をもたらしたのはムラシンガーなのか。それともセントーAなのか。


 揺らめく世界の中、新たな光源が増えていることに気付くものはいない。

 溶岩のすぐそばに淡い灯のような幽かな光が確かにある。それは一体何だったのか。


 この時、確かなことは――


「――いいぜ、セントーA」


 昭とセントーAが会話していた。

 セントーAが何事かを訴え、それを昭が了承している。


 ゴボォ!!


 かさぶたを剥がすように、海底がめくれる。晒される溶岩。

 そして二体は溶岩の海へと、その巨体を投じた。

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