「侵略」のカタチ
再開された昭対ムラシンの殴り合い。それは全くの泥仕合で「投げ飛ばせばいい」と嘯いていた昭の宣言はどこに行ったのか。
公園での殴り合いで、戦略性というものは打ち止めになってしまったのか。
少しでもマシな部分を探すなら、この
前回の戦いで見られた侵略ロボ――ムラシンガーの特性はそのままらしく、攻撃でも防御でもそれが効果的なものにはならないままなのは変わらないらしい。
変化は前の戦いよりは勢い良く殴りかかってくる、ぐらいなものなので昭が冷静になれば、さばくことは難しくはなさそうだ。
ただ、その条件はムラシンガーも同じことだ。以前はセントーAの攻撃を漠然と受け止めていたが、今はムラシンが合身している影響なのだろう。敏捷性が増している。
セントーAの攻撃を全てさばく、とまでは行かないが丁寧に受けの態勢を取っていた。
公園で味わった昭の戦略を警戒しているのだろう。元々、防御に関しては軟性ボディのおかげで深刻なことにはならなという強みがある。
であるならば、戦い方はまず慎重な受け身という戦略に落ち着いた、という事になるのだろう。
テンションの上がったままの昭。そしてそれを受け続けるムラシン。
巨大ロボの対戦はまずこういった形で始まった。
~・~
その頃、指揮所では落ち着きを取りもどすべく、プラカスはここ数日の考察の成果を説明していた。
無論、ロボ戦はしっかりモニターした上でだ。
昭のテンションの高さは様子を窺うまでもなく明らかであったので、それが落ち着くまでは指示しても無意味だと割り切ったのだ。
それならしげるの妄言と、昭の無茶な搭乗で浮き上がった職員たちの心を落ち着かせた方が良い、とプラカスは判断したのである。
それに先ほど南から伝えられた「侵略されるとろくなことにならない」という報告と、プラカスの考察を重ね合わせると、心を落ち着かせる以上に、改めて気を引き締めることが必要になるとの考えもあったようだ。
プラカスはまず異星人の狙い、その考察を説明した。
しげるはそれを聞くと、ハゲ頭を光らせながら口の端を捻じってみせる。
「水……か」
「ええ。今回の異星人が狙っているのは『水』が一番蓋然性が高いと推測されます。そのために海で調査をしていたと考えられますから。さらに実際に戦う場所との利便性、相模湾の深さもまた調査に適していたのではないかと」
「なるほど。その可能性はあるな。恥ずかしながら私はこの方面の『教養』が乏しいのだが『スピルバン』の敵組織も、そういった狙いがあったはずだ」
「――マーラー帝国ですね。敵組織の名称は」
そこで南が指揮所に到着した。いきなり会話に加わることが出来たのは、二人のやり取りが施設全体に流されていたからである。
南が来たという事は、当然その後にサヒフォンと篁もいた。
戦術輸送機をどうにかして着陸させて、その後超特急でここまで送られてきたようだ。かなりの早さであり、当たり前にそういった段取りは出来上がっていたのだろう。
つまり昭の無茶な搭乗は必要なかった可能性は高いわけで……
そして残された一行にもイレギュラーは発生している。サヒフォンの同行には対応できたが、ウェイトレス姿の篁の破壊力は職員全てを蹂躙したのである。
そのせいで機能するはずのセキュリティがヒューマンエラーでガタガタになり、それもまた、南たちがこれほど早く指揮所に辿り着けることが出来た理由だった。
「おお、確かそんな名前だった。君は特撮についても『教養』豊からしいな」
「全然です。名前を知っているだけ。あと地球の水を狙っているという設定があることを覚えていただけです。結局、どういう終わり方をしたのかも知りませんし……」
「時空戦士スピルバン」という特撮の設定については、しげると南のやり取りでおおむね理解出来たのだろう。
それに加えてプラカスがネット検索の結果をモニターに表示している。
「種族の特性、さらに部品洗浄に水が必要という設定ですか。なかなか考えられていますね。私が考察の助けとしたのは侵略ロボの特性です」
「特性、とは?」
続けられるプラカスの説明に、南が応じた。
しげるに話し相手を任せるよりは良いだろう。
「あの軟性は水分を感じさせます。しかしそれ以外に使用できないのでは? つまり母星にそういった利便性の高い水が無い。そこで地球に目をつけた」
「それで海の『調査』に結び付くわけか。適しているかどうか。あるいは海で補給している可能性もある。よくは知らんが海洋深層水とやらも関係あるのかもしれん……アストロガンガーとは真逆なのだが」
アストロガンガーは“生きている金属”なので錆に弱い。つまり海水にも弱いという設定になる。
「で、でもですね。侵略ってそういうものでしょうか? 何かあっているような、間違っているような……」
地球人類を従属させる。この辺りが南が考えていた「侵略」の形なのだろう。
前回サヒフォンが示した「侵略」は、こういった南の捉え方と、さほどのズレは感じられなかった事は確かなのだが――
「――で、どうなの?」
篁が横にいるサヒフォンに尋ねた。
南の疑問を解決するには確かにそれが手っ取り早い。
指揮所の視線がサヒフォンに集中する。
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