悪役令嬢が俺の部屋に転生してきた〜元悪役令嬢と過ごす甘くて強引な生活〜
小狐ミナト@ぽんこつ可愛い間宮さん発売中
プロローグ
俺は、生まれてこの方ずっと「いじられ役」をさせられている……いや、いじめられっ子だ。
いわゆる「チー牛」なんてバカにされるようなそんな人間である。
そんな冴えない俺の最近のストレス発散は、女向けの漫画で最近流行っている「ざまぁ系」のざまぁ部分だけを読むことだ。
俺をいじめていたり蔑んでいるようなカーストトップの女たちが無様にザマァされる様子を見るのがこの上なく楽しいのだ。
スカッと系は陳腐でバカっぽく、なんなら顔芸もあればとてもいい。面白い娯楽だ。
「<甘い蜜は公爵様と>、ランキング1位か。これ、広告で見た奴だ。確か、イケメン公爵が俺と同じジンという名前だったんだよなぁ。ざまぁシーンまで課金してみるか」
よくある西洋風異世界転生もの。純粋なヒロインとそれを虐めるわかりやすい悪役令嬢。この悪役令嬢、美人なのに醜い悪役顔で広告がバズってたっけ。
「ジン〜、あんた塾のこと決めたの? お姉ちゃん、夜のバイトに行くからちゃんと進路の事考え解きなさいよ」
「うぃっす」
「もー、うちはお父さんもお母さんもいないんだからちゃんとしなさいよ。行ってきます」
俺と5歳離れている姉のエマは絵に描いたような秀才で奨学金で大学に通いつつ、父と母の遺産をやりくりして家計を支えている。俺と違って美人で性格もいい。ちょっと小うるさいけど自慢の姉貴だ。
「いってら」
姉を送り出して鍵を閉め、キッチンにあったカップ麺にお湯を入れる。そのままソファーに寝転んでスマホを眺める。
悪役令嬢マリアンヌ・ド・ロージェが断罪されるシーンまで漫画をすっ飛ばし、そのシーン付近でゆっくりと読み込む。
『ワタクシは悪くないわ! その女が!』
泣いても喚いても、ジン公爵はヒロインを庇う。ヒロインはマリアンヌが罪を犯した証拠を突きつける。
『いやよ! 死刑なんていや!』
このマリアンヌという悪役令嬢、広告より可愛い。少し可愛いのでせっかくのザマァシーンが台無しである。真っ赤で胸元の開いたドレスもエロい。その上、いきなり死刑なんて、生き急ぎすぎだろ。どうした作者。
マリアンヌが処刑台に連れていかれるシーンを読んでいたら、俺は不意に眠気に襲われた。カップ麺入れたのに、なんだこれ。
***
『荒川ジンさん。幾千億の世界の中から選ばれし救済人よ。救われない魂を貴方に預けます。彼女をよろしく頼みましたよ、準備は整えました』
そんな声とともに見えたのは、先ほどまで死刑台に上がっていた悪役令嬢マリアンヌ・ド・ロージェだった。
死刑台の生々しい背景がゆっくりと歪み、変わっていく。
「は……?」
変わった先は俺の部屋。
倒れているマリアンヌ・ド・ロージェの真っ赤なドレスは俺の通う高校のセーラー服に変わる。眠っている彼女の傍らには在留カード、パスポートなどの現代の身分証明証、さらにはジンが通う学校への入学届が散らばっていた
——準備を整えましたってそういうこと⁈
『彼女がきっと貴方を助けてくれますよ。あぁもう時間だわ。目を覚ましなさい、荒川ジンさん。貴方と彼女がきっと幸せになりますように』
***
伸び切ったカレーヌードル。
冷や汗と、おかしな夢。
俺はあり得ないと思いつつも部屋へと向かった。
「まさかな……」
扉を開けると、そこには夢で見たのと全く同じ光景が広がっていた。と同時に彼女も目を覚ました。
薄めの金髪に薄めの青い瞳、ちょっと意地悪な吊り目だが超絶美人。不釣り合いな日本のセーラー服を身につけている。正真正銘、<甘い蜜は公爵様と>の悪役令嬢マリアンヌ・ド・ロージェだった。
「君がワタクシの……」
ついさっき漫画の中で見たものとは様子が違う。別格に綺麗で、美しく儚い。彼女の細くて白い手が俺の手を掴んだ。ほのかに薫る薔薇、甘い女の子の匂い。
「えっ……」
「女神様が叶えてくださった。ワタクシにチャンスをくださった。君は?」
「荒川……ジンです」
「アラカワジン……? そう、よろしくお願いいたしますわ。ワタクシ、マリアンヌ・ド・ロージェ。ロージェ家の令嬢……じゃなかった。交換留学……生ですわ! おフランスから来ましたの! ということにしてくださる?」
どうやらマリアンヌは女神様? から与えられた設定を貫こうとしているらしい。
「わ、わかった。えっと……俺はどうすれば?」
「と、とにかく女神様とのことは内緒ですわよ! ワタクシはこの世界で幸せに生きることになったのですわ! ジン。よろしく頼みましたわよ」
こうして、引っ込み思案で冴えない俺と元悪役令嬢のマリアンヌさんのおかしな同棲生活がはじまったのだ。
***あとがき***
お読みいただきありがとうございます!
強火・グイグイヒロインとの学園ラブコメになります。
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