千文字のラブストーリー
九戸政景
第1話 距離
「……あ」
ある日の事、ふとテレビをつけると、そこには一人の新人アイドルの姿が映っていた。そのアイドルと俺は幼馴染みで、ソイツは昔からアイドルになりたいと言っており、歌やダンスの練習はもちろんしていたが、自分なりの挨拶なんかも考えては俺や自分の両親に見せては、日々自分らしいアイドルを追求するような奴だった。
そして、高校生になった時、とある事務所の社長にスカウトされ、その事務所に所属したと思ったら、その社長の意向ですぐにライブが行われた。社長曰く、実力は充分だったから、早くお披露目したかったとの事だった。そんな事で大丈夫かと思ったが、ソイツはそのライブを見事成功させ、アイドルとして華やかなスタートを切った。
その後もライブ以外に歌番組やバラエティー番組など様々なところから引っ張りだこになり、今では
「……ほんと、遠い存在になった感じがするよな。昔はいつも隣にいたのに、今では何kmも離れた感じがするよ……」
本当はそんな事は無いのだが、画面の向こうで笑顔を振り撒きながら歌って踊るソイツの姿を見ていると、そんな気持ちでいっぱいになるのだった。
「……でも、いつまでもそんな事を思っていられないし、早く仕事をしないと。俺はアイツみたいな子を最高のアイドルにするためにこの仕事を選んだんだし。それに、早く仕事を片付けないと──」
その時、玄関の開く音が聞こえ、それと同時にとても元気な声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、ただいまー!」
「……おかえり。後、仕事中はお兄ちゃんじゃなく、マネージャーと呼べ」
「はいはい。あれ、伯父さ──社長は?」
「社長ならテレビ局のお偉いさんとの話し合いだ」
「そっかあ──って、テレビでやってるのこの前のライブの映像?」
「ああ。なんとなくテレビつけたらやってたんだ」
「ふーん……」
ソイツはそう言いながらテレビに近付くと、目の前の自分の姿をじっと見ながら何事かぶつぶつと呟きだした。
「またライブの反省点を探してるのか?」
「うん。私の昔からの夢を叶えるためには必要な事だからね」
「昔からの夢って……アイドルになる事だろ? だから、それを知っていたお前の伯父さんはこの事務所を立ち上げて、アイドル志望のお前をスカウトした上、アイドルのマネージャーを目指していた俺に声をかけてきたわけだし」
「……ふふ、なりたいのはただのアイドルじゃないんだよ」
「じゃあ、何だよ?」
「昔から応援してくれてる最初のファンだけを招いたライブで最高のパフォーマンスをする事、そしてそのファンだけのアイドルになることだよ」
「え、それって……」
ソイツの言葉に驚いていると、ソイツは俺の顔を見てにこりと笑った。
「ふふ……その時にはチケットを手渡してあげるから、楽しみにしててね」
その笑みを見た瞬間、俺とソイツの距離は昔から変わっていなかったのだと感じ、その事に安心して俺も笑みをこぼした。
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