第43話 学園長

 これまでまったく生徒の前に姿を現さなかった学園長が俺へとあてた手紙――その内容は次の日の授業後に学園長室へやってきてほしいという短いものだった。


「随分と勿体ぶった誘い方をする人だな」

「手紙だと形が残りますからね。証拠隠滅もできませんし」

「なんで学園長が生徒へ証拠隠滅をしなくちゃいけない手紙を送るんだよ……」


 なんだかいろいろと腑に落ちない展開だ。

 回りくどいというか……急に呼び出さなくてはいけない用事でもできたのか?


 そもそも学園長ってあんまり良い印象ないんだよな。

 結局のところ、クレイグやウォルトンといった連中を野放しにしていたわけだし。

 

 いずれにせよ、真相はその時までお預けということか。



  ◇◇◇



 翌日。

 コニー、クレア、ルチーナの三人には待機してもらい、手紙に記されていた通り、俺ひとりだけで学園長室を訪れる。


 そこは数ある校舎の中でもちょうど学園のど真ん中に位置している通称・教職員棟。


 その名の通り、教職員の寮だったり専用食堂だったり研究施設だったり、とにかく学園で働く者にとって必要な機能が備わった場所だ。


 基本的に学生はあまり立ち寄らない。


 用があるとしても、一階にある職員室かその隣にある追試などの会場として使われる補習室くらいだろう。


 しかし、俺がこれから向かうのは最上階にある学園長室。

 

 入ってすぐにある受付に用件を伝えると、すぐに階段で上にあがるよう指示される。

 エレベーターみたいな乗り物があれば楽なのにと文句を垂れつつも、逆にそれをうちの商会で独自開発すればバカ売れするのではないかと新しいビジネスヒントへとつなげていた。


 そんなことを考えているうちに目的地へと到着。


 ノックをして返事を待ってから入室すると、黒檀の執務机に両肘を置き、ジッとこちらを見つめる老婆の姿があった。


 彼女が――この学園のトップか。


「こうして面と向かってお話をするのは初めてですね、ウェザレル学園長」

「うむ。よく来てくれたね、レーク・ギャラード」


 ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべるウェザレル学園長。

 まるで孫の来訪を待ち望んでいた祖母のような顔つきと声色だが……油断はできない。


 当時の面影はほとんどないが、元魔法兵団所属で歴代でも五指に入る実力者とされている。

 風魔法を得意としていたことから付いた異名が「疾風のウェザレル」で、その名を耳にしただけで降参する組織もあったのだとか。

 

 まあ、実際はどれほどの実力者であったのか知る術はないが……ともかく学園のトップに君臨するくらいなのだから相当な実力者であるのは間違いない。


 あと、もうひとつ気になるのは――


「あの、学園長……ひとつよろしいでしょうか」

「なんだい?」

「なぜトリシア生徒会長がここに?」


 当たり前みたいな顔して学園長の真横に立っているトリシア会長。

 俺から指摘を受けても「それが何か?」みたいな顔をしながら首を傾げる。

 くっ……あざといポーズをとりやがって!


「彼女は私が呼んだのさ。今回の件に欠かせない子だからね」

「学園長が?」


 まあ、それはそうか。

 いくらトリシア会長が御三家令嬢だからって、この場へ強引に乗り込んでくるなんてことはできない……はずだ。うん。自信ないけど。


「さて、それでは本題に入ろうかね」


「コホン」とひとつ咳払いを挟んでからそう告げたウェザレル学園長は静かに語り始めた。


「まずは決闘の勝利おめでとう」

「あ、ありがとうございます」


 いきなり祝福されるとは思ってもみなかったのでちょっと意表を突かれた形になった。

 正直、決闘の結果を受けてネチネチと嫌がらせをされても文句は言えないなぁと覚悟をしていたくらいだったので拍子抜けしたって感じだ。


 何せ、相手はあのメルツァーロ家。

 学園とはいろいろと深い間柄だっただけに、もしかしたら退学かって心配していたくらいだったのだが、放たれたのがまさか労いの言葉だったとは。


「今回だけじゃなく、あなたは裏闘技場、クレイグ先生の不祥事、悪党に占領されたガノスの開放……さまざまな場所で己の実力を存分に発揮し、成果を挙げてきた」

「恐縮です」


 真正面から言われて嬉しくないわけがない。

 ただ……ちょっと不気味な感じがするな。


「特に学園絡みの件は本当に感謝しているよ。どちらも介入しづらくて対処しきれないところがあったからね」

「学園長でも、ですか?」

「まあね。ただ、私も目が覚めた。これからはもっと毅然とした態度で挑まなくちゃいけないねぇ……生徒であるあなたに教えてもらったわ」


 反省を口にする学園長。

 まあ、いろいろとしがらみがあるのは間違いないのだろうけど、生徒としてはその辺きっちり対応してもらいたいものだ。


 その後、学園長はひと呼吸を置いてから本題を話し始める。


「さて、そんな君の頑張りに学園は敬意を表し、近々やってくる夏の長期休校では仲間たちと一緒に南の島のバカンスへ御招待しよう」

「バ、バカンス!?」


 それはつまり……みんなの水着を合法的(?)に眺めることができる夢のようなプランだろうか。


 なんだか一気に楽しそうな雰囲気が出てきたぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る