第38話 レークVSウォルトン

 ついに迎えた決闘当日。

 

 場所は専用のコロシアムが学園の敷地内にあって、開始の一時間前だというのにいい席を取ろうと生徒が殺到していた。


 決闘が行われる日は授業の休みの日になるので見物客も多いらしい。


 仮に会場へ入れなくても、裏闘技場で使用されていた物と同じ水晶型の魔道具を使用することで、遠く離れていても観戦が可能だという。


 なんでも寮のロビーに設置されており、そこで決闘を見る者もいるという。

 ちょっとしたパブリックビューイングって感じだな。


 ともかく、これでハッキリしたのは――今回の決闘の結果が嘘偽りなく全生徒に知れ渡ることになるという事実だ。


 ウォルトンは敗北などまったく想定していないのだろう。

 

 確かに、クレアの配合した魔草薬は医療界に革命をもたらしたと言って過言ではない物ばかり。

 中には戦闘に転用できる魔草薬まで存在している。


ヤツはそれを駆使して戦うつもりだ。


 ちなみに、学園では定期的にこのコロシアムを使用して実戦形式の鍛錬をしているそうなのだが、そこでの勝敗をもとにランキングを発表している。


 それによれば、ウォルトンは百人以上いる三年生の中で学年五位。

 ゴリ――トリシア会長が二位なので、それを基準にするとまあまあ強い方か。


 まあ、そのランキングも正しい評価とは言えないな。

 実際に魔草薬を作っているのはクレアなわけだし。


「レーク様、まもなく会場入りの時間です」

「ああ、分かった」


 コロシアム内にある選手控室でのんびりティータイムを満喫していた俺は、最後にルチーナお手製のクッキーをひと摘まみしてから立ち上がる。


「またお菓子作りの腕を上げたな、ルチーナ」

「お褒めいただき光栄です」

「なんか……こんなにまったりしていていいんですかね」

 

 試合前にリラックスしていたのだが、どうもコニーは不満――というより、心配しているようだな。


「俺が負けると思うか、コニー」

「それは万にひとつもないと思うけど……それにしたってこう、ほら、ね?」

「言いたいことは分かる。だが、今頃焦ったところで何も変わりはしない。それよりも問題なのはクレアだ」


 ルチーナに調べてもらったのだが、クレアは会場入りしていないらしい。

 まあ、何かしら理由をつけてウォルトンが阻止しているのだろうが、彼女にもこの戦いの結末が届いているかどうか、それが少々不安だ。


 今回の決闘の様子が流れる水晶型魔道具は、すでに届けてある。

 あとは彼女がそれを見て、俺の勝利に対してどう行動するかだな。


 それに……俺の方にも仕掛けはある。


「さて、ではボチボチ会場入りするとしようか」

「はい」

「頑張ってください、レーク様!」

「任せておけ」


 俺たちは控室を出ると、専用通路通ってコロシアムの中心部――決闘の場へと足を踏み入れる。

 すると、埋め尽くされた観客席から歓声があがった。


「待っていたぜ、レーク!」

「期待しているぞ!」

「派手にやっちまえ!」


 意外にも、男性からの歓声が多い。

 

そうか。

 俺を応援しているのはウォルトンに恋人を奪われた者たち……あれは歓声というより、怨嗟から来る叫びってわけか。


 どうやら、俺が思っている以上に恨みを買っているらしい。

 ここでヤツを派手にぶちのめせば、彼らからの信頼も得られるというわけだ。


 こいつは想定外のプラス効果だな。


 男子生徒の野太い歓声が止んだ後は、逆に女生徒たちの黄色い歓声がコロシアムを包み込んだ。


「ウォルトン様ぁ!」

「今日も素敵ですわぁ!」

「こっち向いてくださぁい!」


 もはやアイドルのコンサート会場だな。


「よく逃げずに出てきたな、レーク」

「その言葉はそっくりそのままお返ししますよ」

「何ぃっ!」


 相変わらず煽り耐性が弱いなぁ。

 ……でも、まだ足りない。


 あんたにはこの大歓声の中で醜態を晒してもらうぞ。

 そして、必ずクレアを自由にする!

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