第33話 相談事

「前に会ったのはもう何年も前か……元気そうで何よりだ」

「先輩の方こそ、先ほど魔草薬の功績を拝見させていただきましたが、どれも素晴らしいものばかりですね」

「おまえだって随分と派手に活躍しているそうじゃないか。聞いたぞ。非合法の裏闘技場を潰したり、交易都市ガノスの危機を救ったってな」

「あれはたまたまですよ。運がよかったのでしょう」


 互いに建前を押し出して牽制し合う。


 俺は当然ながら、向こうも今口にしたことは本心じゃないだろう。

 こちらの腹の内を探っているのか?


 数年ぶりに顔を合わせてやりとりをしたが……ウォルトン・メルツァーロは確かに以前よりも成長している。


 ――だが、それは「姑息さ」という点のみだ。


 本当に新しい魔草薬をバンバン生みだしているのか、それに関してはまだまだ調査が必要だな。

 ……鎌をかけてみるか。


「そういえば、クレアとは最近会っていますか?」

「……なぜだ?」


 少し間があったな。

 もう少し詰めてみるか。


「実は先日、学園で数年ぶりに再会して話したのですが、どうも近頃は彼女に避けられているようで……何か失礼な態度や物言いをして不愉快な思いをさせてしまったのなら謝りたくて」

「それなら心配には及ばない。数年ぶりの再会で気恥ずかしいんだろう。俺からもレークが気にかけていたと伝えておくよ」

「ありがとうございます」


 自ら話を完結させ、これ以上は追及させないという流れに持っていく。

 

もしかしたら、俺と会ったことでクレアに心境の変化でも生まれたか?

 今まではいいように操れていたが、少しずつそのレールから外れるような言動が現れ、俺の様子を探りに来た――それが一番しっくりくる現状の分析結果か。


「じゃあ、俺たちはこれで失礼するよ」


 それだけ言い残して、ウォルトンは去っていく。

 特に用事もなく声をかけ、実りのない会話だけをして退場……ますます様子見に来たって線が濃厚だな。

 おまけにクレアの近況については何も分からずか。

 

「レーク様……あの人めちゃくちゃ怪しいですよ」


 ウォルトンの背中をジト目で見つめながらコニーがそう言う。


「何か根拠があるのか?」

「乙女の勘ってヤツですよ!」

「……そうか」


 ドヤ顔で言われてもなぁ。

 つまりただの勘だし。


「ご注意ください、レーク様。こういう時のコニーさんの勘はよく当たりますので」

「そ、そうなのか?」

「はい。先日もお茶請けの内容を伝えてもいないのにまるで予言のごとく言い当てられましたので」

「えへへ~」


 それはなんかベクトルが違う気がするけど……まあ、ふたりが楽しそうだからどうでもいいか。

 ……それに、ヤツが怪しいという点に関しては俺も同意見だ。


 ここはやはり、あの方に協力を仰ぐ必要がありそうだな。


「ルチーナ。確かトリシア生徒会長はもう戻ってきているんだったな」

「はい。今日から授業に参加しているようです」

「ならば……会いに行こう」


 できれば俺たちだけでの解決を望んでいたが、せっかく御三家とのつながりもできたのだ。

 それを有効利用させてもらおう。

 会長もクレアを気にかけていたみたいだし、悪い反応は返ってこないだろうからな。



 ◇◇◇



 授業後。

 生徒会室へと足を運んだ俺たちは早速トリシア会長にこれまでの経緯を語った。


「わたくしが実家に戻っている間にそのような事態が……これで書庫へ入れなかった理由がハッキリいたしましたわ」

「会長のか――華麗なパワーをもってしても開かなかったのですか?」

「今、『怪力』って言いかけました?」

「まさか。とんでもない」


 危ねぇ。

 もうちょっとで本音が口をつくところだった。


「扉にかけられている施錠魔法が大幅に強化されていましたの」

「一体誰がそんなことを……」

「図書館の司書に話を伺いましたが、はぐらかされるばかりで確信には至りませんでした。しかし、彼らの態度からおおよその予想はつけられますわね」

「……兄のウォルトン」

「えぇ。あのロクデナシの腐れ野郎が仕組んだのでしょう。クレアが誰かと接触するのを断つために」


 ……気持ちいいくらい容赦がないな、トリシア会長。

 ただ、それについては全面的に肯定する。


 あと、接触を断つ目的があるというのも俺の考えと一致していた。


「兄弟間の関係性も考慮すれば、その線がもっとも濃厚でしょうね」

「俺もそう思います。何かいい解決策はないでしょうか」

「……こればっかりはどうしもようもありませんわね」


 珍しく弱気を見せるトリシア会長。


 相手のメルツァーロ家は公爵家でもある御三家との関係も根深い。

 関係悪化となったら、会長の家での立場が危うくなってしまう。


 それはギャラード商会も同じだ。

 メルツァーロ家のご機嫌を損ねれば、今後の取引に大きな悪影響を及ぼす。

 そうなった際の損害は計り知れない額となるだろう。


 ――だが、それであっさりと手を引けるはずもない。


 あの傲慢なウォルトンを引きずり下ろし、クレアが次期当主となってくれた方がみんな喜ぶはずだし。


 とりあえず、俺たちはもう一度図書館へ行ってクレアの説得を試みることにしたのだった。

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